V8フェラーリのラインアップ中、根強い人気を誇るF355シリーズ。380馬力/360Nmを発揮する5バルブのハイパフォーマンスユニットの特質を存分に生かすためのプログラムを見学してきた。

フェラーリV8が快音を奏でる理由

 フェラーリのV8エンジンが快音を轟かせるのはなぜか。理由のひとつがフラットプレーンクランクである。フラットプレーンとはクランクピンの配置が0度~180度~180度~0度になっていて、軸方向から正面視するとピン/ジャーナル/ピンが一直線になっているクランクシャフトのことを指す。V8クランクの別構造としてはクロスプレーンがあり、こちらはピン配置が0度~90度~270度~180度と、正面視で十字(=クロス)になっているのが特徴。市販車のV8エンジンはほぼすべてクロスプレーンクランクを採用していて、それは制振性に分があるため。V8エンジンを搭載するクルマ=高額車という商品性を考慮している。




 ではフラットプレーンクランクのV8にはどのようなメリットがあるか。それが排気干渉の少なさと、それにともなう出力追求にメリットがあるからである。フェラーリV8エンジンのシリンダーレイアウトと点火順序は下の図に示すように「1-5-3-7-4-8-2-6」。いっぽうで、一般的なクロスプレーンクランクのV8エンジンの点火順序の一例を挙げると「1-8-4-2-7-3-6-5」の順序で火を飛ばしている(フェラーリの気筒番号の振り方は特殊なのでそれに合わせて変換)。点火順序=排気順序なので、左右バンクでそれぞれの数字を眺めてみると、フェラーリが左右交互で排気しているのに対し、クロスプレーンV8は「4-2」と「6-5」で同一バンク内で排気が続いてしまうのがわかるだろう。この「同一バンク内で排気が続いてしまう」という事象が排気マニフォールド内での排気干渉を生じさせ、結果として等間隔ではないドロドロドロドロ……という排気音を奏でるようになるのが(これはこれで非常に快音だとは個人的に思うが)クロスプレーンクランクV8の特徴である。もちろん、4番2番、6番5番の排気がスムースに流れるような配管構造にするという手もあるのだが、狭いエンジンルームでそれだけの管長を確保するのは容易ではない。

フェラーリにおけるV8シリンダーの気筒配列(下が進行方向)と点火順序。比較としたのは、一般的なクロスプレーンクランクV8の点火順序。

 フラットプレーンなら等間隔で排気するのでいい意味でリズムが生じず、高回転域まで淀みなく回るために馬力を得やすい。反面、問題となるのが振動、そして高出力発揮による熱である。ご存じのとおり、フェラーリのV8エンジンは車両中央に搭載されていて(ミッドシップ)、フロントエンジンの熱マネージメントとは大きく様子が異なる。性格からしても距離を乗るクルマではなく、しかし運転する場合には高回転発揮、エンジンにとっては少々厳しい運転状態である。

F129型エンジンのディテールとベルト交換

カムトレイン用のタイミングベルト。バンクごとに1本、つまり左右バンクで2本必要。

 フェラーリF355が搭載するF129型エンジンのカムトレインはベルト式。近年のタイミングベルトの性能向上は著しく、「切れた」とか「コマ飛びした」という不幸はきわめて起きにくくはなっているものの、定期的な交換が望まれるのは断るまでもない。さらにタイミングベルト自体の劣化のみならず、ベルトをきちんと回すためのテンショナやプーリベアリングなどの不具合も懸念材料。これらを含めてコンスタントに点検交換することで380ps(283kW)/8200rpmというパフォーマンスを存分に生かし切ることができる。

右バンクのカムトレイン。偏心プーリを支えるテンショナはオイル封入式で、これらももちろん点検交換の対象。

 加えて、熱で心配されるのは樹脂類の経年劣化である。先述のエンジン振動に起因するエンジンマウントのひび割れや破断、ラジエータホースをはじめとするゴムホース類の硬化劣化、高温多湿に弱いプラスチックなど、ミッドシップゆえの小さいエンジンルームに閉じ込められていることによる不安材料は少なくない。これらに対して各部を目視点検、機能をきちんと確かめて不具合の有無を把握し、必要なものを交換することで、設計値どおりの性能をよみがえらせるのが「F355 Series Refresh Fair」である。




 タイミングベルトの交換/エンジン調整のAパッケージに加えて、オイル漏れなどの不具合修理+予防整備+圧縮比計測までを含むBパッケージが用意されている。

左がウォータポンプ、右がパワーステアリングフルードポンプ。W/Pはメインプーリからのベルトで駆動、PS/Pはそこから短いベルトを介して駆動される仕組み。

左側のエンジンマウント。エキゾーストパイプの直下にあることから、熱の影響は小さくない。左右に2カ所/トランスミッションマウントも左右2カ所の4点止め。

左リヤサスペンション。アームのブッシュ類はエンジンを下ろさなくとも交換できるが、各部の点検という意味では非常に有用。

パワートレインを後方から。中央はクラッチユニット。耐久性は高く、交換を要することは稀だという。

 作業はエンジンルームからパワートレイン+ドライブトレインをサブフレームごと降ろすことから始まる。タイミングベルトの交換作業はフロントカバーを外すことから始まるのだが、車載状態では作業スペースが確保できないからだ。単体にすることで確認できるようになる箇所は当然ながら多く、「一緒に片付けてしまおう」となるのは道理。実際、取材時の個体では水冷式のトランスミッションフルードウォーマーからのオイル漏れが確認されたため、一式を交換している。「F355 Series Refresh Fair」の目玉は、消耗品の交換にとどまらずその後の調整もパッケージとして含まれていることで、本プログラムを機会にリフレッシュするというニーズに応えられるのもメリットである。

すべてのベルト類を装着した様子。実際にはフロントカバーを備えてからメインプーリベルトをかける。手前が今回交換したベルト/補記類。

【Aパッケージ:基本プログラムにおける交換対象部品】


・タイミングベルト


・タイミングベルトテンショナー


・タイミングベルトテンショナープーリー


・各ドライブベルト


・ドライブベルトベアリング


・クーリングシステムホース


・各ガスケット、Oリング


・スパークプラグ


・エンジンオイル


・エンジンオイルフィルター


・ロングライフクーラント


・エアコンガス


・ブレーキフルード 等
情報提供元: MotorFan
記事名:「 コーンズ・モータースの「F355 Series Refresh Fair」