スリップは当たり前で、走行抵抗も大きそうな未舗装路。タイヤが空転すれば、その分エンジンのパワーをロスしているわけだし、汚泥路や岩場では同じ距離を走るにも舗装路より大きなパワーを要する。ということは、燃費もそれなりに悪化するのではないか? という疑問は多くの人が抱いているだろうけれど、実際に試す機会はなかなかない。というわけで、みなさんに代わって我々が実験してみました。




REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)


PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)

ニッポンの道にはジムニーが似合う

 まず計測の舞台だが、群馬県の秋鹿大影林道と万沢林道に迷わず決めた。前者は13km、後者は21kmで、この2本は舗装された国道を僅かに経由すればつなげて走ることが出来るため、総計は34kmにもなる。これは本州有数の規模で、関東では間違いなく随一の距離だ。




 燃費を計測するには、ある一定の距離が必要だ。距離が足りないと、ちょっとアクセルを踏み込んだだけで燃費計の数字が悪化したり、惰性で進んだだけで回復してしまうなど安定しない。少しくらいのアクションでは燃費計がびくともしないくらい、距離を重ねなければならないのだ。




 そういう意味では34kmでも十分ではないかもしれないが、ここが関東随一であればここでやるしかない。ダートを何百kmも走りたければ、近場でもロシアとかカザフスタンくらいには行く必要がある。




 車種は、これまた迷わずジムニーとジムニーシエラに決めた。日本のダート林道は狭く険しい。ここでジムニーを選ばずしてどこで選ぶ?

ジムニーの最上級グレードである「XC」。5速MTと4速ATをラインナップするが、今回は後者を選択した。

 まずは編集部のある東京都新宿をスタートし、練馬インターチェンジから関越道に乗る。




 メンバーは、ドライバーとして筆者(体重76kg)とモーターファンテック編集長の萬澤(体重70kg)、そしてカメラマンの平野さん(体重75kg)だ。約40kgのカメラ機材は2台にほぼ均等に振り分けた。




 最初は筆者がジムニー、萬澤&平野カメラマンがジムニーシエラに乗る。




 最初に目指したのは北関東道の伊勢崎インターチェンジを降りてちょっと走った先にある某所だ。今回とは別の企画の撮影をするためである。インターチェンジを降りてから撮影現場まではおおむね流れのいいバイパス道路なので、とくに燃費に影響を及ぼすことはないと判断し、記録&リセットをせずに走り続けた。




 撮影も終わり、再び伊勢崎インターチェンジから北関東道を経て関越道に戻り、北に針路を取る。




 昔ながらの4速ATを搭載しているジムニーだが、高速巡航でもさしたる不満は覚えない。望めば流れをリードすることも可能だが、生理的に快適と感じる速度は80〜90km/hくらいで、リラックスして走り続けていると自然とその速度域に落ち着く。




 ちなみにトップギヤである4速での100km/h巡航時のエンジン回転数はジムニーが3750rpm、ジムニーシエラが3000rpmだ。やはりいずれも現代の水準から見ると高めで、燃費に有利とは言えないだろう。

こちらはジムニーシエラの最上級グレードである「JC」。ジムニーと同様に4速ATをチョイスして条件を揃えた。

 月夜野インターチェンジで関越道を降りる。ここまでの燃費はジムニーが14.4km/L、ジムニーシエラが13.0km/Lだった。




 ジムニーはWLTC-H(高速モード)燃費の14.2km/Lを僅かに上回り、ジムニーシエラはWLTC-Hの14.6km/Lを1.6kmほど下回った。




 カタログ燃費との差がさほどないことも評価できるが、この2台の間の差に関して言えば、ジムニーシエラが2名乗車だったことを考えれば順当であると感じた。

 第2ステージはいよいよ未舗装路だ。秋鹿大影林道に東側からアプローチする。ここからは筆者の運転するジムニーに平野カメラマンが同乗する。




 秋鹿大影林道は日本の林道のなかでもとりわけタイトで、ジムニーで良かったと痛感したシーンが何度あったことか。ミラーで後続のジムニーシエラに目をやると、かなり苦戦しているのが見て取れる。




 ジムニーとジムニーシエラの全幅の差は17cmとけっこう大きい。ボディ骨格は同じなのでミラーtoミラーは変わらないが、道そのものがタイトだったり、路肩が崩れ落ちているような場面では、この17cmの差がものを言う。




 とはいえジムニーシエラの全幅1645mmだって余裕で5ナンバーに収まるわけで、現代においては断トツにコンパクトだ。実際、ジムニーでは行けたのにジムニーシエラでは行けなかった、という場面は今回の旅では一度もなかった。だが精神的な安心感の差は大きい。




 オーバーフェンダーの魅力には抗えず、自分で買うならジムニーシエラだと考えているが、仮にこうした林道を頻繁に走る生活を送るのならばジムニーを選ぶだろう。

 13kmの未舗装路を黙々と走り続け、四万温泉郷に辿り着く。四万ブルーとも呼ばれる、鮮烈な青さで知られる四万湖まで足を伸ばしてみるものの、突然の雷雨に見舞われ、湖面は少々濁っていた。それでもエメラルドグリーンがかった深みのあるブルーは独特だった。




 その後、しばし四万温泉の街中を散策。ここもジムニー……というか、軽自動車か、せいぜいAセグメントのコンパクトカーでなければ通れないような入り組んだ町並みで、やはり日本を旅するにはジムニーがベストとの思いを強くする。




 秋鹿大影林道は13kmだが、撮影のために何度も往復するような場面が多々あったため、結局走ったのは倍以上の30kmほどで、月夜野インターチェンジから秋鹿大影林道までのアプローチも含めて第2ステージの走行距離は56kmとなった。平均速度は11km/hに過ぎなかった。舗装区間は30〜40km/hほどで走れていたため、未舗装区間の平均速度は8km/hほどだったかもしれない。




 燃費は2名乗車のジムニーが6.6km/L、1名乗車のジムニーが6.5km/Lとなった。やはり一気に悪化した印象だが、このステージは舗装路と未舗装路のミックスだったため、結論を出すのは翌日にしよう。




 四万温泉の中心地から少し離れた国民宿舎に投宿した。

四万ブルーで知られる四万湖まで足をのばしてみたものの、あいにくの雷雨に見舞われ濁った湖面に……。

昭和テイスト溢れる四万の温泉街。最果ての秘湯のはずが、この日は観光客で大賑わい。

全幅1645mmのジムニーシエラでもご覧の通り。ニッポンの旧市街は道が狭い!

