ライバル2モデルが市場を牽引することで他のメーカーもプレミアムSUVマーケットに参入したのは確かだ。
今回は6月にフルモデルチェンジを果たし、内外装の質感や悪路走破性を大幅に高めてきたGLE450とディーゼルモデルのX5 xドライブ35dを比較してきた。
REPORT◎吉田拓生(YOSHIDA Takuo)
PHOTO◎中島仁菜(NAKAJIMA Nina)
※本記事は『GENROQ』2019年10月号の記事を再編集・再構成したものです。
20世紀の末であれば、BMW5シリーズ対メルセデス・ベンツEクラスに相当する対決なのだと思う。X5対GLEは誰も見過ごすことのできない、千秋楽における新大関同士の取組といったところだろうか。ドイツを代表する2ブランドの間で揺れ動いているカスタマーにはもちろんだが、どちらかのブランドを指名買いしている人にとってもその完成度が気になるに違いない。
BMW X5は2000年にデビューしており、今年2月に4代目が本邦デビューを果たしている。BMWが提唱するSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)というコンセプトの通り、X5は一貫した個性を秘めている。一方のメルセデスGLEは、1997年にMクラスとして登場。以来アメリカナイズドされた大味な雰囲気が拭えないシロモノだったが、15年にGLEを名乗ってからは急激に質を高め進路を変え、ライバルを猛チャージしてきた。
新型X5のグレードは3ℓストレート6のディーゼルターボを搭載する35d Mスポーツ。対するGLEは48VのマイルドハイブリッドであるISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)を装備した3ℓストレート6ガソリンターボの最高峰モデル、GLE450 4マティック・スポーツである。つまり動力性能(と価格差)の部分において必ずしも同等とは言えない今回の2台だが、モデル全体の仕上がりをチェックするという今回のテーマにおいては問題ないはずである。
近年のBMWの代替わりは、それほど大胆な形状変更を伴わないことが多い。新型X5もその定石通りで、キドニーグリルが大型になって、いよいよ2個の鼻の穴が繋がりそうになっただけ、という見方もあるくらい。それでも昨今は、中身がちゃんとフルモデルチェンジされているのだから面白い。
というのも現在はまさに「変革期」が訪れているのだと思う。これまではガソリン車に後付けするかたちでPHV化したり、運転支援の装備を組み込んだりしていたのだが、PHVの時代が思いの外長く続くと予想したのか、理路整然とコンポーネンツを搭載したくなったのか、近年は以前にも増してプラットフォームの刷新が相次いでいるのだ。
新型X5は代替わりの定石通り、わずかに大きくなっている。スタイリングにはそれほど目新しさが感じられないのだが、コクピットの眺めは壮観だ。特に8シリーズ専用の装備だとばかり思っていたクリスタル製のシフトノブが賑々しくてイイ。正直なところ、もう20年近く正常進化を続けているX5に接すると、何か刺激が欲しくなるのである。
アダプティブなエアサスを備えたアシは容量たっぷりで、ボディをフラットに保つのが上手い。Mスポーツなのだから当たり前だが、腰高感を一切感じさせず、走りはじめればボディサイズも忘れさせてくれる。
一方3ℓストレート6のディーゼルターボは、レブリミットが5000rpmまであり、例えば4000rpmから上でも一気にレブリミットを目指そうとする瞬発力がある。ディーゼルのホメ言葉としてはどうかと思うが「まるでガソリンみたい」なのである。こんなに攻撃的なディーゼルは、最初から狙っていないと造れまい。BMWのSAV代表はバランスよくグレードアップを果たしていた。
X5で残念だったのは、この夏8シリーズとX5に導入されるというACCとレーンキープアシストによる自動運転の「ハンズオフ」機能が解禁されていなかった点だった。これまでは15秒程度の手放しで警告が出ていたものが、条件が整えばずっと「手放し運転」できるというもの。今後あっという間に普及してしまうのだろうが、初体験できたらそれはそれで新鮮だったのだが。
上出来とはいえ予測可能なレベルだったX5に対し、GLEはどうなのか? 新型は顔が今どきのメルセデスの色気のあるものに変わり、ダークな色合いと相まって白いx5よりも落ち着きが感じられる。早めに下降しはじめるCピラーを強調するサイドのデザインは個人的にはあまり感心しないのだけれど、軸足が北米に残っていたこれまでのGLEより確実に高級感が増している。
外観と同じくコクピットの眺めも高級感に溢れていて、クルマ全体の雰囲気を高めている。X5はオーナーの年齢や雰囲気を限定しない明るい室内だったが、新型GLEの室内はほどよくタイトでムードたっぷり。恋人同士、もしくは熟年夫婦+成人した子供たちの物静かな空気が漂っている。と言っても新型GLEは全車3列シート装備なので、実際には親子3世代だってちゃんと許容してくれるのだが……。
走りはじめると、シャシーのしっとり感よりもISGユニットの気配のなさ、ストレスのなさに驚かされる。今回はパワーユニットの出来を評価に含めたくなかったのだけれど、X5の活発なディーゼルといい、複雑な作りなのに実に慇懃なISGといい、パワーユニットがクルマとブランドの個性をとてもうまく代弁してくれている。そんなISGが加担したクルマ全体の完成度において「欲しい」と思わせるのはGLEの方だ。「ハイメルセデス」と小さく囁いても、ちゃんと言うことを聞いてくれるMBUXも気に入った。
20年目の夫婦、ではないけれど少し飽きが来ているX5(失礼)と、久しぶりに会ったら美魔女になっていた元妻。下品な表現でゴメンナサイ。でもそうなったら、皆さん答えは決まっているでしょ?
■ボディスペック
全長(㎜):4935
全幅(㎜):2005
全高(㎜):1770
ホイールベース(㎜):2975
車両重量(kg):2190
■パワートレーン
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量(cc):2992
最高出力:195kW(265㎰)/4000rpm
最大トルク:620Nm(63.2㎏m)/2000~2500rpm
■トランスミッション
タイプ:8速AT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:ダブルウィッシュボーン
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:275/45R20
リヤ:305/40R20
■環境性能
燃料消費率(WLTCモード):11.7㎞/ℓ
■車両本体価格(万円):999
■ボディスペック
全長(㎜):4940
全幅(㎜):2020
全高(㎜):1780
ホイールベース(㎜):2995
車両重量(kg):2370
■パワートレーン
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ
総排気量(cc):2996
最高出力:270kW(367㎰)/5500~6100rpm
最大トルク:500Nm(51㎏m)/1600~4500rpm
■トランスミッション
タイプ:9速AT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:ダブルウィッシュボーン
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:275/50R20
リヤ:275/50R20
■環境性能
燃料消費率(WLTCモード):10.3㎞/ℓ
■車両本体価格(万円):1132