現在販売されている電動バイクは日常のアシとして使えるのか? 先日、ホンダからは東京モーターショー2019で「GYRO e:(ジャイロイー)」と「BENLY e:(ベンリィイー)」を展示するとアナウンスされたばかりで、にわかに加速する電動バイク市場。まずは現在のもっとも実用車な位置付けにいるPCXエレクトリック(2018年秋登場)を通勤に使い、そのポテンシャルを計ってみた。


イラスト●谷 陽子(TANI Yoko)

 十二単衣の裾を、銀杏の葉をさかさに立てたようにぱらりとひらいて均斉も正しく、静かに青空に浮んでいる。決して高い山ではないが、けれども、なかなか、透きとほるくらいに嬋娟たる美女ではある。


 太宰治がそう形容した岩木山に別れを告げて、東京へ移り住み20年が経った。




 初めての一人暮らしは中野。近所の児童館の公園では深夜になると老人が一心不乱に日本刀を振り回していることがあった。チャイムが鳴ったのでドアを開けると、鼻水を垂らした老婆が立っていたこともあった。アパートの玄関前にこぶし大の糞便のようなものが置かれていることも。




 これが東京という町なのか。




 りんごの小さな花の香りが鼻先をくすぐる、我が故郷が愛おしい。


 それから数年、東京に働きながら安息の地を探し続けた。ようやく出会えた理想の住処が秋川渓谷の入り口、あきる野だった。


 人里を少し離れると鹿が闊歩し、初夏には鮎が踊る。川越が小江戸と呼ばれるように、私にとっての秋川・あきる野は小津軽とでも言うべき地なのである。



ホンダ・PCXエレクトリック

東京モーターショー2019に出品予定の「BENLY e:(ベンリィイー)」
東京モーターショー2019に出品予定の「GYRO e:(ジャイロイー)」


 さて、本題に入ろう。


 ホンダから2018年秋にリース展開された、PCXエレクトリックが今回の主役であり、我が棲家、あきる野からモーターファン.jp編集部までの片道43kmを走りきれるかを試してみたのである。




 メーカー各社が電動バイク、電動スクーターの普及化に注力する一方で、ユーザーはその航続距離の短さに気を揉んでいて、私の通勤路の43kmというのもなかなか絶妙な距離なのである。


 出川哲朗のテレビ番組でもおなじみのヤマハeビーノの航続距離は29km、今回試乗するPCXエレクトリックは41km(いずれもカタログ値)とちょっと足りていない。今年アメリカで発表されたばかりのハーレーダビッドソンLiveWireは235kmだが、クルーザー級の車体サイズと29799ドルという価格の面から、通勤バイクとしてはちょっと使いづらいだろう。




 我が棲家、あきる野からモーターファン.jp編集部までは、片道43km。


 電動バイクで通うにはやや心もとない距離ではあるが、実生活で使ってみないことには、電動バイク・スクーターの現在地を推し量れないだろう。そういった思いのなかで試みたのが、通勤バイクの最有力種「PCX」の電動版。PCXエレクトリックでの通勤テストというわけだ




 PCXエレクトリックが搭載するバッテリーはモバイルパワーパックと呼ばれる50.4V/20.8Ahのリチウムイオンが2本。これらを直列接続した96V系システムで、最大4.2kW(定格出力0.98kW)のモーターを稼働させている。