やはり未舗装路は燃費が悪化する! それも大幅に!

 翌日は第3ステージ、万沢林道からスタートである。筆者と平野カメラマンがジムニーシエラ、万沢がジムニーに乗り込む。国民宿舎から1分ほどで林道セクションに突入できる。




 万沢林道は前日の秋鹿大影林道よりも道が幅広く、路面もフラットだと聞いていたが、さにあらず、こちらもなかなかタイトで手強いではないか。前日と同様に10km/h行くか行かないかほどのペースで淡々と歩を進める。




 万沢林道には何カ所か洗い越し───川のような浅い水の流れが道路を横切っていること───があり、前日夕方の雨の影響か泥が湿っている場面も多々あった。これらも少なからず走行抵抗となり、燃費に影響を及ぼすかと思われる。




 前日の秋鹿大影林道もそうだったのだが、万沢林道も東から西に進むにつれ、路面がフラットになり、道幅も広がって走るのが容易になっていく。




 そして万沢ストレートのほぼ西端には、本州最長と言われる1kmもの直線未舗装路、通称「万沢ストレート」がある。




 こうして万沢林道の21kmを走り切った。途中の撮影のための往復も含めて走行距離は30kmとなり、燃費は1名乗車のジムニーが6.4km/L、2名乗車のジムニーシエラが5.9km/Lだった。前日と違い、これは100%未舗装路のデータである。平均速度がほぼ同じだったにもかかわらず、やはり第2ステージよりも燃費が悪化している。

万沢林道には、このような洗い越しが何カ所かある。

 野反湖周辺の国道に出て、ここからは舗装されたワインディングロードをひた走る。タイトでテクニカルなコーナーが続くため、ついつい楽しくなってペースが上がってしまい、結局燃費が悪化してしまうのではという懸念が浮上する(ペースを落とせばいいだけだが……)。




 しかし71kmを走り、関越道の渋川伊香保インターチェンジで燃費をチェックすると、1名乗車のジムニーが16.3km/L、2名乗車のジムニーシエラが16.5km/Lと予想以上の好転っぷり!




 未舗装路よりも舗装&未舗装のミックス路、そしてさらに完全舗装路と、見事に燃費が向上し、とりわけミックス路と完全舗装路の差が顕著であることを見れば、やはり未舗装路───ダートで燃費が悪化することは明白である。




 まぁ、やる前からだいたいわかっていた結果と言えばそれまでだが、実際に試してみたことで、これからは堂々と述べることができるようになる。よかったよかった。




 ちなみに帰路、高速セクションとなる第5ステージの結果も簡単に報告しておこう。




 1名乗車のジムニーが15.6km/L、2名乗車のジムニーシエラが15.5km/Lだった。




 全ステージの結果を通して思うのは、ジムニーとジムニーシエラの間にほとんど差がない、ということ。実際に走っても、動力性能にスペックほどの差を感じない。デザインの好みか、税制か、ボディサイズ(主に全幅)の差か、その違いだけで選べばいいということで、パフォーマンスに大差はない。




 それともうひとつ注目すべきは、高速道路を走った第1および第5ステージよりも、一般道を平均35km/hで走った第4ステージの方が燃費が良かったということだ。やはりジムニーもジムニーシエラも、日本の一般道の速度レンジにターゲットを絞って作り込まれているということなのだろう。




 この潔いキャラクターづけが、ジムニー人気の要因のひとつになっていることは間違いなさそうだ。

ジムニーXC


全長×全幅×全高:3395×1475×1725mm


ホイールベース:2250mm


トレッド(前/後):1265/1275mm


車両重量:1040kg


エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ


排気量:658cc


圧縮比:9.1


最高出力:47kw〈64ps〉/6000rpm


最大トルク:96Nm/3500rpm


燃料タンク容量:40L


トランスミッション:4速AT


駆動方式:フロントエンジン・オールホイールドライブ


乗車定員:4名


サスペンション形式(前/後):3リンクリジッドアクスル式/トーションバー式


タイヤサイズ:175/80R16


WLTCモード燃費:13.2km/L


車両価格:184万1400円

ジムニーシエラJC


全長×全幅×全高:3550×1645×1730mm


ホイールベース:2250mm


トレッド(前/後):1395/1405mm


車両重量:1090kg


エンジン形式:直列4気筒DOHC


排気量:1460cc


圧縮比:10.0


最高出力:75kw〈102ps〉/6000rpm


最大トルク:130Nm/4000rpm


燃料タンク容量:40L


トランスミッション:4速AT


駆動方式:フロントエンジン・オールホイールドライブ


乗車定員:4名


サスペンション形式(前/後):3リンクリジッドアクスル式/トーションバー式


タイヤサイズ:195/80R15


WLTCモード燃費:13.6km/L


車両価格:201万9600円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 ダート走行は燃費が落ちるのか? ジムニーとジムニーシエラで実験!