REPORT●大谷達也(OTANI Tatsuya)
PHOTO●BMW AG
※本記事は『GENROQ』2019年10月号の記事を再編集・再構成したものです。
「3世代目になって足まわりの考え方が大きく変わりましたね?」
新型MINIジョン・クーパーワークス クラブマン(JCW)の国際試乗会に同席したシャシー担当エンジニアのウルリッヒ・ルーエにそう指摘すると、次のような答えが返ってきた。「新しいMINIが誕生して20年近くが経ちました。つまりMINIもオトナになったのです」
端的にいって、最初の2世代に比べると、現行モデルはサスペンションストロークが大きく伸びてロールやピッチが明確に起きるようになった。個人的には、同じ前輪駆動プラットフォームを用いるBMWの意向でこのような方向に見直されたと捉えていたが、自動車のシャシーとしてはまさに正常進化で私はこの新しい方向性を歓迎していた。
ただひとつ問題なのは、短いホイールストロークが生み出すMINI特有の“ゴーカート・フィール”がこれにより薄れる恐れがあったこと。第3世代でブレーキ・トルクベクタリングを極端に多用するようになったのは、ストローク増大によって失われたアジリティを取り戻すためではなかったかと私は推測していた。
話してみれば、前出のルーエもブレーキ・トルクベクタリングは好きでないという。そこで、2年ほど前にMINIの担当となった彼は、ブレーキ・トルクベクタリングを抑える方向で新型のセットアップを修正。これにより失われるアジリティをキャンバー角の増大(0.5度)とトルセンLSDの搭載などで補うことにした。つまり、エレキ依存からメカニカルセットアップ重視の方向に大きく舵を切ったのである。
結果は、大成功だった。ステアリングの切り始め直後からノーズの向きが変わる特性を維持しつつ、トルクベクタリングによる不自然さを一掃。乗り心地はやや硬めながら、結果として様々な状況でも安心してドライブできるキャラクターを手に入れたのである。これには、ロールバーにプリテンションを掛けることでサスペンションの動き出しから初期のロール剛性を生み出す新しいセッティングも効を奏しているはずだ。
ロッキングファクター39%のトルセン式LSDは作動がスムーズなうえにコーナリング中も強力なトラクションを生み出す。ちなみに、このLSDはフロントアクスルに組み込まれるため、スロットルオンでオーバー傾向、オフでアンダー傾向となることも覚えておくといいだろう。
先代の231㎰から306㎰へと大幅なパワーアップを果たしたエンジンはレスポンスが良好で、トップエンドに向けてパワーが上乗せされていくような特性に仕上げられている。新型クラブマンJCWの「大人びたけれど俊敏さも失わない」方向性を心から歓迎したい。
【SPECIFICATIONS】MINIジョン・クーパーワークス クラブマン オール4
■ボディサイズ:全長4266×全幅1800×全高1441㎜
ホイールベース:2670㎜
トレッド:Ⓕ1553 Ⓡ1555㎜
■車両重量:1625㎏
■エンジン:直列4気筒DOHCターボ
ボア×ストローク:82×94.6㎜
総排気量:1998㏄
最高出力:225kW(306㎰)/5000~6250rpm
最大トルク:450Nm(45.9㎏m)/1750~4500rpm
■トランスミッション:8速AT
■駆動方式:AWD
■サスペンション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡマルチリンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ&Ⓡ225/40ZR18(8J)
■パフォーマンス 最高速度:250㎞/h 0→100㎞/h加速:4.9秒