ドイツ勢に先んじてジャガーからフルEVが登場すると予想していた人は少ないだろう。ジャガー初のフルEV、Iペイスは間違いなく衝撃を持って迎えられた1台だ。一方、テスラの新型EVモデル3は日本でも順調な受注が入っており、2019年後半以降に納車が始まる予定だという。方向性が異なる最新EV、2モデルの実力をロングツーリングで確かめた。




REPORT◉大谷達也(OTANI Tatsuya)


PHOTO◉篠原晃一(SHINOHARA Koichi)




※本記事は『GENROQ』2019年7月号の記事を再編集・再構成したものです。

同じ電気自動車と言えども、強烈な個性の違いが見えた旅であった。

 800余年の歴史を持つ城下町の街並みに、2台の最新モデルはしっくりと溶け込んで見えた。きっと、音もなく走り、排ガスも生み出さない自然への優しさが、長い歳月を越えて佇む古い家屋と不思議な調和を生み出していたからだろう。




 この日、私たち取材チームは都心から約300㎞ほど離れた岐阜県の岩村町を訪れていた。パートナーに選んだのは2台のEV。令和の時代を迎えた今日、EVとともに出かけるロングツーリングはどのようなものなのか? これを体験するのが、今回の旅の目的である。

 まずは私たちが選んだ2台のEVを紹介しよう。




 1台はジャガーが造り上げた初のEVであるIペイス。ジャガーのEVと聞いて、なんだかしっくりこないと感じている皆さんのために紹介すれば、ジャガー・ランドローバーは3年前に「2020年までにすべての車種に電動モデルをラインナップする」と発表。その第1弾として登場したのがIペイスであり、今後もEV、PHV、マイルドハイブリッド車が続々登場するという。




 Iペイスのスタイリングはご覧のとおりSUVだ。全高は1565㎜だが、キャブフォワードのプロポーションと流麗なラインを採り入れることで、スポーツカーにも通じる魅力的なデザインを生み出している。駆動系は最高出力200㎰のモーターを前後車軸上に各1基設けて4WDを実現。バッテリーは90kWhと大容量で、航続距離はWLTCモードで438㎞、電力消費率(電費)は224Wh/㎞と発表されている。




 なお、私たちが試乗したのは22インチホイールとエアサスペンションが標準装備のファーストエディション(1312万円。通常モデルは959万円より)だった。




 対するモデル3は、テスラの現行ラインナップ中もっとも小さく、米国での価格が3万9500ドル(約430万円)からともっとも安いモデル。デビュー当初は目標とする生産台数のペースに追いつかずに話題となったが、この問題もすでにほぼ解消したという。ちなみに、テスラは2018年に24万5240台を生産。ジャガー・ランドローバーの60万台弱に比べれば半分以下だが、それでもテスラがすでに立派な量産メーカーであることは間違いない。




 日本市場におけるモデル3は現在、予約受け付け中で販売モデルの仕様は確定していない。このため私たちが試乗したのは一種の開発モデルで、バッテリーを多く積んだ(つまり航続距離は長いがその分高価な)ロングレンジのFR仕様。米国ではこれ以外にショートレンジや4WD仕様が用意されている。




 最近のテスラはスペックをあまり詳細に発表しないようだが、海外サイトによればロングレンジのバッテリー容量は74kWhで、これは私たちが電費や航続距離から割り出した数値とも符合する。また、定格出力については車検証に225kW(約306㎰)と記されていた。




 テスラでもっとも小さいといいつつ4694㎜の全長と1894㎜の全幅はいずれもIペイスより1㎜短いだけ。一方で全高はIペイスより120㎜も低いセダンスタイルで、ホイールベースは115㎜短い2875㎜となる。

