REPORT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
最近、シトロエンに“らしさ”が戻ってきた。そう感じる人は少なくないだろう。
DSブランドを独立させたことで、シトロエンは独自性を存分に発揮できるようになったのだろう。ここ数年のPSAは、プレミアムなDS、フォーマルなプジョー、アヴァンギャルドなシトロエンと、そのキャラクターがはっきりしてきたように思う。
そんななか登場したシトロエンC5エアクロスSUV(以下「C5エアクロス」)は、近年のシトロエンの勢いを象徴するようなフラッグシップモデルだ。
開発のテーマに掲げられたのは「魔法の絨毯のような乗り心地」であり、すべての移動を快適な者とする、シトロエンが100年をかけて追求し続けてきたものにほかならない。
そしてデザインも、C4カクタスを源流とする近年のシトロエンのデザイン文法を正常進化させたもので、とりわけ特殊な樹脂製のエアバンプが目を惹く。
そして、そんなフラッグシップモデルがSUVというスタイルで登場したことも、きわめて最近のシトロエンらしいというか、フランス車らしいと言える。近年のヨーロッパ、とりわけフランスにおけるクロスオーバーSUVの人気は著しいからだ。
前置きはこれくらいにして、いよいよC5エアクロスに試乗する。
コクピットに乗り込んでまず目に入るのは、メーター内のレイアウト、エアコン吹き出し口、ステアリングのスイッチ類などに用いられている「丸みを帯びた台形」のようなデザインある。
これはフロントバンパー下部やエアバンプにもあしらわれていたアクセントで、近年のシトロエンのひとつのアイデンティティになっている。
そしてもうひとつ感じるのは、シートのふっかりとした柔らかさだ。これはシトロエンがアドバンスドコンフォートシートと呼ぶもので、平均的な自動車用シートよりもはるかに密度の高いフォームを採用し、さらにシート中央部の表皮には15mmのレイヤーを重ねることで、座った瞬間の当たりの柔らかさを表現しているという。試乗車はナッパレザー(フルレザー)シートだったために表面にはある程度の張りが感じられたが、それでも現代ではなかなか得難いふんわり感である。ぜひハーフレザーシートも試してみたいものだ。
だが本番は走り出してからだ。
ボディが上下にフワフワするのである。ピッチングというより、前後同時に全体が上下に動く感覚だ。
とても気持ちがいい。
これこそ、実はC5エアクロス最大のハイライトである「PHC」がもたらす走り味なのである。
PHCとは、プログレッシブ・ハイドローリック・クッションズの略で、ダンパー内にセカンダリーダンパーが設けられたものだ。このセカンダリーダンパーはストッパーとして使われ、実質的な総ストローク量が増えるだけでなく、サスペンションを柔らかく設定できることが特徴だ。
シトロエンはこれを「伝統のハイドロニューマチックの現代的解釈」としている。
その効果は絶大で、街中や高速道路ではゆったりと大海原を往く客船の如き鷹揚な振る舞いを見せる一方、タイトなコーナーをそこそこのペースで楽しんでも、セカンダリーダンパーが的確に働くため腰砕けにはならない。
そもそもこの技術は、もともとラリーカーのために発案されたものなのだ。
C5エアクロスSUV
全長×全幅×全高:4500×1850×1710mm
ホイールベース:2730mm
車両重量:1640kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:1997cc
ボア×ストローク:85.0×88.0mm
圧縮比:16.7
最高出力:130kW(177ps)/3750rpm
最大トルク:400Nm/2000rpm
トランスミッション:8速AT
燃料タンク容量:52L
WLTCモード燃費:16.3km/L
駆動方式:FF
乗車定員:5名
ハンドル位置:右
サスペンション形式(前/後):マクファーソンストラット/トーションビーム
タイヤサイズ:235/55R18
車両価格:424万円