自社で設計・試作・テストを行なう通常の開発作業ではなく、BMWとの協業で始まった新型車開発。そんな環境下でトヨタのヘリテイジを感じさせる「スープラ」をつくりあげるために、当初は戸惑いや苦労があったが開発実務が進むにつれ、技術者としての考えや情熱が呼応。メーカー間の垣根を超えた信頼関係が築かれた。そうしてBMWとトヨタの技術が融合し、トヨタ車としての独自性が与えられ、見事スープラの復活となった。




REPORT&図版解説●安藤 眞(ANDO Makoto)

運動性能を追求したショートホイールベース&ワイドトレッド

全長:4380㎜ ホイールベース:2470㎜

旧型よりホイールベースを80㎜詰め、2シーター専用となった新型スープラ。ドライバーの着座位置は後輪に近く、リヤタイヤのグリップ状態を感じ取りやすいパッケージングだ。

フロントトレッド:1595㎜(RZ・SZ-R) 1610㎜(SZ)

フロントノーズの突き出しとバンパースポイラーのデザインが、F1マシンを思わせる。ルーフラインはダブルバブル型を採用。乗員のヘッドクリアランスを確保しながら、前面投影面積を減らして空気抵抗を低減する。

リヤトトレッド:1590㎜(RZ・SZ-R) 1615㎜(SZ) 全幅:1865㎜ 全高:1290mm(RZ)1295mm(SZ・SZ-R)

1590㎜というワイドなトレッドに、275サイズの超ワイドタイヤを装着(RZおよびSZ-R グレード)。ホイールベース/トレッド比1.55は、ポルシェ911とほぼ同等だ。

低重心なクーペボディ

ホワイトボディは鋼板とアルミ合金を組み合わせたハイブリッド構造。フロントサスタワーとカウルアッパーの間には、大きなブレースがボルト締結されている。そのブレースとフロントサイドメンバーの間にも、太い骨格が水平に通されているのが見える。

理想的な前後重量バランス

撮影角度の関係で、エンジンのセンターがフロントアクスル付近にあるように見えるが、実際は4気筒エンジンなら最前端が、6気筒エンジンなら2〜3番シリンダーの境目がアクスルと重なるほど後方に搭載されている。

緻密に設計されたパッケージング

パワートレーンやサスペンションなどのランニングコンポーネントは、BMWZ4と共通。凝縮感のある緻密なパッケージングは「さすが」というほかはない。

サーキット走行に役立つGAZOO Racing Recorder



アクセル、ブレーキ、ステアリング舵角の操作情報と、車速、エンジン回転数、加速度といった車両情報と車両の位置情報をSDカードに記録。専用のソフトを使用することで再生でき、運転を解析できる。また推奨のカメラを接続すれば動画と同期再生させることも可能。

適材適所で強くバランスの良い骨格

〈赤〉ホットスタンプ鋼板〈オレンジ〉複合組織型高張力鋼板〈緑〉アルミニウム(AlSi,AlMg)

オレンジ色に塗られているのが多相鋼板、赤く塗られているのがホットスタンプ鋼板、緑色がアルミ合金を使用する部分。ルーフ骨格にホットスタンプ材を採用して薄肉化したことも、低重心に貢献している。

軽量素材を広範囲に採用

〈緑〉アルミニウム(AlSi)〈黄〉樹脂〈青〉鉄

外板にも軽量素材を広範囲に採用。緑色部分がアルミ合金、黄色が樹脂部品、青色が鋼板を使用する部分だ。絞りの深いリヤフェンダーが鋼板製であるのはともかく、ルーフも鋼板というのは少々意外。

ボディ下面でも空力性能を向上

床下は放熱が必要なエキゾースト部分を除き、ほぼ全面に空力カバーを配置する。エンジンアンダーカバーはアルミ合金製で、フロントサスペンションメンバーと締結することにより、剛性向上部材としても機能させている。

リヤサスペンションはロワアームの下にも空力カバーを設定。前から流れてきた空気をサスペンションアームで乱すことなく、リヤエンドのディフューザーへと導く。

モンロー製電子制御ダンパー

モンロー製AVS ダンパーの減衰力制御機構。中央に見える円筒部品が制御バルブで(カットモデル用にメッキ処理)、右側の電磁石で開き具合をコントロールする。このバルブには、オーリンズのノウハウが使われているそうだ。

フロント:マクファーソンストラット式サスペンション

フロントサスペンションはダブルジョイント・ストラット方式。ステアリングのタイロッドと後側ロワアームが重なっているので、少々見づらい絵となっている。手前に見えているボールジョイントはステアリングのタイロッドエンドで、前後ロワアームのボールジョイントはナックルに隠れて見えない。

フロントサスのリンク配置は、CATIAデ ータの方が見やすい。ロワリンクを2 本に分割することで仮想キングピン軸を形成し、操舵時にキングピン軸の振れ回りが大きくならないよう、ボールジョイントを上下にズラして配置されているのが分かる。

