TEXT&PORTRAIT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo) FIGURE:ThyssenKrupp
ティッセンクルップは自動車のステアリング分野では最後発組である。90年代にダイムラー・ベンツ(当時)のステアリング事業を受け継いだのが参入のきっかけだった。現在ではEPAS(電動アシストパワーステアリング)分野の商品強化を進めており、コラムタイプからデュアルピニオンやベルトドライブまで、ラック推力でいうと5kNから20kN超まで商品群を拡大した。
「もともと鉄とボルトの会社であり、ステアリングも油圧でスタートしましたが、現在はほとんどが電子制御のEPASです。ADAS(高度ドライバー支援)機能の先には自動運転があります。個人的には機械系が好きですが、もう油圧に戻ることはないでしょう」
ティッセンクルップでコラムタイプEPAS開発を担当するマーティン・マイヤー氏(日本担当マネジャー・工学博士)に単刀直入に訊いてみた。ステアリングの自動制御は可能だろうか。ドライバーに「下手だ」と感じさせず計算どおりの車両軌跡を描き、歩行者や自転車の飛び出しなどにも対応できるEPASは実現できるだろうか。
「順を追って説明します。我われは2019年から量産する第3世代のコラムEPASを開発しました。アシストモーターはひとつの筐体に二重の駆動系を持ち、ECUもその回路基板もふたつあります。万一の機能失陥を担保するための二重化です。ADASの進歩、その先にあるオートノマスを見据えれば、おそらくどのステアリングメーカーも同じことをすると思います。同時に、小型化・軽量化・低コスト化もねらっています」
鋼材が出自だけあって、現在は鋳造・鍛造で作っている部分にパイプ材を使ったり薄板加工にしたりという工夫も考えている、という。同時に失陥確率の低減である。これは自動制御機構のフェイルセーフとして欠かせない。
「FIT(フェイリアー・イン・タイム=時間当たり故障率)レートは、第1世代のコラムEPASでは1000程度でした。1万年に故障あるいは機能失陥1000回です。第2世代ではこれが500になり、ADAS対応製品では要求がさらに下がりました。オートノマス対応はその10分の1が要求されます。1万年に10回、1000年に1回のレベルです。第3世代のコラムEPASは、そのFITレート10まで視野に入れています」