現在、レッドブル・エアレースではすべての機体で同じエンジンを使用しなければならないというレギュレーションになっている。ライカミング社から送られてきたエンジンは、メカニックであっても簡単な整備以外することはできない。


 しかし2010年まではレギュレーションの範囲内でのチューニングが認められていた。各チームはエンジンチューニングメーカーと共同でエンジンをパワーアップしレースに望んでいたのである。今回は2010年当時のエンジンチュニングについて紹介することにしよう。




REPORT●後藤 武

 飛行機大国アメリカでは、飛行機用エンジンをチューニングするメーカーが存在する。エアロバティックスや未開地に離着陸するブッシュフライトなどでパワーのあるエンジンを搭載したいという需要がある為だ。




 レッドブル・エアレースに参戦していたチームは、こういったメーカーにチューニングを依頼していた。その中で最も人気の高かったのがカリフォルニアのLY-CON社。2010年に参加していた15機中、12機がLY-CONを搭載していたほどである。

LY-CON社のスタッフ。メインは航空機用エンジンのオーバーホール。休みなしで働き続けなければならないほどの仕事が舞い込んでくる。

 ベースとなるのは、現在使われているものと同じライカミングのAEIO540。水平対向6気筒OHVエンジンである。チューニングではクランクバランスを取り、ピストンをハイコンプレッションタイプにしてカムシャフトを交換する。このあたりは四輪や二輪と同じ。

クランクのダイナミックバランスを取っているところ。航空機用エンジンでもこのあたりの作業は二輪、四輪と同じ。

ライカミングAEIO540用のピストン。目指すエンジン特性やパワーによって使い分ける。

 しかしエアレース用エンジン独特の考え方が必要な部分がある。それは重量。クルマやバイクでも重量は問題になるが飛行機の場合、機首にあるエンジンの重量が重ければ旋回で機首を引き起こすことが難しくなる。当時、エアレースでのGリミットは12(現在は10G)の為、軽量化が非常に重要になるのである。




 その為にLY-CON社では同じAEIO540でもシリンターのサイズが小さな旧タイプのシリンダーとヘッドを使用していた。旧型はパラレルバルブでパワーではアングルドバルブの新型に比べて10%以上劣るが、そこはチューナーの腕の見せ所。その他のチューニングで補えばいいという考えだ。



シリンダーとヘッドの比較。左がパラレルバルブの旧型。右がアングルドバルブの新型。

 こうして作られたエンジンは自社のベンチにかけられ、パワーチェックが行われる。他を圧倒するストレート速度を誇っていたアルヒやボノムの使用しているエンジンが何馬力出ているのか、それは教えてもらうことはできなかったが、スタンダードの250馬力(旧タイプ)を大きく超え、チューニングによっては450馬力程度まで引き出すことができる。もちろん飛行機用エンジンだけに信頼性を失うことは許されない。






 各チームはエンジンのチューニングを施し、エキゾーストも様々な形状のものをトライしていた。しかし2010年にエアレースが中断されてからレギュレーションが変更。現在ではすべてのチームが同じエンジンと同じプロペラを搭載することが義務づけられている。

パワーを追求し、四輪のレース会社にエキゾースト製作を依頼していたチームもある。

エキパイに断熱テープを巻いて高回転での出力改善を狙っているのだろう。

 使用されているのはAEIO540-EXP サンダーボルト。ライカミング社でエアレース用に作られたエンジンだ。ライカミング社には、チューニングなどユーザーの要求によって特殊なエンジンを作る専門のセクションがあり、ここで作られたエンジンにはサンダーボルトの名前がつけられる。

現在使用されているエンジン。エンジン本体、エキゾーストやインジェクションにいたるまで手を加えることは禁止されている。

 パワーは300馬力で、パワーチェックを行い、指定された300馬力の±2%であることが確認されてから各チームに送られる。エキゾーストなどエンジンに関するほとんどのパーツの変更が許されていない為、各チームはカウリングやエアインテークの形状などを変更し、少しでもエンジンのパワーを引き出せるよう努力しているのである。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 ♯3 レッドブル・エアレースを振り返る、エンジンチューニングの時代