REPORT●ケニー佐川(SAGAWA Kentaro)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
バルカンシリーズはカワサキのクルーザーとして一時代を築いた伝統のブランドである。一時は国内外で400ccから世界最大級の2000ccVツインまで幅広いラインナップを揃えたが、現行の国内モデルとしては最新型のバルカンSのみ。輸出用としては900と1700がある。
バルカンと言えば、個人的には巨大でマッチョな“アメリカン”クルーザーをイメージしてしまうのだが、濃い水色が素敵なこのSに関しては見るからに軽快でスポーティ。カラーによってこんなに印象が変わるものかと感心してしまう。
飾りっ気のないシンプルさが時代に合っている。それでいてロー&ロングというクルーザーには欠かせない不文律もきっちりと守っているし、流線型の流れるようなボディィラインやレイダウンされたリヤショックが作り出す優美なスタイルが、洗練された都会的な雰囲気を醸し出している。
ホイールサイズをフロント18、リヤ17インチと“普通”にしているところもいい。巨大クルーザーであればフロントに大径タイヤを付けたいわゆるチョッパータイプや、逆に小径ファットタイヤでクラシカルにキメる手法も有りだが、650ccでしかも並列2気筒というエンジンのキャラを考えると、こうしたスマートなスポーツクルーザーに仕上げるのが正解。誰の真似でもないオリジナリティのある個性がバルカンSの魅力になっている。
搭載される水冷4スト並列2気筒エンジンはニンジャ650やZ650と同系の最新ユニットで、力強い鼓動感は生かしつつもスムーズで淀みない吹け上がりが特徴。低中速寄りにアレンジさけているため、発進や低速でも扱いやすく安定感がある。大排気量車のようにドカンとくるトルクではないが、それがかえって街中では滑らかな走りにつながっているし、車体だけでなくアクセルやクラッチ、シフトなど個々の操作もスポーツモデル並みに軽いので疲れにくいのもメリット。混雑した街中を走ってみたが、229kgとクルーザーとしては軽くコンパクトな車体のおかげでストレスなく走り抜けられるし、シートも低くハンドルも切れるのでUターンでも足をベタベタと着きながら安心して取り回しができるのが気に入った。つまり、バルカンSは街乗りが得意なクルーザーなのだ。
ハンドリングはクルーザーらしくゆったりめ。これはキャスター角が寝てフォークオフセット量も多めでホイールベースも長めなため(同クラスのネイキッドなどに比べて)だが、前述したように車体が軽く前後のホイールセットが標準的なため、コーナリングはごく自然でしかもなかなかスポーティ。バンク角にも余裕があり、普通に交差点を曲がる程度であればステップを擦る心配もない。前後シングルディスクのブレーキは程よい制動力でタッチも扱いやすく、サスペンションも硬すぎずフワフワしすぎず自然な感じだ。
気になった点としては、プルバックハンドルが自分にとってはやや近く、上体が立ちすぎてしまうことがあったが、後で調べたら36mm前に設定できるアクセサリーバーがちゃんと用意されていた。程よい位置のフォワードステップも2段階さらに前方にずらせるなど、体格に応じてライポジ調整ができる点もユーザーフレンドリーだ。
高速道路にも乗ってみたが、ビートの効いた歯切れの良いサウンドとトルクフルな加速が気持ち良く、クルーザーらしい安定感とともにレーンチェンジのヒラリ感も持ち合わせている。日本であれば高速クルーズ性能も必要十分なレベルと感じた。
扱いやすいサイズ感と軽やかなフットワーク、丁寧に作り込まれたディテールなども含め、所有感を満たしつつ普段から気兼ねなく付き合える一台だと思う。