REPORT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
スイスポの運動性能に、いまさら疑問をはさむ余地はないだろう。サーキットでもワインディングでも、その存在感はピカイチで、クルマ好きの若者の登竜門としてはもちろん、スーパースポーツを知っているベテランドライバーさえも魅了し、このカテゴリーのベストセラーとして君臨し続けている。欧州のスポーツハッチバックの多くが、“大きくて高価な”スポーツカーへとシフトしてしまった今、世界で最もホットハッチらしいホットハッチと言っても差し支えない。
そんなスイスポだが、何もこのクルマは血気盛んな走り屋のためだけにあるわけではない。スポーツカーに少しでも興味を持っていたり、運転に向上意欲を抱いている人であれば、誰だってスイスポの魅力は理解できるはず。そしてそれは、渋滞にハマりながらのサンデードライブでも十分に味わえるのだ。
そんなわけで、夏休みも真っ盛りの8月の週末、スイスポを連れ出して250kmほどのショートトリップに出掛けてみたのである。編集部のある東京都新宿をスタートし、山梨県の大月周辺を軽く流して帰って来るというユルいドライブだ。
永福インターチェンジから首都高速4号線に乗り、そのまま中央道へと進む。高井戸インターチェンジを過ぎ、三鷹料金所の手前から早くも渋滞が始まる。今回は燃費も計ることにしているが、なかなか条件は厳しそうだ。
今回の試乗に供されたスイスポは、6速MTモデルである。今やATがMTに対して動力性能や燃費性能において大きく劣るということはなく、むしろ上回ることも珍しいことではない。スイスポも同様で、先代のCVTからコンベンショナルなステップ型へと変更され、大幅にアップデートされた6速ATのデキは相当に高いらしい。
とはいえ、やはり「わざわざスポーツカーに乗る」という行為を味わい尽くしたいのならば、やはりMTを選びたいというのが筆者の個人的な思いだ。
そしてこのスイスポのMTだが、とにかくシフトフィールがいい。ゲート感が明確なだけでなく、動かし始めに僅かな手応えを感じさせつつスウーと吸い込まれるように入っていくサマが上品なことこの上ない。なにしろ弟分のアルトワークスも軽自動車とは思えぬ超絶シフトフィールの持ち主だから、スズキのMTづくりにはある種の執念めいたものを感じる。
執念といえばペダル配置もそうだ。ひとまず下の写真をご覧いただきたい。
ホイールハウスの干渉を受けやすいコンパクトなFFハッチバックながら、オフセットのない見事なペダル配置を実現している。
スイスポのボディサイズはBセグメントのなかでもコンパクトな部類に入るが、右ハンドルの3ペダルモデルながらしっかりフットレストまで備えているのは秀逸と言うべきだろう。
そのフットレストから左足を持ち上げる際に、足の甲がクラッチペダルの裏側に当たることもない。フットレストがあるというだけでなく、しっかりスペースも確保されているのだ。筆者の足のサイズは27.5cmで、日本人男性の平均より少し大きいといったところか。NFLやNBAには30cmを越える巨大な足の持ち主がザラにいるそうだが、彼らでもなければスイスポのペダル配置に不満を覚えることはないだろう。
結局、国立府中インターチェンジから八王子インターチェンジを過ぎた辺りまでの15kmほどの区間で流れが良くなったものの、圏央道と交わる八王子ジャンクションの手前からまた混み始め、相模湖インターチェンジで降りるまで渋滞は続いた。
高速道路ながら平均速度は46km/hにとどまり、とくに八王子から相模湖まではずっと上り坂が続くセクションではあったが、カタログ値(JC08モード)の16.4km/Lと同等の16.5km/Lを記録したのはなかなか立派である。
参考までに、80km/h巡航時の6速でのエンジン回転数は2100rpmだった。
相模湖インターチェンジで一般道に降り、国道20号線から逸れてローカル線に入る。このコースはアップダウンやコーナーに富み、そのうえ交通量が少なく快適に走れる一方、所々狭くなったり、いくつかの集落の中を抜けるため、速度は控えめに抑える必要がある。
それがむしろ、目を三角にしてタイヤを鳴かせてばかりでは見逃してしまいがちな微かな挙動や振動、滑らかさや突っ張り感などに気づかせてくれるため、筆者のお気に入りのルートとなっている。
ワインディングロードで光るのは、直列4気筒1.4L直噴ターボ「K14Cブースタージェット」エンジンの、過給器付きとは思えぬレスポンスの良さだ。
