「世界レベル」を明確に見据えた、15代目の国内専用車 トヨタ・クラウン
すべてにおいて世界基準を凌駕することを目標につくられたトヨタ・新型クラウン。そのための武器はGA-Lプラットフォームとニュルでのテスト。果たしてその結果は、コーナーをひとつクリアしたところで明確に現れた。
REPORT●山本シンヤ
PHOTO●平野 陽/中野幸次
※本記事は2018年8月に取材したものです。
1955年にトヨタから初代クラウンが登場して以来、日本のモータリゼーションの発展とともに進化・熟成を重ねてきた「クラウン」。一部海外輸出も行なわれているが、基本は“日本専用モデル”というスタンスで、良くも悪くも「日本人のための高級車」を体現したモデルと言えるのがクラウンだろう。
そんなトヨタ・クラウンは「保守的なモデルの代表」と言われることがあるが、それは大きな間違いだ。クラウンの歴代モデルを振り返ると時代背景や世相、トレンドに合わせ、さまざまな技術/アイデアを用いながら柔軟に対応してきていることがわかる。そんな中、十五代目は日本専用車ながら、世界基準を満たすことを目指し、トヨタのクルマづくりの構造改革『TNGA』の技術をフル活用して刷新された。
クラウンのエクステリアは、いわゆる4ドアセダンの王道からリヤウインドウを寝かせた6ライトの伸びやかなスタイルに変貌。ジャガーXJのようなプロポーションバランスと言ったら言い過ぎか!? 法人需要を捨てパーソナルユースに絞ったことを考えると、クラウンのこの変化は許容範囲内。サイドからリヤは「これがクラウン?」と思う変わり様だが、フロントマスクは先代の“稲妻グリル”の雰囲気を残しつつ、よりスマートなデザインだ。
ボディサイズは日本のユーザーを重視して先代クラウンとほぼ同じだが、ホイールベースは先代+㎜と先代マジェスタの2,925㎜に迫る2,920㎜。ホイールベース拡大分は主に後席スペースに用いられている。
クラウンのインテリア(内装)もエクステリア同様に刷新。前席はコックピット感覚が強くなっており、インパネまわりはシンプルな形状ながら質の高いデザインを採用。特徴的なのは上下にレイアウトされたダブルディスプレイ仕様。インターフェイスは刷新されたが、実は操作レイアウトは先代から大きく変更されていない。また、細部のつくり込み品質も徹底しており、見た目の質感のみならず、カップホルダーを含めた可動部品の動作スピードやスイッチの触感、ドアハンドルの握りやすさ、ドアの開閉音のチューニングなどなど、そのこだわりはレクサス顔負けのレベルだ。
居住性は、TNGAモデルの多くは低重心にこだわりヒップポイントも低めの設定が多かったが、クラウンは先代とほぼ同じ。頭上スペースもエクステリアを見ると窮屈そうに感じるが、ルーフラインを上手に取ることで見た目以上の広さを確保。
トヨタ・クラウンのメカニズムは十代目から延々と使われてきたプラットフォームに別れを告げ、TNGAの元に開発された新プラットフォームに刷新。基本骨格はレクサスLS/LCと同じGA-Lだが、全幅1,800㎜に収めるために幅が狭められ、レクサスGS/IS用のマルチリンクをクラウン用に最適化したリヤサスと組み合わせた、通称「GA-Lナロー」だ。
走りの味つけは、先代のクラウンでは「快適性重視のロイヤル」、「走りのアスリート」とキャラクターや目的を完全に切り分けていたが、新型は「クラウンをひとつにする」をテーマに、ノーマル系を乗り心地と走りで先代アスリートを超えるレベルに引き上げ、さらにより走りを意識した「RS」のセットアップが行なわれている。
