TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO:MF.jp
仕事柄、挨拶代わりの会話のなかに必ずといってよいほど、「いま、おすすめの日本車は何ですか?」と聞かれることがある。答えに困ったときには、マツダやスバルなら間違いないね。と話してはみるものの、最近になって自問自答することが多くなってきた。
確かに、マツダは間違いないと思う。出るモデルごとに進化の痕が窺える。しかし、スバルに関して振り返ってみると、この直近ではフォレスター以降大きな動きはないし、自慢のシンメトリカル4WDシステムや新プラットフォームの展開も停滞気味。レガシィはすっかりアメリカのクルマになってしまい、身近なモデルといえばモデルチェンジしたインプレッサか旧プラットフォームを使っているレヴォーグくらい。選択肢の幅も少ないし、新鮮味も薄い。そういえばすっかり試乗もご無沙汰……というわけで、今回はワゴンに注目をして、レヴォーグに乗ることにした。
レヴォーグは14年4月に国内専用ワゴンモデルとしてデビュー。大きくなってしまったレガシィの事実上の後継モデルとして用意され、当時旬だったダウンサイジング過給エンジンを排気量違いで2.0ℓと、新開発1.6ℓ、ともに直噴ターボエンジンをラインアップしている。組み合わされるトランミッションは、リニアトロニックと呼ばれチェーン式のCVT。スバル肝いりの新アイテムを盛り込んでいることで、レガシィの後継モデルとして不足なし、が当時の第一印象だった。
もっとも後方にラウンドさせたルーフラインや、オーバーハングを切り詰めたフォルムはいかにもは走りにこだわったスポーツワゴンといった印象は持つものの、荷室の大きなレガシィユーザーにとって理解が得られるかは疑問だった。実際、リヤゲートを開けてみると左右の広さは気にならないものの、立方体のスペースをイメージさせるレガシィに対してちょっといびつ。上下方向が苦しめだ。
前置きが長くなった。ひと言で言えば走り好きにとっては申しぶんないが、ワゴンの機能が少しばかり犠牲になってしまっている点だけが気になった。
今回、試乗したモデルは、そのなかでもっとも中核となりそうなGT-Sアイサイトだ。170ps/250Nmの出力を持つ1.6ℓ直噴ターボエンジンとリニアトロニックとの組み合わせに変わりはなく、4WDシステムは2.0ℓモデルのVTDとは異なり、センターデフを持たないアクティブトルクスプリットタイプ。マルチプレートを介して前後駆動力配分を行なっている。足元にはビルシュタインダンパーが採用され、シャシー周りは2017年に大幅改良が行なわれている。
ドライブモードは2.0ℓモデルの3モードに対して、IとSモードのふたつ。Sモードではアクセルに対する応答はよい半面、ギヤ比キープが長いために、エンジン音が気になる。街中ではエンブレは弱いもののIモードで走る方がエンジンに対するボディの反応がマイルドになって動きは落ちつく。エンジンブレーキを使いたいときや、次のダッシュ力がほしいときにはSモードが効果的といえる。
高速ドライブに入ると同様に前車追従がしやすいのがSモード、マイペースで走りやすいのがIモード。アイサイトを基本とするツーリングアシストを使ったときもシステムは反応しているものの、パワーが瞬時についてくるか否かで、その評価は分かれる。ドライバーが自分で追従しているときには、トルクのあるところを常にキープしようとしているからIモードでもすぐに追従していけるが、システム(アイサイト)だとある程度時間がたってしまうとエンジン回転は落ちついてしまい、加速時のレスポンスが悪い。かといってSモードではエンジン回転が高くなってしまいがちと、最近のATと比較すると、ステップ比が大きく期待どおりの追従はなかなか難しかった。
走行性能的にはリヤに常にトルクが回っていてくれるためか、安定感は高く、かといって必要以上のトルクがかかっていないためリヤから不用意な入力や外乱からの乱れはない。直進時の安定感はステアリングの締まり感はあるし、轍などの影響も受けづらく、スバルの走りの良さを実感できたが、ノイズに関しては音圧自体は低くて気にならないものの、後席との会話には静粛性の高いクルマより少し耳を傾ける必要があった。
街乗りでの乗り味は以前乗ったときよりもカドがなく、とくにリヤからの突き上げ感は大幅に緩和され前後方向への細かな動きも減っている。17年のビッグマイナー時にボディ周りのアップデートが徹底的に行なわれた結果、室内への細かな振動やノイズの侵入が遮断され、フラットな乗り味になったことは確認済み。当時の印象はそのまま残っていて、ファーストインプレッションに間違いはなさそうだ。
それでも乗り始めて、ノーズがゆっくりと上下に動いたり、ボディが多少上下する点は、以前感じられていなかった点。
同様に発進加速時にソッと走り出そうとしているにもかかわらずクラッチミートが急な印象で小さな飛び出し感がついて回る。ノーズの上下動もここに起因しているようだ。以前もアクセルを戻したにもかかわらず、エンジンブレーキがかかりにくく、惰性で走ってしまう印象が残っていたが、アイドル回転領域のエンジン制御等はいまいちスッキリとしない。
渋滞のなかでは発進加速に身体がなかなか馴染んでいかない一方。足元の動きは時間とともにスムーズさを増していき、ノーズの上下動だけは気にならなくなってきた。
一方、扱いやすさとスポーツ性能との両立に手を焼いている一面があることも事実だろう。ワインディングのスムースな走りを生み出しているビルシュタインダンパーは速度領域や走り始めによっては反発感が出てしまっていたり、CVTはダイレクトさを生かせば街乗りではエンジン回転が落ちずらかったり、スムースにさせると空走感が出たり、苦労のあとが窺える。
実際、街乗りから高速まで多少のペースアップはあったものの、スムースに走ってきた割にトータル燃費は10.1km/ℓといまどきのCセグ輸入車よりも、見劣り気味。4WDであるがゆえの安定感を差し引いてみても国産車としてはつらく、日本車の魅力である高品質と高い経済性を考えたとき、もう一歩の工夫や進化が問われるところ。
現状考えられることは高速域で燃費効果が悪化しやすいCVTの対応は必要だろう。回りを見渡せAT回帰が多く行なわれているなか、スペースの事情は理解できるものの、次の一手が待たれる。
トヨタとの関係強化が始まるなか、HV対応などの動きに期待したい。そうなったとき改めて、『スバルを選んでおけば間違いなし』と胸を張れそうだ。
スバル・レヴォーグ 1.6GT-S EyeSight Advantage Line
全長×全幅×全高:4690mm×1780mm×1500mm
ホイールベース:2650mm
車重:1560kg
サスペンション:Fストラット式 Rダブルウィッシュボーン式
駆動方式:フルタイムAWD
エンジン
形式:1.6ℓ水平対向4気筒DOHCターボ
型式:FB16
排気量:1599cc
ボア×ストローク:78.8×82.0mm
圧縮比:11.0
最高出力:170ps(125kW)/4800-5600pm
最大トルク:250Nm/1800-4800rpm
燃料:レギュラー
燃料タンク:60ℓ
燃費:JC08モード 16.0km/ℓ
車両本体価格:341万円
筒内燃料直接噴射(DI)
デュアルAVCS
室内長×室内幅×室内高::2005mm×1490mm×1205 mm