TEXT●佐野弘宗 (SANO Hiromune)
PHOTO●宮門秀行 (MIYAKADO Hideyuki)
アウディQ2の兄貴分にあたるQ3は、ご承知のようにCセグメントの骨格(厳密には先代A3)をベースにしたSUVなので、Q2はアウディが高級車ブランドとしては初のBセグメント( ≒A1)ベースのコンパクトSUVか……と考えるのが普通のロジックだ。だが、実際のQ2の商品企画はそう単純ではない。
Q2の骨格設計はBセグメント系のそれではなく、最新型A3と共通のMQBモジュールを使う。MQBはCセグメントを中心に場合によってはDセグメント(たとえばVWパサート)までカバーすることを想定した設計である。つまり、コンパクトSUVには明らかに贅沢なハードウェアなのだ。
Q2はそんなMOBをベースに、ホイールベースとオーバーハングを切り詰めてQ3より約20㎝短い全長とした。その2.6mを切るホイールベースと約4.2mという全長は、同じMQB系のVWティグアンより明らかにひとまわり小さい。もう少し具体的にいうと、Q2のディメンションは今回連れ出したルノー・キャプチャー、あるいは国産のホンダ・ヴェゼルなどが居並ぶBセグメント系コンパクトSUVにドンピシャのサイズといっていい。
アウディ自身が「Q2に直接の競合車はない」と語る最大の根拠は、「Cセグメント級メカを使ったBセグメント級サイズのコンパクトSUV」というあまり前例のないパッケージングにもある。
ただ、面白いのはそんなQ2と同時期に、ほぼ同じ成り立ちのミニ・クロスオーバーとトヨタC-HRが登場したことだ。彼らがお互いに示し合わせるはずもなく、偶然の一致だろう。現代マーケティング技術はかくも精緻で、同じ市場条件で分析すると、どのメーカーでも似たような結果が出てしまうのか?
日本におけるアウディは当たり前だが輸入車であり、しかもBMWやメルセデスと並ぶ高付加価値の高級車ブランドである。前記のハードウェア構成に加えて、価格や想定顧客を考えると、Q2と真正面のライバルと断言できるのは、現時点ではミニ・クロスオーバーだけだろう。
ただ、日本市場でのQ2とミニ・クロスオーバーのマーケティングには少しズレがある。すでに二世代目となるミニ・クロスオーバーは先代の実績も踏まえて、比較的高価なディーゼル(PHV)や4WDが中心で、基本的に400万円台が主軸のラインアップである。
対して、Q2はガソリンエンジンのみで、駆動方式もFF一択。今回の取材車は先行上陸した1.4ℓターボ(のカタログモデルは405万円)だったが、アウディ ジャパンがQ2の主力に想定するのはダウンサイジングエンジンの1.0ℓターボで、同エンジンを積んで装備を充実させた「1.0TFSIスポーツ」の価格は364万円。さらに装備を省略した素の「1.0TFSI」は300万円を切る299万円の正札を掲げており、日本におけるQ2は「300万円台のクルマ」というイメージを意図的に作っている。
本国同様に「Q2に直接競合車なし」と定義するアウディ ジャパンも、販売現場での比較対象としてはミニ・クロスオーバー、BMW X1やメルセデスGLAを想定している。だが、ミニはともかく、X1やGLAは本来、兄貴分のQ3との競合を想定して誕生したクルマである。
さらに、アウディ ジャパンがQ2と競合するであろう存在としてトヨタC-HRの名も挙げたのは、ちょっとした驚きである。299万円というQ2の日本でのスタート価格は、なるほど、国産コンパクトSUVだけでなく、Bセグメント系の輸入SUVも視野に入れた超戦略価格なのだ。
……と、Q2の市場環境にあれこれ想像をめぐらせると、話はどんどん膨らんで、取りとめがなくなってくる。だが、それこそがQ2が意図したQ2のキモといっていい。
Q2は価格やサイズでいえばQ3の弟分にあたるが、既存のアウディSUVの廉価版や縮小版ではない。Q2が狙うはズバリ「若者」だそうだ。アウディに興味がないどころか、クルマそのものが必需品ではない20〜30代にブッ刺さるアウディを……というのが、Q2の着想点である。だから、Q2は既存のヒエラルキーとは別に、アウディが考えるアウディに乗ってほしい若者の購買意欲を刺激する価格やサイズ、デザイン、商品内容を考えて、それに合致したハードウェアを素直に作った……ということなのだろう。
というわけで、今回のライバル試乗もあえて「Q2とガチンコライバルでなさそうで、実際にQ2を買うとなると気になるのでは?」という2台を選んでみた。やけに前置きが長くなったが、Q2は凝り固まった常識で考えるほど理解しにくい。そこが私のような石頭人間には短所であると同時に、熾烈な現代クルマ産業では最大の長所でもある。
