アドベンチャーツアラー的なスタイルをまとったホンダの400Xは走る場所を選ばないミドルサイズモデルとして支持されていた。3月22日に発売された新型は、同じ雰囲気を踏襲も、堂々と立派なモデルに変身。クロスオーバーモデルとして走りの性能と乗り味に大きな進化をもたらした。




REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダ・400X・・・・・・811,080円

車体色はグランプリレッドとマットバリスティックブラックメタリックの2タイプがある。

 発表時のプレスリリースによれば「冒険心を呼び起こす、正常進化 Cross Over !」とある。写真を見る限り、大して変わらないマイナーチェンジだろうと、そう思っていた記者だったが、実際に新型400Xを目の当たりにすると、それが間違いであったことにすぐに気がついた。




 まずは堂々と立派になったフォルムが印象深く、一新されたフロントカウル周辺のデザインも相まって、とても逞しくなった印象を受けたからだ。全体の車格感は手強さを覚えるほど大柄ではないが、400X自らの姿からどこか自信が漲っているようにさえ見えたのである。




 開発責任者のお話も400Xに込められた思いの丈が熱く伝わってくるものだった。詳細なメカニズム解説は割愛するが、エンジンもサスペンションも、またライディングポジションや排気音に至るまでとことん、それもかなりレベルの高い改善が加えられた。




 吸気バルブのリフト量やタイミングの変更、吸排気系の新作。インジェクターも変更されて全域で出力特性を向上。特に実用域となる3000〜7000rpmでは3〜4%ものトルクアップを果たしていると言う。




 他にも変更点は多岐に及び、その商品力と魅力度向上は侮れない。ABSも制御が新しくなり、前後バランスのチューニングも徹底。56km/h以上の速度で急ブレーキを掛けるとエマージェンシーストップシグナル機構が働いて自動的にハザードランプを高速点滅してくれる。


 


 そして何よりも見逃せない変更点がフロントに19インチホイールを履いた点である。ホイールベースも25mm長くなった1435mm。前モデルの前輪は120/70ZR-17だったが、新型は110/80R-19をマッチ、つまり細めの大径タイヤを選択。リプレスタイヤの選択肢と言う意味でも、アドベンチャー(オフロード)色を意識したものに変更されたのが大きな特徴点なのである。

400Xの佇まいには、ツーリングへ誘ってくれる不思議な魅(魔)力がある。

 実際、試乗のため数日400Xを預かった筆者は、好天にも恵まれて、予定外のプチツーリングに出かけてしまった。動機は東京で見逃した満開の桜を追いかけて見たくなったからだ。


 


 400ccと言う排気量から想像できる穏やかであろうパフォーマンスと、200kgに満たない車両重量、十分に立派な車格感ながらも決して大き過ぎない程よさからくる全体のバランス等の全てが、「何処かへ出かけてみないか」!?と、まるで400Xに話しかけられているような気分になったのだから不思議なものである。




 それなりに大柄だが、ハンドル位置が高いから車体の引き起こしや車庫からの出し入れもそれほど大変ではない。前方の見晴らしが良いアップライトなライディングポジションだが、足つき性に不安は感じられない。そして驚きの軽さ(握力)で操作できるクラッチ等が、気楽な乗り味を象徴する。




 おまけにハンドル切れ角も前モデルの35度〜38度へと大きく切れるようになり、Uターンや切り替えしも楽々と決められる。近所の足からロングツーリングまでオールマイティーな機能性と程よい(欲張らない)ポテンシャルを求めるなら、まさにベストチョイスと思えてきた。




 すごくパワフル!というわけではないが、十分に逞しいトルクが発揮でき、スタスタっと何気なくも力強いレスポンスで加速する様は頼り甲斐がある。正直、日本の交通環境下で使う限り、全く不足は感じられないのだ。




 おまけに19インチホイール採用の効果は大きく、常に悠然と落ち着きのある走りを楽しませてくれ、市街地から郊外、高速、そして峠道まで実に快適に走れてしまった。シートクッションは固めだが、その形状と車体幅とのマッチングが良く、股下でバイクと一体になれる感覚も良い。




 前後サスペンションもストロークを生かした仕事をしてくれ、特にリヤの進化が大きい。二人乗りプラス荷物満載でも快適なクルージングが楽しめる。良い意味で昔あったトランザルプ400と良く似た乗り味と魅力が感じられたのである。




 カスタムパーツも豊富に揃えられているので、自分好み旅マシンに仕上げる楽しさがある点も見逃せない。名前も含めて地味な存在に感じられるが、なかなかどうして非常に出来の良い優等生。長く付き合える良き相棒になりそうな魅力がある。それが正直な感想である。