パワートレーンで主力となるのは縦置き2.5ℓダイナミックフォースエンジン(A25A-FXS)+モーター、走りのフラッグシップとなる2.0ℓ直噴ターボ((AR-FTS)、そして、先代マジェスタの代替え需要も意識したラグジュアリーな3.5ℓV6(8GR-FXS)に有段ギヤを組み合わせたマルチステージハイブリッドの三つを設定する。
では、トヨタ・クラウンに実際に乗るとどうなのか?まずは、新型クラウンの主力となる2.5ℓハイブリッドのノーマル系のメインモデル「G」に試乗。
先代クラウンとの差は走り始めてひとつ目のコーナーを曲がるだけで、誰でもわかるレベルである。余分な振動は抑えながらダイレクトさがある心地良いダルさを残したステアフィール、操作に対するクルマの応答性の高さや正確性、リヤの接地性の高さなどから、軽めのパワステやロールを活かした穏やかな動きながらもクルマを信頼できる安心感とバランス良く自然に曲がるハンドリング。タイヤは215/55R17サイズのヨコハマ・ブルーアースを履く。グリップ重視の性格ではないが、タイヤの性能を使い切れるシャシーなのだ。
それを実現したのは飛び道具ではなく、フロントミッドシップ、重量物の最適配置や低重心設計、前後重量配分50対50と原理原則に基づいた設計のGA-Lプラットフォームと、欧州でも通用することを目標にニュルブルクリンクを含めた欧州の道で鍛えた結果だ。筆者はこれまでクラウンをワインディングで走らせて「楽しい」と感じたことは一度もなかったが、新型はあまりに衝撃的で、思わず試乗の“おかわり”をしてしまったくらいである。
ベーシックな仕様でも当たり前のことが当たり前にできる走りに、欧州車と同じ匂いを感じたが、単に「ポテンシャルが高い」「ハンドリングに優れる」だけでなく、「乗り心地の良さ」や「目線が動かなくて疲れない」「ガサツな振動は入れない」といった歴代クラウン伝統の味は残されている。つまり「和洋折衷」か!?
今回のコースは比較的路面がフラットだったので快適性は相対評価となるが、ストロークが短く感じる上に動きが渋く、バネ下がドタドタする印象が強い先代に対して、新型はしなやかな足さばきとストローク感の高い優しい乗り味が印象的。
しかし、細かい凹凸や振動がサスペンションだけで吸収しきれていないのとアッパーマウントまわりで共鳴するような衝撃音が少し気になった。恐らくショックアブソーバーの初期の動きの渋さが原因だと思われるが、トヨタ・C-HRやトヨタ・86に採用されているZF製ショックアブソーバーなどが使えれば、より滑らかでアタリのいいシットリした質感の高い乗り味に化けると思う。
クラウンのAWDモデルにも乗ったが、今までだとFRでは安定性が足りず、フロント駆動で安定性を補うことから「舗装路でもAWDのほうがバランスがいい」といったケガの功名のようなことが起きていたが、新型クラウンはそもそも基本性能がレベルアップしているので、「トラクション性能がちょっといいかな?」というような程度。ただタイヤとフェンダーのクリアランスがFRモデルより明らかに広いのはちょっと興ざめだが……。
次に、同じ2.5ℓハイブリッドを搭載する「RS」に乗り換える。ノーマルの素性の良さを活かしながら、よりダイレクト感が高く精緻になったステアリングとリニアソレノイド式AVS、専用フロントスタビライザーによりロールと余分な動きを抑えたことで、操作に対するクルマの動きがより正確で、ボディがひと回り小さくなったかのようなキビキビとしたハンドリング。快適性はノーマルより硬めだが、むしろノーマルより迷いがないスッキリとした特性が好印象。ドライブモードセレクトのモード毎の差もわかりやすいが、5モードは多過ぎか!?