これには明確な理由があって、スイスポのK14Cユニットは、ウエイストゲートをノーマルクローズ制御として低負荷時からタービンの回転を上げておき、燃費よりも過給応答性を重視しているのだ。現代の一般的なターボエンジンは低負荷時にウエイストゲートを解放して吸排気損失を減らしている。ただしこれだと、いわゆるターボラグが発生する。多くの場合、AT、DCT、CVTの制御などでこれを補っているのだが、純血スポーツカーのスイスポは正面切ってレスポンスを最優先させた。
さらに根本的なことを言えば、先代スイスポが1.6L自然吸気だったゆえに現行スイスポの1.4Lターボが「ダウンサイジングターボ」と表現されることがあるが、考えてみればこのボディサイズに1.4Lはとくに小さいわけではない。「ライトサイジング」な排気量に過給を加えた、あくまでパフォーマンス重視のエンジンなのである。
そして特筆すべきは、ヤンチャに思われがちなホットハッチながらサスペンションの味付けが実にしっとりとしていて、足回りがドタバタしたり不快な突き上げを感じさせられることが一切ないことだ。
堅牢なボディとしなやかなサスペンションで、路面を常にがっしりと鷲掴みにしているような感覚で、快適なのはもちろん安心感も高い。価格やキャラクターを考えるとなかなか思い浮かばない言葉だが、やはりこれは「上質」と言うほかないだろう。
そして先ほど「パフォーマンス重視」と述べたエンジンではあるが、この山坂ステージで16.1km/Lもの燃費をマークしたのだから環境性能も合格点だろう。やはり軽量コンパクトは正義なのだ。
ちなみにこのセクションは、筆者が独自に設定した片道60kmほどのルートを単純往復したため、上り坂があれば同じだけ下り坂もあることになる。
帰路の中央道もやはり渋滞を避けることはできなかった。相模湖インターチェンジから小仏トンネルまでの数kmでまず最初の渋滞があり、その後はしばらく順調だったものの、調布インターチェンジを過ぎてから永福インターチェンジまではずっと渋滞していた。
小仏トンネルから八王子インターチェンジまではずっと下り坂のため、どんなクルマでもここで一気に燃費計の数字が好転する。そして調布インターチェンジ辺りから始まる上り坂で悪化に転じるのが常で、今回のようにそこに渋滞も加わって燃費の悪化に拍車が掛かる、というのも週末のお決まりのパターンだ。
今回も調布インターチェンジ過ぎまで22.0km/L以上もの数値が表示され続けていたが、そこからの上り坂渋滞でもそれほど燃費が悪化しなかったのが意外だった。結局、永福インターチェンジを降りた時点での燃費は20.7km/Lと、真夏の週末の渋滞に巻き込まれたとは思えない数値を叩き出したのだ。
ただし、この数字だけを見て「20km/L以上!」と騒いでも意味はない。あと数kmほど渋滞のなかを走っていれば20km/Lを切っていただろうし、燃費なんて状況や走り方次第で二転三転する。
とはいえ頻繁に今回の試乗コースを走っている筆者個人の感覚からすると、やはり今回のスイスポの燃費はかなり優秀だ。しかもスイスポがエコカーではなく、サーキット走行も視野に入れたスポーツカーであることを考えれば、その印象はより強まる。
かように、渋滞に巻き込まれながらの週末ドライブでもこれだけ楽しめ、上質感に浸れて、おまけに燃費も優れているのがスイスポなのである。こんなスポーツカーが200万円を切る価格で買えるなんて、我々ニッポンのクルマ好きは恵まれているとしか言いようがない。
スイフトスポーツ
全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm
ホイールベース:2450mm
トレッド(前/後):1510/1515mm
車両重量:970kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
排気量:1371cc
圧縮比:9.9
最高出力:103kw〈140ps〉/5500rpm
最大トルク:230Nm/2500-3500rpm
燃料タンク容量:37L
トランスミッション:6速MT
駆動方式:フロントエンジン・フロントホイールドライブ
乗車定員:5名
サスペンション形式(前/後):マクファーソンストラット/トーションビーム
タイヤサイズ:195/45R17
JC08モード燃費:16.4km/L
車両価格:183万6000円/192万2400円(セーフティパッケージ装着車)/198万9360円(セーフティパッケージ&全方位モニター用カメラパッケージ装着車)