 ちなみにアイドリング回転数は1200rpm。ローギヤで5000rpm時の速度は30km/h。6速トップギヤ100km/hクルージング時のエンジン回転数は5350rpm。約400kmのプチツーリングで満タン法計測した実用燃費率は28.6km/L。高速の速い流れでは28.1km/L、並の流れでは29.4km/Lだった。

⚫️足つき性チェック(ライダー身長170cm)



シート高は800mm。写真の通り少し両方の踵が浮いた状態になる。大柄な車体が感じられるも、足つき性は許容範囲。日常的な扱いに特に手強さは感じない。


⚫️ディテール解説

19インチフロントホイールの採用が大きな変更点である。右側に7点フローティングマウントされたシングルディスクローターはφ310mm。Nissin製ピンスライド式油圧キャリパーがセットされている。

前モデル比較で約20mm高められたウィンドスクリーンを装備。膝への走行風も含めて快適なウインドプロテクション効果が追求されている。

吸気系のストレート化を始め、バルブタイミングや燃料噴射装置の変更で燃焼改善。全回転域でトルクアップを果たした。

クランクケース下部から右側に出されたショートアップマフラーのエンドパイプは2本出しに変更された。触媒前後のパイプ径を拡大、パルス感と巡航時の排気音も徹底チューニングされトルクアップと心地よさに貢献。

ボトムにリンク機構を持つプロリンク式リアサスペンション。封入された窒素ガスとオイルが分離された分離加圧式シングルチューブタイプのモノショックがマッチされている。

一文字に近い(アップの度合いが少ない)バーハンドルはテーパードタイプ。ハイトの高いハンドルブラケットを介してハイマウントされている。

グレーのスイッチはホーンボタン。下はプッシュキャンセル式のウインカースイッチで上の黒いのはディマースイッチだ。
3色に色分けされた右側のハンドルスイッチ。それぞれのスイッチは大きくデザインされていて、ウインターグローブでも扱いやすい。中のグレースイッチはハザードランプ用。


多くの情報を見やすく表示するフルデジタルメーターも新設計。時計、燃料計、燃費計、平均速度の他にも多彩な機能満載。上部のバーはアクセサリーの装着にも活用できそう。

スッキリとしたデザインのダブルシート。全体に固めのクッションが好印象。後方左右のグラブバーも含め、二人乗りもしやすいバイクに仕上げられている。
ダブルシートは一体式 。左側シート脇下部のキー操作で固定解除し、脱着できる。後部を浮かせて後方へ引き抜く方式だ。


クリアレンズを採用したテール&ストップランプ。もちろん点灯時は赤く光るLED方式が採用されている。コンパクトなウインカーはオレンジの光を放つ。

◼️主要諸元◼️

車名・型式 ホンダ・2BL-NC56


全長(mm) 2,140


全幅(mm) 825


全高(mm) 1,380


軸距(mm) 1,435


最低地上高(mm)★ 150


シート高(mm)★ 800


車両重量(kg) 196


乗車定員(人) 2


燃料消費率*1


(km/L) 国土交通省届出値:


定地燃費値*2


(km/h) 41.0(60)〈2名乗車時〉


WMTCモード値★ (クラス)*3 28.3(クラス 3-2)〈1名乗車時〉


最小回転半径(m) 2.5


エンジン型式 NC56E


エンジン種類 水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒


総排気量(cm3) 399


内径×行程(mm) 67.0×56.6


圧縮比★ 11.0


最高出力(kW[PS]/rpm) 34[46]/9,000


最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 38[3.9]/7,500


燃料供給装置形式 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉


始動方式★ セルフ式


点火装置形式★ フルトランジスタ式バッテリー点火


潤滑方式★ 圧送飛沫併用式


燃料タンク容量(L) 17


クラッチ形式★ 湿式多板コイルスプリング式


変速機形式 常時噛合式6段リターン


変速比


 1速 3.285


 2速 2.105


 3速 1.600


 4速 1.300


 5速 1.150


 6速 1.043


減速比(1次★ /2次) 2.029/3.000


キャスター角(度)★ 27゜30′


トレール量(mm)★ 108


タイヤ 前 110/80R19M/C 59H


後 160/60R17M/C 69H


ブレーキ形式


 前 油圧式ディスク


 後 油圧式ディスク


懸架方式


 前 テレスコピック式


 後 スイングアーム式(プロリンク)


フレーム形式 ダイヤモンド

◼️担当者(近田 茂)プロフィール

元モト・ライダー誌創刊スタッフ。約36年の時を経てモーターファン.jpのライターへ。オーナー気分になり、十分使い込んだ上での記事執筆に努めている。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 【実走燃費28.6km/L】ホンダ・400Xは”何から何までちょうどいい”、そんなバイクである。