REPORT◉大谷達也(OTANI Tatsuya)
PHOTO◉田村 弥(TAMURA Wataru)
※本記事は『GENROQ』2019年3月号の記事を再編集・再構成したものです。
シボレー・カマロSS、レクサスRC F、そしてジャガーFタイプをひとつの俎上に乗せる企画など、10年前だったら一顧だにされなかっただろう。そもそも車両価格はカマロSS:680万円強、RC F:982万円強、Fタイプ:1834万円と3倍近い開きがあるのだ。
それでもこの企画が成立したのは、2017年に発売された6代目カマロが驚異的な進化を遂げ、日本勢やヨーロッパ勢をあっと驚かすクオリティとコストパフォーマンスを実現したからに他ならない。
最新カマロのハイパフォーマンスバージョンであるSSと私が初めて出会ったのは、いまからちょうど1年前のGOTYでのこと。アメリカ車の常識を打ち破るパフォーマンスの高さに打ちのめされた私は、その誌面で「走りの完成度でいえばドイツ製のよくできたスポーティクーペに肉薄する」と褒めちぎった。
新型が発売されて1年後の2018年秋には早くもそのマイナーチェンジ版が登場。前後のデザインが手直しを受けたほか、カマロSSのギヤボックスはそれまでの8速ATから10速AT(!)へと進化した。今回、改めてテストしたのは、この10速ATを搭載した最新のカマロSSである。そしてその対抗馬に選ばれたのが、同じV8エンジンをフロントに積むFタイプとRC Fだった。奇しくも米、英、日の3ヵ国が揃ったスポーツモデル対決。その比較試乗はちょい濡れの短いワインディングコースで始まった。
最初にステアリングを握ったのはRC F。レクサスらしく、荒れた路面でもロードノイズが低く抑えられ、ノコギリの歯のような鋭い凹凸の路面にも滑らかに足まわりが追随する様はさすがというしかない。サスペンションは全般的に柔らかめだが、滑りやすいコンディションを軽く流す程度のペースであればロールも小さく、安定した姿勢を崩さない。
ステアリング、スロットル、ブレーキに対する反応が鋭すぎないところも個人的には好み。「いやいや、スポーツモデルなんだから、このレスポンスはダルでしょ」と思う方はドライビングモードをスポーツ+に切り替え、アクティブ・デフを電子制御するTDVでスラロームを選択すれば、ステアリングもスロットルもそれまでよりもはるかにビビッドに反応してくれるはずだ。
ただし、濡れたワインディングロードを走っていて、ドライバーの背中をそっと押してくれるような安心感がついに得られなかったのも事実。別にコーナリング中にタイヤが滑ったわけでもないが、なぜかクルマに全幅の信頼を寄せることができなかった。この点はステアリングフィールがやや乏しいこととも関係があるのかもしれない。
レクサスRC F
■ボディスペック
全長(㎜):4705
全幅(㎜):1850
全高(㎜):1390
ホイールベース(㎜):2730
車両重量(㎏):1790
■パワートレイン
エンジンタイプ:V型8気筒DOHC
総排気量(㏄):4968
最高出力:315kW(477㎰)/7100rpm
最大トルク:530Nm(54.0㎏m)/4800〜5600rpm
■トランスミッション
タイプ:8速AT
■シャシー
駆動方式:RWD
サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント:ベンチレーテッドディスク
リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:255/35ZR19
リヤ:275/35ZR19
■性能
0→100㎞/h加速:ー
最高速度:ー
■価格:982万4000円
続いて最新のカマロSSに乗り込む。頑丈なボディの印象は1年前に試乗した時とまったく変わらなかった。足まわりは硬めだが、微低速域では動き出しがスムーズでこわばった印象を与えない。この高い剛性感のボディとソリッドな足まわりが相まって、タイヤの動きと接地状態を素早く、そして細大漏らさずドライバーに伝える神経系ができあがったのだ。これこそ、カマロSSが従来のアメリカ製スポーツクーペと決定的に異なる点であり、タイヤの限界を引き出すようなコーナリングを楽しめる最大の要因といえる。
ただし、RC Fから乗り換えるとランフラットタイヤがときにばたつき、鉄製のジョイント部を通過する際には瞬間的に接地性が薄れることが確認された。それはごくまれにしか体験できない例外的な現象であり、これをもってしてカマロSSを断じるのはいささか不公平というもの。とはいえ、RC FとカマロSSの違いを敢えて際立たせるのであれば、前者は快適性を重視した結果としてステアリングフィールが乏しく、後者はスポーツ性重視のため足まわりの動きに粗さを感じると説明するのは間違いではなかろう。
シボレー・カマロSS
■ボディスペック
全長(㎜):4785
全幅(㎜):1900
全高(㎜):1345
