REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
オフロードバイクを可愛くデフォルメした独創的なスタイリングに、本格的なメカニズムを随所に投入したモデル「KSR110」。ミニサイズならではの機動力で、街乗り、通勤&通学、ツーリングまでもこなす、絶版となった今でも人気のマルチパーパスな1台だ。
コンパクトなボディながら、精悍なフロントフェイスを形成するヘッドライトカウル、レーシーなルックスを演出するボリューム感のあるシュラウド、跳ね上がったテール周りのデザインなど、ストリートに映える、シャープでエッジの効いたスタイリングが特徴。
フレーム・足周り・外観のベースは、2ストロークエンジンを搭載したKSR-Ⅰ(49cc)/ Ⅱ(79cc)。パワーユニットは、オフロード競技用モデル「KLX110」の4ストロークエンジンをベースとしている。
エンジンは空冷4ストロークOHC単気筒111cc。腰上部分(シリンダーヘッドとシリンダー)をフロントタイヤ方向にレイアウトした、スーパーカブ、モンキー、ゴリラなどのホンダ製モデルと同じ、“横型レイアウト”に設計。
最高出力は8.4馬力。低回転域から太いトルクを発生させるとともに、優れたスロットルレスポンスを発揮。吸排気の最適化とキャブレターのセッティングにより、排出ガス中の有害成分を抑え、静粛性を高めているのもポイントだ。
ミッションは、N→1速→2速→3速→4速へとシフトする、独特の「ボトムニュートラル式リターン」を採用。また、クラッチはスーパーカブにも採用の、左手の操作を省いた「自動遠心式(AT小型限定免許で乗車可能!)」を導入。ギアチェンジの楽しさを残しつつ、スタート時や変速時のクラッチ操作は不要として、イージーなライディングを可能としている。
足周りは、フロントサスペンションにインナーチューブ径Φ30mmの倒立型フォーク。リヤサスペンションは、スタビライザー付き角型スイングアームに、シングルショックを組み合わせた本格的なつくり。
オンロードパターンのチューブレスタイヤを装着した12インチのホイールには、ローター外径フロントΦ200mm、リヤΦ184mmの油圧ディスクブレーキを装備して、制動時の信頼性を大幅に高めている。
燃料タンクは7.3Lの大容量を確保。55km/Lという低燃費によって、給油の回数を低減。スピードメーターはホワイトパネル。表示を大きくして視認性を高めるとともに、ニュートラルやターンのインジケーターランプも見やすく配置している。また、キー操作で取り外しができるシート下には、ツールキットとMF(メンテナンスフリー)バッテリーを収納。ダブルシートやタンデムステップなど、タンデム(2人乗り)の走行機能を省き、乗車定員は1名のみ。
またチューニングにも耐えうる耐久性の高いエンジンや、前後ディスクブレーキや倒立型フロントフォークなど、ポテンシャルは極めて高く、贅沢な機能を与えられながらも、25万円前後というバーゲンプライスを実現したことも魅力の一つ。ライバル車のモンキーやエイプなどに比べ、低予算で、しかも容易に過激な走りを楽しめるのも特徴といえる。
生産はタイカワサキ。排ガス規制の厳格化によって、日本仕様車は2009年モデルをもって生産終了となった。
2018年7月に道交法が改正され、110ccスクーターや125ccスクーターなどの原付2種スクーターに乗車できる「普通二輪小型AT限定免許(以下、AT小型限定免許)」は、普通自動車免許を持っていれば“最短2日”で取得可能となった。
「AT小型限定免許=スクーター専用」というイメージが強いだろう。しかしこの免許は、原付2種のKSR110を始め、スーパーカブ110、スーパーC125、クロスカブ110も運転できるのがポイント。その理由は……
“AT限定”という言葉は、「ミッション(ギヤ)操作の有無」のことではなく、「左手でのクラッチレバー操作の有無」を意味するものだから。
