REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
自動車ディーラーに限らずあらゆる営業職においてそうだと思いますが、個々の営業スタッフには月・四半期・年度単位で、様々な「ノルマ」が課されます。そのため月末・四半期末・年度末、とりわけ年度末にノルマ未達の場合は、少しでもノルマ達成に近付くため、普段ならば店長や役員の決裁が降りないような無茶な値引き条件でものんでしまうことがままあります。
なお「ノルマ」とはロシア語で、旧ソ連において労働者に割り当てられた仕事の基準量を指し、第二次世界大戦後に旧ソ連圏に抑留された日本人が持ち帰った言葉なのだそうです(「コンサイスカタカナ語辞典第4版」三省堂編修所・編)。
そのなかで最も大きいのはやはり新車の販売台数、もっと正確に言えば登録車=軽自動車以外の場合は運輸支局の検査登録事務所に「登録」、軽自動車の場合は軽自動車検査協会に「届出」した台数でしょう。
……ここ、重要です。「契約」台数ではありません。なぜなら、ディーラーが新車販売の売上を計上し、また政府や業界団体、自動車メーカーが販売台数としてカウントするのは、あくまで「登録・届出」台数、つまり車検証とナンバープレートを取った時点をベースとしているからです。
ですから、いくら年度末の直前にお店に行って新車を注文しても、それが年度末までに「登録・届出」できるものでなければ、営業スタッフやその上司である店長・役員は、大幅値引きをのんでまで売ろうとは考えません。
なお、ディーラーにもメーカーにも在庫がない車種・仕様を新規で発注した場合、納車まで早くとも1ヵ月前後かかります。そのため3月も半ばを過ぎてからお得にクルマを買おうと動いても、それができるのは必然的に、3月末までに登録・届出できる在庫車ということになります。
しかしながらこの在庫車、ディーラーにとってはすぐに登録・届出できるというビッグチャンスの備えであると同時に、不用意に抱えれば売れ残って貴重な保管スペースも食い潰し、挙げ句の果てには自社登録・届出し中古車(=未使用車)として販売するか試乗車にする必要に迫られて数十万、高級車であれば最悪百万円単位の損失を被る…というリスクでもあります。
一方でメーカーは、工場の設備・人員をそう簡単には増減できないので、極力毎月計画通りの台数を生産したいというのが本音です。また大幅値引きによる乱売や未使用車の大量流出が続けばその車種の中古車相場は下がり、ひいてはそのブランドの市場価値も下がっていきますので、これも防ぎたいところです。
そのため、ブランドによって差や違いはあるようですが、近年はディーラーが発注できる台数に、過去の販売実績や当期の販売計画などに応じて車種ごとに枠を設けることで、生産台数を平準化しつつ在庫を減らすよう働きかける動きが見られます。
つまり、お買い得な在庫車を狙うのは今や、かつて以上に容易ではありません。ましてや希望に合致する車種・仕様・ボディカラーを見つけるのは、宝くじで一等・前後賞を当てるのに匹敵する運が必要…というのは過言かもしれませんが、お目当てが量販車種であっても困難というのは断言できます。
そろそろ結論に入りましょう。「クルマを買うなら年度末がお得」という定説は、今でも正しいと言えます。ただし、3月下旬の時点で破格の条件が期待できる在庫車を狙うのは、かつて以上に困難になりました。
これからお得にクルマを買おうとしているあなたに最も必要なのは、ディーラーの営業スタッフが気持ちよく大幅値引きしてくれるツボを突くノウハウではありません。限りなく希望に近い車種・仕様・ボディカラーの在庫車を持つディーラーを見つける「運」です。