 では、実際に走らせてみるとどうなのか? 私はポルトガルで行われたIペイスの国際試乗会に参加し、そこですこぶる心地いい乗り心地とジャガーらしいキレ味のいいハンドリングを体験したが、今回はなぜか低速域でゴツゴツとした印象が拭えず、決して快適とはいえなかった。ただし、速度を上げると足まわりは次第にしなやかさを増し、高速巡航ではフラットで上質な乗り心地が味わえたことを付け加えておく。




 低速でゴツゴツ感が目立ち、速度を上げるにつれてしなやかになっていたのはモデル3も同様。とはいえ、モデル3はIペイスに比べてフラット感が弱く、中低速域では常にクルマの姿勢が変化しているように感じられた。この点は、モデル3のサスペンションが金属バネ仕様だったことも影響しているはずだ。




 ハンドリングが正確なことはIペイスとモデル3に共通する美点。ステアリングフィールはどちらも薄めながら、必要なロードインフォメーションはしっかりと伝わってくる。ただし、前輪の接地感はIペイスのほうが優れているように思われた。




 回生ブレーキのセッティングには、2台ともに注文をつけたいことがある。どちらも回生ブレーキを強めの設定にすると、一定速で走っているつもりでも、わずかな足の動きで微妙な前後Gが発生して煩わしかった。個人的にはヒステリシス特性を持たせたほうが扱いやすくなると感じたが、いかがだろうか?

CHAdeMOで走るIペイス

CHAdeMO対応のIペイスは高速道路のSAに設置されている急速充電で対応した。約30分の充電時間は心地よいコーヒーブレイク。

ファーストエディションは22インチのピレリ製Pゼロを装着していた。

上下に2枚のデュアルタッチスクリーンを備えた最新のインフォテインメントシステムを採用。
画面上から回生ブレーキの強弱やクリープの有無を選べる。


シートは厚みもあり長距離でも快適だった。

 続いて、私たちが電気自動車の実用性を考える際にまず気になる航続距離を比較してみよう。




 今回、80㎞/h制限の高速道路を流した場合の平均電費を計測したところ、モデル3の128Wh/㎞に対してIペイスは194Wh/㎞だった。これはIペイスのほうが500㎏近くも車重が重く、全高が高いために空気抵抗が大きいことに起因すると見られる。ちなみに一般道を含んだ総合電費ではモデル3の150Wh/㎞に対してIペイスは219Wh/㎞。仮にバッテリー容量が前述のとおりだとすれば、巡航距離はモデル3の493㎞に対してIペイスは411㎞となる。




 航続距離と並んで重要なのが充電環境だろう。とりわけロングクルージングでは旅行中の“継ぎ足し充電”がどのくらい早く行えるかが注目される。つまり急速充電の実力だ。




 日本でIペイスを使う場合、急速充電は日本充電サービスが提供するCHAdeMO準拠の施設を使うのが基本。その出力は最大50kW で、1回の充電は30分までに制限される。




 先ほどの平均電費から割り出すと、この電力量でIペイスが走行できるのは114㎞。なお、モデル3もアダプターを用いればCHAdeMOでの充電が可能で、この場合の走行距離は167㎞となる。つまり、出発前に充電した電力を使い切った場合、Iペイスであれば1時間ごとに、モデル3でも1時間半ごとに30分間の休憩(という名の充電)を強いられるわけだ(平均車速100㎞/hの場合)。したがって現行CHAdeMOで継ぎ足し充電しながら遠方を目指すのは快適とは言いがたい。




 なお、充電コストはジャガー・ランドローバーを通じて日本充電サービスの会員となれば30分450円なので、1㎞あたり3.9円(別途、月額基本料が必要)となる。



ジャガーIペイス ファーストエディション


■ボディスペック


全長(㎜):4695


全幅(㎜):1895


全高(㎜):1565


ホイールベース(㎜):2990


車両重量(㎏):2240※


■パワートレイン


最高出力:294kW(400㎰)/4250~5000rpm


最大トルク:696Nm(65.9㎏m)/1000~4000rpm


■駆動用バッテリー


種類:リチウムイオン電池


総電圧:388.8V


総電力量:90kWh


■トランスミッション


タイプ:1速固定


■シャシー


駆動方式:AWD


サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン


サスペンション リヤ:インテグラルリンク


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク


■環境性能


航続距離:438㎞(WLTCモード)


■車両本体価格(万円):1312


※パノラマルーフ装着車は2250㎏

スーパーチャージャーで充電するモデル3

帰路は甲府ノジマNEWに設置されている専用スーパーチャージャーで充電した。最大充電出力はなんと120kW!

