本格フラットトラックレーサーのいで立ちでありながら、公道仕様車であるというのがバイク好きを惹きつける。モータージャーナリストの和歌山利宏氏が、インディアンモーターサイクルの本拠地アメリカにてFTR 1200に乗った。




REPORT●和歌山利宏

FTR1200……1,899,000円

FTR1200S……2,099,000円

 インディアンによると、新しいFTR1200の位置づけは、“ニューアメリカンスタンダード”であるという。アメリカンという言葉からはクルーザー系を連想してしまいそうだが、そうでないことは明らかだ。


 アメリカには、伝統的なバイクスポーツにフラットトラックレースがある。そのトラッカーマシンのスタイリングを具現化し、アメリカンたるを表現するのみならず、トラッカーが持つ多様なコンディション下におけるコントロール性を注入することで、“新世代標準形”を提唱しようというのか。


 そうすれば、昨今の多くのバイクが忘れている多様性や懐の深さを取り戻すことができるのでないか。FTR1200への試乗を終えた今、そんな思いに駆られてしまう。




 インディアンはワークストラッカーFTR750を開発、2017年、64年ぶりにフラットトラックレースに復帰、2年連続でタイトル獲得という快挙を成し遂げている。ブランディング活動の一環ともなるワークス参戦計画と、アメリカンスタンダードを提唱する市販FTRプロジェクトは、2016年初頭のほぼ同時期に始まっていたというから、そうしたビジョンにも納得させられる。




 フラットトラッカーとしてのFTR750レプリカを望む向きもあったと思う。しかし、それは決して一般向きにはならない。多くの人に向けての新世代標準形を目指し、それに相応しい多様性とエモーショナルさを求めるとなると、スポーツVツインとして最大排気量級となる1200ccクラスが妥当である。


 そうして、ここに、スカウト用V4ユニットからパワーソース部を流用した新設計エンジンを、トラスフレームに搭載したFTR1200の登場となったのである。




 跨ると、ハンドルはやや広めで、マシンを抑え込みやすいスポーティな印象である。上体が起きているにも関わらず、ハンドル位置をさほど高いとは感じず、積極的に攻め込みやすそうなのは、やはりフラットトラッカー譲りなのだろうか。いずれにせよ、日常域でスポーツできる標準形に相応しいライポジだ。


 足着き性はアドベンチャー並みで、決して良くはない。ただ、ここで強調しておかなければならないのは、停止時の車体が安定しているうえにバランスも取りやすく、足着き時の不安感が極めて少ないことである。


 燃料タンクをタンクカバー後部からシート下に配置し、低重心化とマスの集中化が図られた効果が大きいのだろう。また、車体がスリムで身体のバランス取りの動きを妨げないことも好印象だ。それに、身長161cmの私でも跨ったままのサイドスタンド操作が可能だし、ハンドル切れ角がネイキッドモデルとして大きめなこともバランス取りを助けてくれる。シートの高さは十分に補われているのだ。




 発進していくと、ますますホッとした気分にさせられる。ビッグVツインにありがちなゴツゴツ感がなく、マイルドでスムーズで、粘りもあるからだ。しかも、低回転域からのトルクフルぶりときたら、クルーザーを思わせる。と書くと鈍重なイメージもあるが、そうではない。トルクの厚さゆえにキビキビと走れるし、味わいもあるということだ。


 そして圧巻は、ワインディングロードでのコーナリングだ。スペックからしても、ホイールベースが1524mmで前後輪19/18インチの車体は、それらが1400mm少々で前後17インチの純粋なロードスポーツほどに良く曲がるわけではない。でも、苦手とは一切感じさせないのだ。


 あくまでも素直で、ニュートラル性を維持。マシンの旋回性能に気後れすることなく、自身の意思で曲げていくことができる。だからこそ、スポーティにコーナリングを楽しむことができる。しかも、150mmという大きめ前後サスストロークと大径ホイールのおかげで、荒れた路面でも抜群の走破性を見せてくれる。まさにサーキット指向ではない公道向きのハンドリングだ。




 もし、このFTR1200をあえてカテゴリー付けするなら、ビッグVツインネイキッドとするのが適当かもしれない。しかし、フラットトラッカーのエッセンスが投入されたことで、無類のオールマイティさを発揮してくれる。クルーザーのエモーショナルさと走りの優雅さ、アドベンチャーツアラーの快適さと懐の深さ、ストリートスクランブラーの機敏性とスポーツ心を併せ持ったロードスポーツなのである。







情報提供元: MotorFan
記事名:「 トラッカー? クルーザー? インディアン・FTR1200に乗ってその正体を確かめた。