そのため、KSR110、スーパーカブカブ110、スーパーカブC125などは、4速リターン式の変速機構ながら、クラッチレバーの操作を省いた「自動遠心式クラッチ」を採用しているため、AT小型限定免許で運転できる。
KSR110は、スポーツマフラー、ボアアップキット、マニュアルクラッチキット、スポーツミッションキット、強化型リヤショック等々、誰でも手軽に装着できる、専用ボルトオンパーツも各種ラインナップ。そのため、絶版後もカスタムベースとして非常に人気が高い。
■スポーツマフラー
ノーマルよりも“抜け”を良くすることで、潜在的なエンジンパワーを引き出すことが可能。ノーマルと同じ取り回しのアップタイプ、イメージが大きく変わるダウンタイプなど、様々なタイプがある。
■ボアアップキット
「もう少し(もっと)パワーが欲しい!」という人に最適。KSR110用は125cc、138cc、143cc、160cc、178cc、4バルブバージョンなどがある。
■マニュアルクラッチキット
左手でのクラッチ操作を省いたノーマルの「自動遠心式」を、「マニュアル式」に変更するキットもリリース。市販のクラッチ付きミッション車と同様、スポーティーでキレのある走りが体感できる。
■スポーツミッションキット
ノーマルのKSR110は、「ニュートラル・1速・2速・3速・4速」の順でシフトするボトムニュートラル式。これを一般的なスポーツモデルと同じ、「1速・ニュートラル・2速・3速・4速」の順で、しかもスポーティーなギアレシオでシフトできるキット。ノーマルのギヤ比を一部変更した4速ミッションに加え、5速クロスミッションキット、6速クロスミッションキットもラインナップ。
左手でのクラッチ操作を省いた「自動遠心式クラッチ」採用のKSR110をベースに、マニュアル式4速リターンミッションを採用した、スポーティーな「KSR PRO(プロ)」。
前後ホイールはKSR110とは異なる、スポーティーかつ軽量な12インチキャストを装備し、フロントカウルなどの外装も変更。なお、KSR PRO(プロ)をベースに、ダート用タイヤやアジャスター付きリアショックを備えた「KSRダート」もあり。「KSR PRO(プロ)」と「KSRダート」はタイカワサキで生産され、日本にも平行輸入されている。価格は30万円前後(2019年10月現在)。
≪KSR110との主な違い≫
・クラッチレバー付きのマニュアルミッションを採用
・下から1速-N(ニュートラル)-2速-3速-4速の「1ダウン3アップ式」の4段リターンミッションを採用
・最高出力を8.4ps→8.6ps、最大トルクを 0.83kgm→0.88kgmにアップ
・始動方式はキックスターターに加え、セルスターターを装備
・肉抜き処理を施した5スポーク型の12インチキャストホイールを採用
・フロントマスク等の外観を変更
・ホイールベースを1165mm→1170mmに拡大
・全長、全幅、全高、シート高を拡大
なお、ギアレシオはKSR110もKSR PRO(プロ)も同じ。
1速 3.000(36/12)
2速 1.937(31/16)
3速 1.350(27/20)
4速 1.087(25/23)
●KSR PRO(プロ)のSPEC
全長:1725mm/全幅:740mm/全幅:1020mm/ホイールベース:1170mm/シート高:750mm/重量:95kg/燃料タンク容量:7.3L/エンジン形式:空冷4サイクルOHC単気筒111cc/ボア×ストローク:53.0mm×50.6mm/圧縮比:9.5/最大出力:8.6ps/8000rpm/最大トルク: 0.88kgm/6000rpm/点火方式:CDI式/変速機:4速リターン/クラッチ:湿式多板マニュアル式/タイヤサイズ:前後100/90-12
国内仕様のファイナルモデル。価格は27万2000円(税込)。外装パーツのカラー変更の他、フロントフォークのアウター部もブラックカラーに変更された。