ステアリングにはレバーと左右のロータリースイッチが用意され、エアコンやADASなどほぼすべての操作をセンターディスプレイから行う。


シートはサポート性も良好であった。

 これに比べると、テスラ専用の急速充電“スーパーチャージャー”は夢のような性能を誇る。その最大充電出力はなんと120kW。今回は山梨県甲府でこれを試したところ、たったの23分間で272㎞分の充電が完了した。しかも、これに要した費用は874円で、走行1㎞あたりの充電コスト3.2円に留まる。




 とはいえ、スーパーチャージャーにも弱点はある。現在、国内で稼働中のスーパーチャージャーは合計で20ヵ所のみ。その多くに1ヵ所あたり6基ほどの充電器が用意されているとはいえ、全国でおよそ7700基が稼働するというCHAdeMOの急速充電器には到底かなわない。また、高速道路のSAやPAにも数多く設置されているCHAdeMOと違って、スーパーチャージャーは高速道路を降りなければ充電器に辿り着けない。いずれも不便といえば不便だ。




 では、Iペイスとモデル3のどちらが優れているのか?率直にいって、それぞれ一長一短でどちらかが圧倒的に優位に立っているとはいえない。ただひとつ間違いないのは、旧来からの自動車の価値観に慣れ親しんでいて、「すべての機能は100%の完成度を備えていること」を期待する向きにはIペイスをお勧めしたい。充電の効率面で多少ロスはあるが、それと引き替えに手に入る安心感は小さくない。




 これとは対照的に「たとえ完成度が90%であっても、最新のテクノロジーがもたらす利便性を享受したい」と願う向きは、モデル3の先進性を歓迎することだろう。なによりモデル3には常識を突き破った面白さがある。ステアリング周りの操作系はレバーとロータリースイッチが左右にひとつずつ用意されているのみ。これだけで通常の運転操作がすべてカバーできることを見抜いたテスラの創造力は大したものだが、エアコンもオーディオもステアリング調整も、まずはセンターコンソール上の大型ディスプレイで操作する必要があると聞いたら、あなたはどう思うだろう?




 将来的にEVが普及するのは間違いないと、多くの研究機関や自動車メーカーが予想している。そのために充電インフラの充実やEVの低価格化が重要となることは論を俟たない。一方で、EV時代が到来してもブランドごと、モデルごとに異なる個性が残っていて欲しいと願うのは私だけではあるまい。Iペイスにもモデル3にも明確な個性がある。あとは互いに弱点の解消に努めながら、それぞれの個性を大切に育て上げて欲しいと強く念願する。

モデル3はコンチネンタル製プロコンタクトを装着していた。

テスラ・モデル3ロングレンジ


■ボディスペック


全長(㎜):4694


全幅(㎜):1849


全高(㎜):1443


ホイールベース(㎜):2875


車両重量(㎏):1847


■パワートレイン


最高出力:―


最大トルク:―


■駆動用バッテリー


種類:リチウムイオン電池


総電圧:―


総電力量:―


■トランスミッション


タイプ:1速固定


■シャシー


駆動方式:RWD


サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン


サスペンション リヤ:マルチリンク


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク


■環境性能


航続距離:498㎞(EPA)


■車両本体価格(万円):―
情報提供元: MotorFan
記事名:「 Tesla Model 3×Jaguar I-Pace