タイヤは225/45R18サイズのブリヂストン・レグノGR001を履くがレグノ=静粛性の高さだけでなくグリップレベルも高い。実はニュルブルクリンクを走ったテストカーには同じブリヂストンのポテンザが装着されていたが、ポテンザの性能をレグノにフィードバックさせたスペックなのだろう。
2.5ℓハイブリッドはモーターと低中速トルク&レスポンスがアップしたエンジンが相まって、先代と同じ排気量ながら力強さが全然違う。また、ラバーバンドフィールもかなり抑えられているため、日常走行の多くの領域でハイブリッドを意識することはないはず。驚いたのはブレーキで、回生協調ブレーキながら踏み込み力に対する自然なフィーリングとコントロール性の良さに、油圧ブレーキかと錯覚したくらいだった。
続いて秋山CEが「クラウン走りのフラッグシップ」と語る2.0ℓ直噴ターボの「RS」に試乗。実はこのモデルのみボディ補強が異なり、リヤのスタビリティをより高めるためのリヤフロアブレース、振動感を低減させステアリングの滑らかさと正確性をさらに引き上げるリヤパフォーマンスダンパーを装着する。
他の「RS」よりもハンドリングの純度が引き上げられ、ステアリングはよりクイックかつ高応答な味つけに。車両重量の軽さや軽量でコンパクトなエンジンによる前後バランスの最適化も相まって、「お前はスポーツセダンか!!」と思うくらいの回頭性と、狙ったラインを正確にトレースできるコントロール性、限界性能の高さが備えられている。
今回の走行コースの脇には白線が引かれていたが、そこに数㎝単位で寄せられるほどラインを正確にトレース可能。これはニュルブルクリンク近郊のカントリーロード(100㎞/hで対面通行)でのテストで、片手でも安心して走らせるための微小舵角のコントロール性にこだわった結果のひとつだ。
この微小舵角のコントロール性を実現させるために、新型はジオメトリーを新しくして振動入力感度を鈍くしたため、先代で振動・騒音のために装着していたステアリングシャフトの間に入るゴムカップリングを外した。これによりダイレクトなステアフィールを損なわずに余分な振動だけを消すことができたそうだ。
エンジンは先代+10㎰の245㎰(最大トルクは変更なし)だが、制御と排気レイアウトの変更により、ターボラグを抑えてピックアップが向上し、高回転までストレスなく回るようになった。ちなみに先代はサウンドに雑味がありクラウンのキャラクターには合わないと感じていたが、新型はアクティブ・ノイズ・コントロール(ANC)の活用で、嫌なノイズを抑え、本来の心地良いサウンドのみを聞かせる。ちなみにANCは全車標準だが2.0ℓ直噴ターボが最も効果があった。
最後は先代マジェスタの代替え需要も睨んだラグジュアリーユーザーを意識した3・5ℓV6マルチステージハイブリッドだ。レクサスLS/LCから水平展開された物だが、適合はすべてやり直している。その効果は絶大で、実はLSでは「静」と「動」のギャップが大きいことが気になっていたのだが、クラウンはモーター走行の粘り強さやエンジン始動時のマナーの良さなど、やっと高級車らしい仕立てになっている。
システム出力359㎰は歴代クラウン最強スペック。LSより300㎏軽量なボディも相まって動力性能は圧巻である。例えるならば、十三代目に設定された3.5ℓV6+スーパーチャージャーのコンプリートカー「+Mスーパーチャージャー」をより力強く洗練させた感じ?! 発進時からモリモリと湧き出るトルク、アクセルに連動したダイレクトな加速フィールも含めて、LSよりもマッチングがいいと感じた。
ハンドリングはノーマル/「RS」ともにV6搭載によるフロントヘビーな印象はほとんどなく、むしろ車重が増えた分だけクルマの挙動に落ち着きがある。GA-Lの懐の深さを実感した一方で、パワートレーンのパフォーマンスに対してタイヤの性能に余裕が少ないのも事実。個人的にはタイヤ幅を1サイズ上げるか同サイズでタイヤのスペックをアップグレードさせてもいいと思った。
個人的にはせっかくここまで走りにこだわったのならば、それをお披露目する場が欲しい。例えばニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦するのはどうだろう? トヨタが初めてモータースポーツに挑んだのは1957年のオーストラリア1周ラリーに参戦した初代クラウンである。トヨタでも最も歴史あるクルマを、もっといいクルマづくりの聖地であるニュルで鍛える、クラウンが変わったことをアピールするにはそんなストーリーも必要だろう。
新型クラウンからは、欧州車のような見た目も華やかでお腹いっぱいで満足なフルコースのディナーではなく、決して派手ではないがユーザーを第一に考えたひとつひとつのつくり込みやしつらえの良さ……そんな日本的なおもてなしが感じられた。これこそが歴代クラウンが受け継がれてきた秘伝の“味”なんだと思う。