Q2のボディサイズに焦点を当てて「欧州コンパクトSUV」として見れば、最初に思い浮かぶのはルノー・キャプチャーである。キャプチャーは同社のBセグメント用プラットフォームを土台に構築されたコンパクトSUVであり、2013年の欧州発売以来、各マーケットでは同セグメントの販売1位の常連。キャプチャーは欧州での発売からすでに4年が経過するが、日本で正規販売される輸入コンパクトSUVでは今なお最新鋭にして、欧州でも最後発組の1台となる。
そんなキャプチャーは、まさに今どきコンパクトSUVのド真ん中というべきクルマである。スモールキャビンのちょっとクーペ風のデザインは、SUVであってもドロ汚れはまるで似合わない。ロシアなど一部の市場向けに4WDの用意はあるものの、主力はあくまで実用車以上の悪路性能は想定しないFF。基本的にパーソナル指向のコンパクトカーなのだが、背の高さを利して、ギリギリではあるがファミリーユースにも耐える……といったコンパクトSUVに求められる機能性はすべて備える。
発売当初はやけにパリッと躍動的だったキャプチャーのフットワークも、すっかり熟成が進んだのか、今回の最新モデルは確実にしなやかになった。それでも、前後左右のボディの動きは相変わらず大きすぎず、明確な接地感と小気味いい操縦性は健在。1.2ℓターボは自然吸気2.0ℓ相当の性能を持ち、車重は同じエンジンを積むハッチバック(=ルーテシア)より40㎏程度しか重くない。途中改良でより吟味されたギヤレシオもあって、動力性能も十二分に活発な部類に入る。
内外装の質感もBセグメントとしてはまずまず高く、今回は豪華装備の限定車「プレミアム」だったこともあって、専用レザーシートの肌触りも上々。室内もだだっ広くはないが、後席と荷室を必要に応じて融通できる後席スライドが意外に便利だ。
最高出力:118ps
最大トルク:205Nm
車両価格:254~267万2000円
というわけで、さすがベストセラーならではのソツもスキもないキャプチャーの完成度に改めて感心したりした……のだが、Q2に乗ったら、これが衝撃だった。
まず、内外装の質感はQ2が完全にひとクラス上で、オプションのバーチャルコックピット(=フルカラー液晶メーターパネル)を横に置いても、Q2の細部質感はまさにCセグメント基準(の上位レベル)である。後席足もとはキャプチャーと勝敗をつけるほどの差はないが、ヘッドルームや肩まわりの余裕はQ2が僅差で勝ち。後席住人はQ2のほうが快適だろう。
Q2の走りはいい意味でアウディらしくなく、活発でアッケラカンとゴキゲンである。キャプチャーも単独ではフラットな身のこなしに感心したが、Q2に乗った後だと、キャプチャーはやけに動きが大きく、SUV感が濃厚に思えてしまう。Q2はとにかくロールせず、ステアリングは正確かつ俊敏なのだ。
さらに今回の1.4TFSIでもリヤがトーションビームなのがQ2のキャラに多大な影響をおよぼしている。MQBのリヤサスはもともと独立式の4リンクとトーションビームの2種が用意されるが、1.4ℓターボには4リンクを組み合わせるのが従来のお約束。それはVWゴルフの例を見れば明らかだし、A3も海外で販売される1.2TFSIはトーションビームだ(日本のA3は1.4FSI以上しかないので、必然的に全車4リンクとなる)。
印象的なほどタイトで強力なステアリングとリヤのトーションビーム、ハッチバックよりはちょい高のボディ、そしてパワフルな1.4TFSI……という組み合わせが、Q2にこれまでのアウディとはひと味もふた味も異なる走りを与えている。
アウディの走りといえば、FFでもクワトロに似た絶大なリヤスタビリティを軸にした安定した操縦性が特徴だったが、Q2のそれはキッカケを与えると、リヤタイヤもろとも4輪が一体となって嬉々として回り込む。レスポンシブなパワートレーンによる荷重移動を利すると、ほどよくリヤがロールしながら、リズミカルにコーナーを消化していく。これはまさに、ホットハッチオタクがニヤリとしそうな古典的なFFスポーツの味わいである。
今回の取材車でQ2とキャプチャーの動力性能を評価するのは不公平というものだが、諸元的にキャプチャーとほぼ同等性能であろう1.0TFSIなら299万円。素の1.0TFSIでは自動ブレーキその他の装備が省略されるものの、キャプチャー比では大きく見劣りするものではない。Q2の基本的質感と操縦性が1.0TFSIもそのままだとすれば、Q2とキャプチャーの約30万円の価格差はなきに等しい?
