TEXT:世良耕太(Kota SERA) FIGURE:MAZDA/MFi
ロードスターはマツダが社内で呼ぶ第6世代車種群の6モデル目にあたる2012年のCX-5以降、15年のCX-3まではフロントエンジン・フロントドライブあり、エンジンを横置きに搭載していた。だが、ロードスターは縦置きだ。アテンザもアクセラもデミオも屋根がついている(クローズド)が、ロードスターはオープンである。第6世代車種群に共通するSKYACTIV(スカイアクティブ)ボディの思想は受け継ぐが、当然ながら、ロードスター固有の条件に合わせて最適化がなされている。
受け継いでいる思想とは例えば、基本骨格を可能な限り直線で構成する「ストレート化」であり、各部の骨格を協調して機能させる「連続フレームワーク」のコンセプトだ。これらは、狙いとする衝突安全性能を実現するための必要な強度を確保する際、効いてくる考え方だ。ロードスターはオープンボディだから、フロント・サイドメンバーで受けた衝突エネルギーをアッパー側のロードパスに伝えることはできず(存在しないので)、ロワー側のロードパスだけで成立させなければならない。
エンジンをフロントミッドに積むと聞けば、衝突安全性能面で有利に働くと想像しがちだが、実はエンジン横置きモデルに比べて「クラッシャブルゾーンのスペースは苦しい」。そう教えてくれたのは、パワートレーンを除く車両系部品について副主査を務める髙松仁氏(車両開発本部 車両開発推進部)だ。ミニマムなパッケージングを徹底すべくオーバーハングを短くしたため、クラッシャブルゾーンが小さくなってしまったのである。スペース的に苦しい状況で衝撃吸収性を確保するブレイクスルーが、サイドメンバーの前端を十字断面形状にしたクラッシュカンである。軸方向(前後方向)に蛇腹のように変形し、この部分で大きなエネルギーを吸収させる。スカイアクティブボディに共通する技術だが、「オフセット成分に対して強度が不足していると、すぐ座屈してしまう。座屈させずに軸直角方向に対してのみ変形させるよう設計するのに相当苦労した」(髙松氏)という。
アッパー方向のロードパスがないぶん、強度的な後ろ盾となるのが、フロアトンネルを形成する、先端がY字に開いたバックボーンフレームだ。エンジンは後方に搭載したいが、フロント・サイドメンバーとのY字のつながりの部分はクランク状にせず、連続的につなぎたい。「そこだけは徹底的に死守した」と強調する。
強度と対になる剛性については「値」ではなく「感」を重視した。すなわち、剛性感である。「強度は物理的に決まってきます。あとは入力の方向をどれだけ正確に把握するか。剛性の行き着くところは剛性感です。だから、一次のベンディング(曲げ)であるとかトーション(ねじり)方向の機械的な剛性値を上げるアプローチは正直捨てました」
これも、マツダの第6世代商品群に共通する思想だ。キーになるのは変位。
「フロントに舵角が入るとコーナリングフォースが発生します。それだけではフロントが回るだけなので、リヤタイヤまで伝達させる。伝達関数的に考えると、どうしても遅れが出るのですが、その遅れが適切であれば、しっかりした性感が感じられます。それにはトーション方向やベンディングの剛性値はあまり関係なくて、サスペンションがスムーズに動いてくれることの方が大切。上下方向の入力はサスタワーのトップに入ってきますし、横方向はロワーおよびアッパーアームから入ってくる。ここを局所的に必要な剛性を確保しておけば、他の部分は従来考えていたほど高い剛性は必要ありません。ドライバーであろうとパッセンジャーであろうと、人はクルマの重さを感じているわけではありません。重いクルマの変位量と軽いクルマの変位量が同じであれば、剛性感は同じように感じます」
ロードスターの場合、ドライバーはヨーセンターに近い位置に座っているので、物理的な変位量を感じにくい。そう表現すると語弊があるかもしれず、過小でも過剰でもなく、剛性の高さを感じられるパッケージだ。
ロードスターはこうして必要な箇所だけ必要な剛性を確保したので、それ以外の部位は板厚に頼らなくて済んだ。剛性値の確保は板厚に依存する部分が大だが、その手法に頼らなくても済んだので、ハイテン材の使用範囲を広げて軽量化を推し進めることができた。
このクルマはアフォーダブルな価格で売るという目標設定も掲げているので、高価なアルミの採用には慎重になったという。ただし、「質量を下げて軽快にする」という目標も掲げており、バランスの問題。アルミを使う場合は、車両運動特性上効果の高い位置(つまり重心点から遠く)に配するよう心がけたという。