REPORT◉高平高輝(TAKAHIRA Koki)
PHOTO◉田村 弥(TAMURA Wataru)
※本記事は『GENROQ』2019年4月号の記事を再編集・再構成したものです。
左右一体型となったキドニーグリルや新形状のヘッドライトユニットの他にも、何かが違うと思ったら、グリルの奥のラジエーターコアやブレースバーが見えないことに気がついた。新型のラジエーターグリルには自動シャッターが備わり、必要な場合のみ開くようになっている。効率のためには冷やし過ぎないのが最新のトレンドだ。Mスポーツゆえにフロントバンパーやスポイラーの形状がアグレッシブだが、それを除けばこれまで通り、間違いなく3シリーズに見えるとはいえ、新しいG20型3シリーズは全体的にまた一段と立派に成長したようだ。
実際、ボディの外寸は全長が70mm伸びて、サイズは4715×1825×1430mmとなり、ホイールベースも40mm延長されて2850mmになっている。中でも注目は全幅である。ご存知のように従来型3シリーズは日本向けにドアハンドルの形状を工夫してまで1800mmに抑えていたが、今回の新型ではトレッド拡大の影響で明確にその枠を超えてきた。それでも、BMWとしては使い勝手を考慮したサイズだという。これでCクラスを逆転し、3シリーズのほうがわずかに大きくなった。
外観以上に様変わりしたのがインストゥルメントである。全体的なインテリア配置は従来通りのBMW流だが、計器類はフルデジタルスクリーン(12.3インチ)にアナログメーターを映し出すタイプとなり、しかもその表示スタイルはBMWが長年こだわってきた円形ではなく、六角形を半分に割ったような左右のフレームが速度計と回転計に当てられ、真ん中のスペースはナビゲーションなどを表示するウインドウになっている。さらに回転計はプジョーのような反時計回り表示に変更されている。レブリミット付近が中央上部に位置するため、なるほどトップエンドを使う場合には見やすいかもしれないが、他はなかなか当初は馴染めず、たとえばオドメーターを呼び出すのさえまごついた。長年BMWに慣れ親しんだ人ほど、最初はちょっと戸惑うかもしれない。
新型では運転支援システムも一新され、ウインドシールド上部の3眼式カメラとレーダーによって前方周囲の環境を検知する。走り出した当初にびっくりしたのは、車線に近づいた瞬間、グイッと引き戻す強力なアシストである。もちろん、設定を変更することはできるが、BMWはあえて律儀にレーンをキープする方針のようだ。とはいえ前走車への追従、車間コントロールのための自動ブレーキの作動具合などは滑らかで違和感がなく、一気に高速道路を駆ける今回のようなドライブでは大変楽ちんで役に立った。
また「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」なる対話型インターフェイスが搭載されたのもトピックだ。これはメルセデスのMBUXのように自然言語で様々な機能をコントロールするシステムで、呼びかけのキーワードもドライバーが設定可能という。新機能が多すぎて色々と試す余裕はなかったが、少なくとも走行中にナビの目的地を設定する場合の音声認識の正確さは新型Aクラスよりも優れているのではないかと感じた。ちなみに「ヘッドライトを点けて」などという重要操作に関する呼びかけには「その操作には対応していません」とSiriのように若干冷たく答える。この種の呼びかけには無言を通すMBUXとは違った思想だが、BMW方式のほうが「発音が悪かったのか?」と悩まずにすみそうだ。
メルセデスやアウディがスポーティ志向を強めてBMWに寄せていることは衆目の一致するところだが、俊敏さを掲げる彼らとはBMWは依然としてちょっと方向性が違う。スタンダードモデルの乗り心地はむしろCクラスやA4よりも穏当であり、姿勢変化を無理矢理抑えるタイプでもなかった。ただし、この新型はMスポーツであり、明確にフラットで引き締められた足まわりを備えていたが、それについてはちょっと説明が必要だろう。
ビシッというハーシュネスと無縁なことは言うまでもないが、ソリッドというよりは何だかモコモコした分厚いラバーソールのスニーカーを履いているような、ダイレクトではない感触がある。それでも接地感は十分で丸い小石を踏んだことが分かるようなインフォメーションは伝わるものの、路面が荒れた部分ではゴロゴロした感覚があるのはランフラットタイヤを履いているせいか、あるいはMスポーツ専用のサスペンションのせいなのか、ちょっと奇妙な感覚だ。
Mスポーツは本来18インチが標準だが、この車にはオプションのファストトラック・パッケージ(28万3000円)が備わっており、タイヤは19インチサイズにアップ(ブリヂストン・トゥランザT005ランフラット)、さらに同パッケージにはアダプティブMサスペンションとMスポーツディファレンシャルが含まれている。BMWが言うところのドライビングパフォーマンスコントロールでモードを切り替えても基本的には同じであり、コンフォートやエコプロモードではもう少しソフトな設定でも問題ないと思うのだが、こういうところでスポーツ性を鮮明に主張したかったのかもしれない。
もっとも、飛ばすと頑丈なスポーツシューズ感覚は実に頼もしい。BMWらしく、ステアリングレスポンスはピーキーすぎない。CクラスやA4のほうが初期応答は鋭く、敏捷であることを意識して強調しているようだが、BMWはそこまでスパスパ切れる回頭性を追求するのではなく、よりリニアな反応を重視している。コーナリング中にさらに切り込んだり、戻したりする場合でも正確なステアリングインフォメーションを伝えてくれるのが美点。
どんな場合でもフロントタイヤを望む場所に置けるという自信が、道幅一杯を使う気にさせてくれる。しかもスポーツディファレンシャルの効果か、グイグイ路面を蹴り出すトラクションは強力で、もう「M」に近いのではないかと感じたほどだ。ひとつだけ注文をつけるならば、ステアリングホイールのリムはもう少し細いほうがリニアなコントロール性が際立つのではないかと思う。
これでスタンダードシリーズのMスポーツなら、今後登場するであろうMパフォーマンスモデルや本当の「M3」はどのような性能を持つのか、と要らぬ心配(と期待)をしたくなるほどだが、同時により滑らかなはずの標準サスペンションも試してみたいと思う。色々と楽しみな新型3シリーズの登場である。
SPECIFICATIONS BMW 330i Mスポーツ
■ボディサイズ:全長4715×全幅1825×全高1430㎜ ホイールベース:2850㎜
■車両重量:1630㎏
■エンジン:直列4気筒DOHCツインターボ 総排気量:1998㏄ 最高出力:190kW(258㎰)/5000rpm 最大トルク:400Nm(40.8㎏m)/1550~4400rpm
■トランスミッション:8速AT
■駆動方式:RWD
■サスペンション形式:Ⓕダブルジョイントスプリングストラット Ⓡ5リンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ225/45R18(7.5J) Ⓡ255/40R18(8.5J)
■環境性能(JC08モード) 燃料消費率:15.7㎞/ℓ
■車両本体価格:632万円