まず、ほとんどのスクーターがCVTを採用しているのは広く知られているだろう。発進には遠心クラッチが使われている。
スーパーカブはマニュアルトランスミッションだが、チェンジペダルがクラッチペダルを兼ねていて、左手でのクラッチ操作を必要としない。発進にはスクーターと同じく遠心クラッチを使用する。
以上はスクーターもしくはビジネスバイクの話で、スポーツバイクとなればほぼすべてが純粋なMTモデルとなる。
数少ない例外として、ヤマハFJR1300の上級グレードであるASには、YCC-Sと呼ばれる電子制御シフトが搭載されている。これはクラッチ操作とシフトチェンジ操作を電動アクチュエーターによって行うもので、左手でのクラッチ操作は必要がない。四輪のRMT(シングルクラッチ式ロボタイズド・トランスミッション)とほぼ同じだが、FJRは自動変速モードを持たず、自らシフトチェンジを行う必要がある。これは技術力の問題ではなく、「モーターサイクルは自らシフトチェンジすべき」というメーカーの考え方が反映されたものだろう。
また、最新のスーパースポーツの多くはクイックシフターを備えており、走行中は変速時にクラッチ操作を必要としない。シフトダウン時には自動ブリッピングも行われる。このクイックシフターは、イージーライドのためというよりもサーキット走行などにおけるタイム短縮のためのものだ。
そしてYCC-Sもクイックシフターも、基本的な構造はほぼMTと変わらない。
そんななか、まるで四輪のようなDCTを積極的に推し進めているのがホンダである。
DCTとは奇数ギヤ&発進用と、偶数ギヤ用のふたつクラッチ(デュアルクラッチ)を備えたトランスミッションで、変速時の駆動力の途切れを抑え、さらにクラッチ操作を不要としつつ自動変速を可能としたもの。二輪ではホンダが世界で初めて実用化している。
通常のMTでは左足でシフトペダルを操作することでシフトドラムを回転させ、シフトフォークを介してギヤをスライドさせるが、DCTではシフトモーターがその役割を担う。
では、次ページでは実際にDCTを搭載しているモデルを紹介しよう。
現段階では「バイクは自分でシフトチェンジしてこそ」との考えが多数派だろう。当ページ担当者もそう信じて疑わないひとりだ。
しかしバイクに求めるものは人それぞれ。DCTがもたらすイージーライドによって行動範囲が広がったり、初心者のバイクに対するハードルが下がったり、しばらくバイクから遠ざかっていた人が再び乗るキッカケになったりするかもしれない。
この豊富なDCTモデルのラインナップからは、バイク人口を広げようとするホンダの決意がひしひしと伝わってくるではないか。