 バッテリーの残量はメーターパネルに10段階の目盛りで表示。残量が2目盛り以下になると、19%、18%、17%……とより詳細な表示に切り替わる。

直列接続した96V系システムなので、バッテリーを使い切った際に、1本だけ満充電のバッテリーに交換しても意味がない。

シート下にはモバイルパワーパックと呼ばれる着脱式のタイプがシート下に格納。1本あたり約10kg。

カタログの航続距離は41km、対する通勤距離は43kmだが……

中央のバーがバッテリー残量を示す目盛り。20%以下になると画面右下に残量数値が現れる。

 出発は平日の朝、6時30分。


 1.5kmほど走ったところで、忘れ物に気づき自宅へリターン。のっけから3km(往復分)のロスという失態を犯し、笑顔が消える。

8.5km走行・拝島。バッテリー残量:7目盛


20km走行・府中。バッテリー残量:5目盛


27km走行・給田。バッテリー残量:16%


36km走行・環八。バッテリー残量:10%


40km走行・環七。バッテリー残量:0%

 新宿区東新宿までまだ5km以上残し、0%を迎えたが、特に走りに変化はなく、そのまま走り続けることができた。

44km走行。山手通り。バッテリー残量:0%

 アンダーパスを登る際に、加速の鈍りを感じ始める。

45km走行。新宿駅。バッテリー残量:0%

 青信号からのゼロ発進が鈍りがみえる。

47.6km走行。編集部到着。バッテリー残量:0%

結果:カタログ値より6.6kmも多く走れた!

 発進時の加速の鈍りは徐々に増し、ストレスを感じるレベルではあったが、単純に走らせるだけならばもう数キロは動きそうだった。




 41kmというメーカー諸元表の値は60km/h定地走行(平坦な直線の舗装路を一定速度で走行する)テストによるものなので、山あり谷あり、加減速ありとコンディションの厳しい一般道ではもっと悪い数値になると思っていた。しかし、今回の通勤路では40km地点でバッテリー残量が0%となり、諸元表と同程度。バッテリーの持ちは天候や気温、劣化具合にも左右されやすいが、意外なほど良好な結果に驚いた。




 ただし、私のような長距離通勤の場合だと、1充電で40km+αの航続距離では一切の寄り道もできず、ガソリン車のように気兼ねなく走ることは難しい。また片道20km程度の通勤距離あっても、勤務中に充電できない人は、往復程度はバッテリーが持って欲しいだろう。電動バイクが市民権を得るには、やはり移動の途中でもバッテリーを交換できるインフラを整備する必要があると痛感した。




 電動スクーターが市民権を得るためには台湾のGOGOROのように、市街地ですぐに満充電されたバッテリーに交換できる充電設備が整備されることは必須である。


 2019年4月には本田技研工業株式会社、川崎重工業株式会社、スズキ株式会社、ヤマハ発動機株式会社が「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」の協働の開始を発表している。交換式バッテリーを共同企画化とバッテリー交換システムの標準化の検討という、メーカーの垣根を超えたこれらの試みが電動二輪車の普及のカギとなっている。



主要諸元

通称名 PCX ELECTRIC


車名・型式 ホンダ・ZAD-EF01


全長×全幅×全高 (mm) 1,960×740×1,095


軸距(mm) 1,380


最低地上高 (mm) 132


シート高 (mm) 760


車両重量 (kg) 144


乗車定員 (人) 2


一充電走行距離(km)


 国土交通省届出値 41(60km/h定地走行テスト値)<1名乗車時>


最小回転半径 (m) 2.1


原動機形式・種類 EF01M・交流同期電動機


定格出力 (kw) 0.98


最高出力 (kW[PS]/rpm) 4.2[5.7]/5,500


最大トルク (N・m[kgf・m]/rpm) 18 [1.8]/500


メインバッテリー種類 リチウムイオン電池


メインバッテリー電圧/容量 50.4V/20.8Ah×2個


バッテリー充電電源 AC100V(単相)


タイヤ


 前 100/80-14M/C 48P


 後 120/70-14M/C 55P


ブレーキ形式


 前 油圧式ディスク


 後 機械式リーディング・トレーリング


懸架方式


 前 テレスコピック式


 後 ユニットスイング式


フレーム形式 ダブルクレードル


■道路運送車両法による型式認定申請書数値


■製造事業者/本田技研工業株式会社

情報提供元: MotorFan
記事名:「 【カタログ値よりも多く走れた】PCXエレクトリックを片道40kmの通勤に使ってみた。|電動バイクの現在地/ホンダ