ホイールベース(㎜):2810
車両重量(㎏):1710
■パワートレイン
エンジンタイプ:V型8気筒OHV
総排気量(㏄):6153
最高出力:333kW(453㎰)/5700rpm
最大トルク:617Nm(62.9㎏m)/4600rpm
■トランスミッション
タイプ:10速AT
■シャシー
駆動方式:RWD
サスペンション フロント:マクファーソンストラット
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント:ベンチレーテッドディスク
リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:245/40ZR20
リヤ:275/35ZR20
■性能
0→100㎞/h加速:4.0秒(0~60mph)
最高速度:―
■価格:680万4000円
いずれにせよ、湿ったワインディングロードで2台を走らせたときに軽い不安感に襲われたのは紛れもない事実。ところがFタイプに乗り換えるとそうした印象が一掃され、揺るぎない自信を持って操ることができたのは大きな驚きだった。しかも、走り始めた直後の、タイヤがひと転がりするかどうかという段階で早くもそう感じ取っていたのだから、クルマの挙動がどうかというよりも、もっと本能的な部分で「ああ、このクルマだったら信頼できる」と直感したことは明らかだ。
ただし、じっくりとFタイプの走りを観察してみれば、そうした直感が単なる先入観だけではなかったことが理解できる。サスペンションの“硬さ”という面でいえば、ジャガー・ランドローバーのスペシャル・ビークル・オペレーションが仕立てたFタイプSVRはRC FよりもカマロSSに近いポジションにいる。ただし、おそらくはバネ下重量がより軽量で、ダンパーのセッティングが巧妙なために、ステアリングフィールとロードホールディングの双方をより高い次元でバランスさせることができたのだろう。カマロSSと違ってランフラットタイヤを履いていないことも、Fタイプにとって有利に働いていたはずだ。
ジャガーFタイプSVRクーペ
■ボディスペック
全長(㎜):4480
全幅(㎜):1925
全高(㎜):1315
ホイールベース(㎜):2620
車両重量(㎏):1840
■パワートレイン
エンジンタイプ:V型8気筒DOHC スーパーチャージャー
総排気量(㏄):4999
最高出力:423kW(575㎰)/6500rpm
最大トルク:700Nm(73.2㎏m)/3500rpm
■トランスミッション
タイプ:8速AT
■シャシー
駆動方式AWD
サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン
サスペンション リヤ:ダブルウイッシュボーン
■ブレーキ
フロント:ベンチレーテッドディスク
リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:265/35R20
リヤ:305/30R20
■性能
0→100㎞/h加速:3.7秒
最高速度:322㎞/h
■価格:1834万円
続いて高速道路で3台の動力性能を比較すると、RC Fはここでもマイルドなキャラクターを守り抜いた。排気量5ℓの自然吸気ユニットは477㎰と十分なパワーを生み出すが、8速ATのトルコンスリップが大きめなせいか、パワーがダイレクトに後輪へと伝えられる印象が薄く、フルスロットルを試してもどこか“フ
ワッ”と加速していく。
いっぽうのカマロSSは排気量が6.2ℓとより大きいが、最高出力は453㎰でRC Fには及ばない。ところがスロットルペダルを床まで踏み込むと、高速道路でもトラクションコントロールの作動を知らせる警告灯が点滅し、それこそ背中を蹴飛ばされたような加速感が味わえる。この辺は617Nmの大トルク(RC Fは530Nm)に加え、反応が鋭く、トルコンのスリップをほとんど感じさせない最新10速ATの特性に負うところが大きいはずだ。
3台のなかで唯一過給エンジンを積むFタイプは575㎰/700Nmのパフォーマンスを誇るが、カマロSSのような過激なダッシュ力を生み出すことはなく、より洗練された加速感を示す。さらに、Fタイプの8速ATはRC Fよりはるかにダイレクト感に富んでいるし、エンジンの感触はカマロSSよりも一段と緻密に感じられる。言い換えれば、純粋な速さというよりもクオリティ感のある動力性能といえるだろう。
快適性の高いハイパフォーマンスカーが欲しいならRC Fを選ぶといい。ダイナミックな走りを楽しみたいならカマロSSがお勧めだ。ただし、FタイプSVRはこの2台よりもワンランク上の洗練というか質の高さを感じる。もっとも、価格が圧倒的に高いのだから、それも当然というもの。そう考えると、カマロSSのコストパフォーマンスの高さが改めて際立つ。いや、価格を言い訳にしていない優れたドライビング・ダイナミクスこそ、カマロSSの真骨頂というべきである。