REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
このクチバシが尖った独創的なスタイル。これはスズキ・ビッグアドベンチャーの伝統であり、80年代半ばにパリ・ダカールラリーを走った「DR-Z」(ディー・アール・ジータ)そしてそのスタイルを受け継いで1988年に発売した「DR‐BIG」のDNAを継承したものです。
当時のライバルら、BMW R100GS、HONDAアフリカツイン、YAMAHAテネレが2気筒エンジンを搭載していたのに対し、スズキはビッグオフローダーとしての走りにこだわり、より軽快なシングルエンジンで対抗。その精悍なスタイルから“砂漠の怪鳥”と呼ばれました。デビュー当時は「DR750S」とネーミングされていたとおり排気量は750cc、91年に800cc化されています。
Vストローム1000はTL1000系のVツインエンジンを搭載し、2002年に初代がデビュー。2年後の04年には650ccの弟分もラインアップされ、アドベンチャーモデルへの要望が日本よりも早くから強かった欧州市場で着実に実績を重ねてきました。
国内市場への導入は2014年からで、17年に全面改良し、5軸慣性計測ユニット「IMU」(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)を搭載させて電子制御を飛躍的に進化。そのとき「モーショントラックブレーキシステム」を追加しています。
今回乗ったのは「V-Strom 1000XT ABS」。フロント19インチ、リヤ17インチのホイールサイズや、インナーチューブ径43mmの倒立フロントフォークとダイヤルアジャスター付きのリヤショックは共通ですが、ホイールをワイヤースポーク仕様としています。車体重量はキャストホイール仕様のスタンダードより3kg増えて215kgとなっています。
まず、排気量1,036ccの水冷90度Vツインがパワフルです。最大トルク100N・m〈10.2kgf・m〉を4,000rpmで発生することからもわかるとおり、常用回転域でのトルクが分厚く、加速も強烈です。扱いやすさもありつつ加速は鋭く、右手のスロットル操作にレスポンスよく応えてくれます。
4000rpmを超えてもまだまだエンジンは元気よくまわり、6000rpm以上を使ってグイグイ走らせれば足まわりにも不安はありませんし、ロードスポーツのようにも走らせられるでしょう。
8,000rpmで最高出力99PSを発揮し、高回転域の伸びもさすがはVツインロードスポーツTL系のエンジンがベースだと感心せずにはいられません。
そんな強力なエンジンですが、急かされないのが秀逸なところと言えます。長距離ツアラーとしてこれはとても重要な性能でして、一定のペースを保って淡々と走るのが苦になりません。ヨーロッパでしたらよりハイスピードレンジでのクルージングとなるのでしょうが、日本ですと100km/h巡航。トップ6速で3600rpmで、とても心地良い領域を使って走れるのでした。ウインドプロテクションの効果も高く、余裕を持って高速道路を走行できます。
せっかくの“XT”ですからオフロードも走ってみましたが、フラットダートなら難なくいけます。前後サスがソフトに路面の衝撃を吸収。スリムなアルミ製ダイヤモンドフレームが軽量な車体をもたらし、その大きな車格にしては未舗装路でも身のこなしは軽く、「DR‐BIG」の遺伝子はしっかりと受け継がれています。
ただし、あくまでもゆっくりそろりと慎重に走るべきでしょう。クランクケースやエキパイを守るガードは樹脂製で、美しい外装の一部。飛び石が跳ねてキズだらけになるという状態は想定していません。
そのエンジンパワーとスタビリティの高いシャシーで、ワインディングも不安なくペースを上げていくことができます。フロント19インチのハンドリングは軽快で、コーナーでは狙ったラインを外しません。
不安なくライディングに没頭できるのは、先進的な「モーショントラックブレーキシステム」のおかげでもあります。ブレーキを強くかけたとき、IMUが前後輪の速度だけでなく車体の姿勢も検出し、ABSコントロールユニットがABSの介入が必要か否かを判断。介入時は増減圧を制御し、ABSが作動してもレバーやペダルへのキックバックが低減されるのです。
また、コーナリング中もバンク角に応じて前後連動ブレーキの作動具合を変化させ、旋回中にフロントブレーキを強くかけても物理限界の範囲でバンクしたまま効率的に減速。アウト側に膨らむことなく、ラインをトレースしたままカーブを安全に抜けてしていくことができます。
トラクションコントロールも2つのモードとOFFが選べ、そうした電子制御にも守れ、Vストローム1000は旅を快適にしてくれます。乗り心地が良く、疲れ知らずですから遠くへ行きたくて仕方ありません。都内から首都高、東名高速道路を経て箱根まで往復しましたが、帰路につき自宅が近づくと、もう着いてしまうのかと残念でなりませんでした。
旅に出たくなる、Vストロームに乗ると、きっと誰もがそう感じるでしょう。
スズキ・ビッグオフローダー伝統のフロントマスク。DR-BIGのスタリングを脈々と受け継いでいます。ヘッドライトは縦2灯式で、ハイビームで両眼が点灯。ウインドスクリーンは高さと角度調整ができる可変式で、角度はワンタッチで3段階に変えられるのでした。
倒立式フロントフォークは、インナーチューブ径43mmのKYB製フルアジャスタブル。ブレーキはTOKICO製ラジアルマウント異径対向4ピストンキャリパーと310mm径ディスクローターの組み合わせです。今回試乗したXTではホイールをクロススポーク仕様とし、タイヤはブリヂストンBATTLE WING BW-501を履いています。
標準装備のナックルガードはオフロードで腕を守りますが、雨中や冬季、高速巡航時に指先が冷えるのを防ぐ効果も絶大です。疲労感も軽減してくれ、アドベンチャーモデルにはなくてはならないありがたい装備となっています。
V-Strom1000XT ABSには堅牢なテーパーハンドルを標準装備し、ダートも走りやすくしています。アップライトなライディングポジションをもたらし、ロングライドでの疲労度を軽減しているのでした。
バックライトに視認性の高いホワイトカラーを採用する輝度調整機能付きの大型液晶ディスプレイでは、スピード、ギヤポジション、オド、ツイントリップ、時計、トラクションコントロールモード、平均燃費、瞬間燃費、燃料、水温、温度、電圧、航続可能距離を表示。メーターパネル下には12VのDCソケットを標準装備しています。
トラクションコントロールの介入度やメーター表示は、ハンドルバー左のスイッチで切り替えられました。説明を受けなくとも、直感的に操作が可能です。
トラクションコントロールやシフトダウン時の急激なエンジンブレーキを和らげるスリッパークラッチも搭載したVツインエンジン。腰下をガードするアンダーカウルも標準装備しています。
フューエルタンクへと繋がるスリムな形状に、先端が絞り込まれて足着き性を考慮したダブルシート。後部座席からリヤキャリアへとつながるフラットなデザインを採用し、荷物の積載力を高めています。シートサイドには滑りにくい生地素材が用いられ、座り心地はとてもフィット感のあるものでした。
しなやかな乗り心地と軽快なハンドリングを両立するショックアブソーバ。プリロード調整のできるダイヤルアジャスターを備え、パッセンジャー乗車時や大きな荷物の積載時にも、安定感を損なうことなく快適な走行を可能としています。
エンジン回転数に伴ってエキゾーストパイプ内のバタフライバルブが開閉し、低回転域での排気パルス効果を最大限に引き出す「Suzuki Exhaust Tuning(SET)」によってトルクフルで快適な走りを実現。リヤタイヤはブリヂストンBATTLE WING BW-502がセットされています。