リヤ:マルチリンク式サスペンション

リヤサスペンションは片側5リンクのマルチリンク方式。リヤサスアームは鋼板製で、あえて開断面とすることで剛性をチューニング。捩り方向の変形を許容することで、リンクの軌跡干渉によるフリクション増大を抑えているものと思われる。

コイルスプリングとダンパーは別軸配置。ラゲッジ容量を気にするクルマではないので、セダン系との共用を考慮したレイアウトだと思われる。スタビライザー端部はナックルにジョイントされる高効率レイアウトだ。

確かな操舵感を提供する

電動パワーステアリングはラックアシスト方式。ナックルアームは棒状に伸びているのではなく、ナックル全体の袋構造の一部となっており、剛性確保に配慮していることが分かる。スタビライザーも直線部を長く取った美しい配置だ。

コントロール性と放熱性の高いブレーキ

RZグレードのフロントブレーキに採用されるブレンボ製ディスクキャリパー。アルミのモノブロック構造で、対向4ピストン方式。シリンダー径はφ40㎜とφ44㎜の異径タンデムだ。ディスクはハブ取付面を別体でつくった組み立て式として軽量化を図っている。

B48型2.0ℓ直列4気筒

B48B20型エンジンの透視図。手前が吸気側で、シリンダーヘッドにはバルブトロニック機構が確認できる。コンロッドはスモールエンドをテーパーにしたヴァイパーヘッド形状で、ビッグエンドは一体鍛造後に破断加工するクラッキング方式を採用する。

B58型3.0ℓ直列6気筒

B58B30型エンジンの透視図。カムドライブチェーンがフライホイール側に付いているのは、クランクシャフトの捩り振動でバルブタイミングが乱れるから。後ろに付けるとフライホイールやトランスミッションがマスダンパーとして働くため、捩り振動が発生しにくい。ディーゼルエンジンではよく使われる手法だ。

2系統のウォータージャケット



B58B30型エンジンのシリンダーヘッド。排気側の冷却水通路は二階建てになっており、エキゾーストマニホールドを上下から冷却する。高負荷時に排ガス温度を下げてタービンを保護するとともに、暖機時には水温上昇を速めてコールドスタートエミッションを低減する。

可変バルブタイミング機構

吸排気両カムシャフトに装備される可変バルブタイミング機構は、オーソドックスな油圧ベーン方式。カムシャフト内部にピストンバルブが付いており、図の放射状の油路を使って油圧室の油を出し入れし、進角/遅角をコントロールする。

連続可変バルブリフト機構

世界初の連続可変バルブリフト機構・バルブトロニックシステム。01年に3シリーズに搭載された後、04年にはレイアウトを洗練化して第二世代となった。バルブのリフト曲線は、インターミディエイトシャフトの面カム形状で作れるため、回転カムのプロファイルは通常のエンジンとは異なる長円形をしている。

スープラらしさを表現する排気システム

3.0ℓエンジン車のエキゾーストシステム。プリサイレンサーの下流で2本に分かれ、メインサイレンサーには左右から流入する。2.0ℓエンジン車はプリサイレンサーの下流では分岐せず、1本のままサイレンサーに流れ込む。

右側テールパイプの出口には、電動モーターで開閉するバタフライバルブが付いている。始動時やアイドリング時、低負荷時にはこれを閉じ、低騒音を実現。高負荷時にはこれを開いて排圧を下げ、高出力も両立する。これはエンジン排気量に関わらず装着される。

3.0ℓらしい力強さと、6気筒らしい高揚感を強調するため、スピーカーから補正音を出すアクティブサウンドデザインシステムをチューニング。高回転に向かって澄んだ高音域がリニアに伸びていくよう、600Hz付近の周波数成分を強調している。

高出力を安定して発揮するための冷却システム

3.0ℓエンジン車の冷却系には、高負荷走行に備えてサブラジエーターを標準装備。水冷式インタークーラーの冷却系はエンジン冷却系とは独立した低温回路で、より効率良くチャージエアを冷却する。インタークーラー冷却系は、水冷式コンデンサーのエアコン冷却系とも共用している。

ダイナミックな変速フィールを実現するATミッション

トランスミッションはZF社製8HP51型。トルクコンバーターと遊星歯車を使用するオーソドックスなATで、3層の遊星歯車を組み合わせて8速のギヤレシオをつくり出す。順次変速時はもちろん、1段飛ばしの変速時にも、ひと組のクラッチ/ブレーキのハンドオーバーだけで完了するのが秀逸だ。

思い通りの走りを実現する電子制御デフ

RZ及びSZ-Rグレードに採用されるアクティブディファレンシャルは、BMWの“M”モデルに採用されているのと同じもの。コンベンショナルな4ピニオン式ディファレンシャルギヤの差動を、モーター制御の湿式多板クラッチでコントロールする。

アクティブデフを制御するECUは、VSCやメインボディのECUとも通信を行なっており、走行状態を推定して最適なロック率に制御を行なう。リヤデフはロック気味にするほど直進安定性が高まり、解放気味にするほど回頭性が高まるため、減速時と脱出時にはロック率を高め、転舵した際には解放気味にして回頭性を高める。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 トヨタ・スープラのメカニズムを徹底解説!