発売時期は? 価格は? まだヴェールに覆われている部分の多い新型カタナに、モータージャーナリストの和歌山利宏さんが乗った。 PHOTO●重松浩平/SUZUKI REPORT●和歌山利宏
スズキからあのカタナが復活した。 初代カタナのショーデビューは80年秋のケルンで、市販開始は翌81年だったから、当時を実体験として思い出せる人はさほど多くはないだろう。でも、たとえバイクにさほど興味がなくても、カタナと呼ばれるバイクの存在を知っている人は少なくないはずである。 初代カタナGSX1100Sは、80年に市販開始されたGSX1100Eをベースに、ハンス・ムートの奇抜とも言えるデザインを纏ったカフェレーサーとしての登場であった。 ライディングポジションは遠く前方の低いハンドルに手を伸ばす伝統的なカフェレーサースタイルで、カタナというネーミングやインパクトのあるスタイリングに見合うように、乗り味にも切れがあった。ベースの1100Eよりも車高が15㎜高められたことでバンク角も増大、腕に覚えのある走り屋好みのバイクに仕上がっていた。 当時は排気量上限を750ccとする自主規制のため、国内ユーザーには逆輸入車として供給されることになったが、欧州での販売が終わってからも、94年には国内モデルとして再販が実現。00年には排気量に因んだ1100台限定のファイナルエディションが生産され、その生涯を閉じることになる。 ここまで人々に支持されてきたのは、一つにスタイリングのいい意味でのアクの強さによるものが大きいと思う。料理で最初こそ味に個性の強さを感じても、それが病みつきになるのに通じるものがあると感じるのは、私だけではないだろう。そして、スタイリングと走り味が身体の中で溶け合っていくかのようであった。 カタナスタイリングを懐かしむ人は、ヨーロッパにもいた。スズキイタリア、現地の設計事務所やデザイナーによって、プロトタイプが製作され、17年のミラノショーに出展されたのだ。 それが、それまでカタナの復活を心の中に抑え込んでいた本社サイドの人たちに灯を付け、異例の短期間の開発によって、ここに新生カタナが誕生したというわけである。
この新型は、GSX-S1000をベースとし、車体の基本やエンジンを共用している。だから、素性は今日的に洗練されたスポーツバイクそのものである。 そもそもS1000のエンジンは05年型GSX-R1000用がベースとなっており、マイルドで日常域でも扱いやすく、スロットルワークにもスムーズにレスポンス。それでいて、高回転域への伸び感も爽快で、最高出力150psは場所が許せば使い切れるエキサイティングさである。ハンドリング面でも、車体から情報量が豊かで、日常域でマシンと通じ合うことができる。R1000譲りの高剛性な車体が150psを受け止めてくれても、しなやかなで軽快感に満ちているのだ。 そこには、初代のイメージとしてある硬派なスパルタンさはない。新生カタナには初代型から40年のバイクの進化が具現化されていると考えていいだろう。 意外でもあったのが、カフェレーサースタイルの初代型に対し、この新型はベースのS1000よりもむしろライポジはアップライトであることだ。ハンドルは高くて広く、着座位置も前方に移動している。言ってみれば、30年前の普通のバイクのライポジなのだ。その意味でも、初代型とはコンセプトがまったく違う。 ただ、あまりに平常心で乗れるライポジのため、ややもすると最初はサスペンションの動きを硬質に感じ、生まれつきの今日的なスポーティな素性に気付きにくいかもしれない。 だが、こいつの真の素性はあくまでも今日的なスポーツバイクなのだ。第一印象にある普通の大型車としての魅力に浸るのもいいが、身体がダイナミックに踊り始めれば、スポーツライディングを日常域で堪能できるのである。