でも、ちょっとスキルアップして限界を超えた途端に『曲がらない』、『リアが食わない』という話が出てきます。それは、限界を把握しにくく、限界付近のスイートスポットが狭いためです。
エスの特性として、4輪にバランスよく荷重を与えていれば極めて高い限界を発揮してくれます。でも、限界を超える手前でも荷重が抜けるとすぐ滑ってしまう特性があります。フロントタイヤに頼って、ハンドルだけで曲がろうとすると、簡単にリアが流れる。『ターンインまでフロント荷重、加速でリア荷重』なんて前後の荷重を分けて走ると、エスは途端に難しくなるのです。
そこで、ブレーキングではリアがグッと沈み込むブレーキバランスを意識して、フロントに荷重を乗せ過ぎず、リアの荷重を抜かずにターンインしていくのがエスではとくに重要。そこで、リアに旋回を掛けるにあたって、『絶対に滑らせない』という意識と走りができない人には難しい。そう走らないとスピンです」
「重心点が低くてロールが少ないエスの特徴として、エスはタイヤの限界までなかなか到達しないことも挙げられます。それは、内輪接地に優れて、内輪がリフトしにくいからです。これがグリップの限界が訪れることを察知しやすいロードスターや86との大きな違い。エスは外側は沈むけど、内側が浮かない。そして、限界のスピードが高過ぎて、気づいたときにはタイヤは限界を超えている。
その変化域の速さに追いつけないことから、アマチュアには『エスは難しい』となってしまうわけです。
さらに付け加えれば、エンジンが前方にあるエスの着座位置はかなり後方の設計で、ほぼリアタイヤの上。リアのスライドを感知したときには、自分ごと横にもっていかれていて、どうしても反応が遅れてしまうこともあります」
「限界点が高く、ピーキーでスイートスポットが小さい。だから初心者がスイートスポットを広げて乗りやすくするための第一歩は、あえて『限界を下げる』ことを試してみること。それは、バネレートを下げて、車高を上げることになります。その分、MAXのグリップは落ちます。当然、その逆もいえることです。
バネレートを下げていくと、グリップしている時間も長いけど、そのピークが低く山はなだからになる(下記参照)。そして、エスは車高を下げるだけで、感度よくその山がぐんと鋭く高くなってしまう。だから車高を上げてやる。
広いスイートスポットで、限界の山をなだからに乗ろうと思うと、サーキット仕様だと通常はスプリングレート14〜16㎏/㎜となるところを、前後10㎏/㎜程度にして、車高も上げてやるのです。
タイヤもネオバなどハイグリップラジアル以上を履かせる必要があります。それ以下のクラスだとエスにはクルマに対して相当プアになって、かなり難しくなります。
LSDはオーソドックスなものがエスに合っています。イニシャルが低くアクセルを抜けば完全にフリーで、踏めば急激に100%になるタイプより、過渡的に作動するタイプのほうが連続するコーナーで乗りやすいでしょう」
この写真の車高でもビギナーにはかなり低いという。スキル アップのためには、前後10 ㎏ / ㎜程度のバネレート で、さらに車高を上げた状態を試してみるといい。
バネレートと車高による、グリップ限界の違いを、「山の高さ」と「山の形状」でイメージした。バネレートを上げて車高を下げると、グンと限界は上がるが、山は険しくなりスイートスポットは狭くなる。そして、タイヤへの荷重が低くても、逆に掛け過ぎても、グリップを引き出せずに難しいことがわかる。レートを下げて車高を下げると、限界値は低くなるが、スイートスポットは広がる。こちらがビギナー向けだ。