日本でQ2の最上級モデルは今回の1.4TFSIである。405万円の本体価格に、一も二もなく必須オプションのセーフティパッケージを追加すると合計418万円。メルセデスGLA180の価格(は本体とレーダーセーフティパッケージの合計で417.9万円)を見ると、両者がまるで火花が散るように意識し合っていることは歴然である。
GLAはそもそもQ3が属するセグメントSUVが本籍で、たとえば内装の細かい素材づかいでは、Q2よりちょっとだけだが確実に高級である。ただ、Aクラスと共通のボディシェルを使うGLAは実用性よりカッコ良さを優先しており、室内空間はQ2より閉所感があり、荷室の広さもQ2と大差なく、SUVとしては変わりダネの部類に入るクロスオーバー・スポーツとでも呼びたい存在だ。
そんなGLAも発売当初は「やりすぎ?」と思えるほどのゴリゴリのアジリティ重視の感が強かった。しかし、Q2の登場にピタリと合わせて上陸したマイナーチェンジモデルは、当時とは一転した豊かなストローク感で、伝統的なメルセデステイストを取り戻したのが印象深い。
最新GLA180のフットワークは、たおやかな柔らかさで路面のギャップを包み込んで、ショックはあくまで丸めた状態でしか人間に伝えてこず、ゆったりと重厚そのものの乗り心地である。四輪独立サスペンションもあって、4本のタイヤはいつ何時も路面に吸いつく。いやホント、初期のGLAを知る身体には、にわかに信じがたい改良幅である。それでいて、背の高さをほとんど感じさせないのは、天地に薄いボディスタイルで、実際に低重心だからだ(GLA180の全高はQ2よりさらに低く1.5mを切る)。
GLA180のパワートレーン構成も、0.2ℓの排気量差はあるにしても、それ以外はQ2の1.4TFSIに酷似。ただ、そこから絞り出されるパワーはアウディが1〜2ランク上といってよく、さらにQ2はGLAより100㎏以上軽い。体感動力性能はQ2の圧勝で、シャシーと相まって、山坂道での躍動感はGLAをはるか先をいく。とくに意識せずとも、実際の走行ペースもQ2のほうが明らかに高い。
Q2で感心するのは、かように上屋の動きがGLAより圧倒的に小さいのに、高速や市街地でのフラット感や乗り心地でもGLAに引けを取らないところだ。アシの調律もうまいんだろうが、ボディ剛性の作り方がよほど巧妙なのだろう。
というわけで、Q2にはGLAでは望めない活発さや若々しさがあり、多くの面で同価格のGLA180を上回るポイントがある。ただ、表向きの商品概要は似た者同士でも、実際に2台を乗り較べると、迷うことはないだろう。走りのキャラクターがまるで別物だからだ。Q2の活発さに心酔してしまうと、言葉は悪いが、GLAは鈍重としか感じられなくなるだろう。逆にGLAの重厚感と優しいタッチが心に沁みた人には、Q2は良くも悪くも若々しすぎる。
いずれにしても、Q2の走りやデザインはこれまでのアウディと狙いどころが明らかに違う。そして、BセグメントとCセグメントの中間をズバッと突いたサイズと質感、そして価格設定はなんとも巧妙なクラスレス商品である。いま世界で激アツの販売競争を繰り広げているふたつのセグメント(BセグメントSUVとCセグメントSUV)の両方において、恐るべき大型新人のQ2にライバルメーカーたちは震撼しているはずである。
最高出力:116~150㎰
最大トルク:200~250Nm
車両価格:299~490万円
最高出力:122~381㎰
最大トルク:200~475Nm
車両価格:398~792万円