REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
のっけからこのバイクの感想を表現すると「凄過ぎ」!である。このフレーズを使うのは、今回で2回目。1回目はカワサキNinja ZX-10Rの記事で使用した。つまり今回のMT-10SPの尋常でないハイパフォーマンスぶりはそれに類似する驚きのレベルにあったということである。
ワイディングロード世界最速をターゲットに開発されているYZF-R1をベースにして開発された至高のネイキッドモデル。現時点ではヤマハ・ロードスポーツカテゴリーの頂点に君臨するフラッグシップモデルなのだ。
外観デザインこそMTシリーズ一連のものだが、みるからに筋肉質なフォルムは同シリーズの中でも特別な存在であることが伺える。なにしろアルミ製デルタボックスのダイヤモンド式フレームと同リヤアームや、ロッカーアームを介したバルブドライブメカを持つDOHC16バルブ水冷4気筒の997ccエンジン関係コンポーネントはまさにR1譲り。
もちろんハイパーネイキッドに相応しい専用のチューニングは施されるが、基本的にユニットは共通なのである。
MT-10が採用するYCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)は、いわゆるスロットルバイワイヤーとも呼ばれ、実際のスロットルバルブはモーター駆動で電子制御される仕組み。TCS(トラクション・コントロール・システム)も3モード選択式を装備。後輪の駆動トルクは、点火時期、燃料噴射量、そしてスロットル開度が統合制御されるのである。ハイパワーエンジンには不可欠なとてもありがたい電子デバイスと言えるが、それが余計なお世話(介入)と思うなら任意にOFFすることも可能だ。
QSS(クイック・シフト・システム)や急減なシフトダウンでも後輪のグリップを失いにくいスリッパークラッチ。D-MODE(走行モード切替システム)も搭載。シャープでダイレクトなエンジンレスポンスの1モードを始め、オールマイティな2モード、穏やかで扱いやすい3モードが選択できる。
意外な装備としては、4速以上のギヤでセット可能なクルーズコントロールシステムが挙げられる。かなり過激な走行性能を秘めているので、のんびりしたクルージングとは対極にあると思っていたからだ。
車両を取り回しには、ガッチリとした手応えと重みを感じるものの、それなりに幅と高さのあるハンドルバーの関係か扱いに手強さはなく、押し引きも意外と軽く動かせた。シートに跨がるといくらか腰高な印象。マッシブでボリューム感のあるタンク回りの雰囲気とは対照的に、乗車姿勢がスマートに決まるライディングポジション。シートクッションは硬めだが、適度にグリップ感もあるスエード調表皮で座り心地もなかなか良い。
基本的にアップライトな姿勢で乗れるが、ステップ位置は後退ぎみでいかにもスポーティな感じ。走り始めた瞬間から腰をシートに預けるのではなく、下半身のクッションを生かしてステップを踏ん張る。自然と下肢の筋力を活用している自分に気付く。
“生半可な気持ちで乗るんじゃないぞ”!とバイクの方から語り掛けられているような気持ちになった。D-MODEはあえてフルパワーの「1」で試乗したが、右手をワイドオープンすると、それはもう凄まじい勢いで加速する。仮にTCSを切れば、ウィリーバク転も必至の勢い。電子制御の無い世の中ならウィリーバーの装備が必然となるだろうと思える程の瞬発力である。
これほどのパワーを、いったいどこで発揮すれば良いのかと頭の中は疑問符で一杯になってしまう。実際高速道路のゲートで受け取った通行券をポケットにしまい、そこから100㎞/hまでのフル加速力を満喫してもほんの2~3秒の出来事に過ぎない。上体の起きた姿勢でモロに風を浴びる環境でのスピード感はレプリカ系の加速感より増幅されてまさに強烈。
冷やかに言うと、あり余るパワーが無駄に思えてくるのも事実。しかし、その一方で地上を走る乗り物の中でどれよりも凄い瞬発力を体感できるポテンシャルが魅力的であることも見逃せない。アドレナリンが出る感覚とでも表現できようか、そのパンチ力はやはり「凄過ぎる」の一言なのである。
電子制御サスペンションのフットワークも流石。フルバンクで攻めている時に遭遇した不意のギャップでも衝撃の吸収性が秀逸で安心感がある。鋭いブレーキ力も含めてサーキットでのスポーツ走行も何も不自由無く、かつ楽しく走れてしまうのも間違いない。
街にも溶け込むネイキッドスタイルで普段はあえて爪を隠して走る。ポテンシャルはだれにも負けないだけに、走る気持ちに余裕をもてる魅力に一人ほくそ笑むことができる点も気分の良い魅力点かもしれない。
MT-10/MT-10SP
認定型式/原動機打刻型式:2BL-RN50J/N533E
全長/全幅/全高:2,095mm/800mm/1,110mm
シート高:825mm
軸間距離:1,400mm
最低地上高:130mm
車両重量:212kg
燃料消費率*1:
国土交通省届出値・定地燃費値*2…23.4km/L(60km/h)2名乗車時
WMTCモード値 *3…14.0km/L(クラス3, サブクラス3-2)1名乗車時
原動機種類:水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列:直列, 4気筒
総排気量:997cm3
内径×行程:79.0mm×50.9mm
圧縮比:12.0:1
最高出力:118kW(160PS)/11,500r/min
最大トルク:111N・m(11.3kgf・m)/9,000r/min
始動方式:セルフ式
潤滑方式:ウェットサンプ
エンジンオイル容量:4.90L
燃料タンク容量:17L(無鉛プレミアムガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式:フューエルインジェクション
点火方式:TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式:12V, 8.6Ah(10HR)/YTZ10S
1次減速比/2次減速比:1.634/2.687
クラッチ形式:湿式, 多板
変速装置/変速方式:常時噛合式6速/リターン式
変速比:
1速:2.600
2速:2.176
3速:1.842
4速:1.578
5速:1.380
6速:1.250
フレーム形式:ダイヤモンド
キャスター/トレール:24°00′/102mm
タイヤサイズ(前/後):
120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)/
190/55ZR17M/C (75W)(チューブレス)
制動装置形式(前/後):油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ懸架方式(前/後):テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ:LED/LED×2
乗車定員:2名
元モト・ライダー誌の創刊スタッフ編集部員を経てフリーランスに。約36年の時を経てモーターファンJPのライターへ。ツーリングも含め、常にオーナー気分でじっくりと乗り込んだ上での記事作成に努めている。