究極のハンドメイドライトウエイトスポーツカー、モーガン。そして究極のプレミアムカーブランド、ロールス・ロイス。この対極とも言える2ブランドで旅をしたらどのような化学反応がおきるのか?ロールスの主力モデル・ゴーストとモーガン・ロードスターで小トリップに出かけた。




REPORT◉吉田拓生(YOSHIDA Takuo) PHOTO◉篠原晃一(SHINOHARA Koichi)




※本記事は『GENROQ』2019年3月号の記事を再編集・再構成したものです。

貴方がこの2台に愛着を抱くならば、 実に豊潤なクルマ人生を送れるだろう。

 近頃クルマに乗り込んで最初にすることはシートヒーターのスイッチを入れること。それからスマホのWi-Fi接続を確認する。しかる後、音声認識でナビの目的地を設定しようとすると、なかなか上手くいかずイライラした挙句にタッチパネルで入力するはめになる……。




 ところが今日はずいぶんと勝手が違っている。電子的な臭いがしないのだ。試しに「ハイ、モーガン!」と話しかけても返答はない。


 


 クルマ好きにとって平日の東名高速ほど退屈な場所はない。走っているのはトラックか、平凡なセダンかミニバンばかり。皆、親戚の葬儀に向かっているのか、ボディカラーは白か黒か銀色と決まっている。

ドア取り付け部をよく見るとボディ構造の一部に使われている木材(トネリコ)が確認できる(写真左)。

 そんな流れの中にあって、我々のコンボイはどう映るのだろうか?モーガン・ロードスターと、そのお尻を追いかけるロールス・ロイス・ゴースト。人ごみにまぎれた芸能人がサングラスとマスクをしていても大いに目立ってしまうのと同じように、この上なくシックに決め込んでいるにも拘らず、異様なまでの存在感が伝わってしまうのか、周りのクルマが道を開けていく。




 1936年に自社初の4輪車を造り上げたモーガン社は、今日まで83年間、その設計を変えていない。大メーカーから供給されるパワートレインは時代ごとにアップデートされているが、モーガン製のシャシー構造はそのまま。鉄骨によって前後車輪を結び、その上に木製のフレームを立ち上げ、アルミ製のボディパネルを釘と木ネジで固定していく。

極めてシンプルなインパネ。センター左にスピードメーター、右にタコメータが配置される。助手席側にはスマホやサングラスなどの小物を入れられる収納スペースも用意され ていた。

 多くの自動車メーカーのエンジニアが歩行者保護や衝突安全の呪縛から逃れられない昨今、なぜモーガンはシーラカンスのままでいられるのか? その秘密は、少量生産車は最新の性能テストを免除されるという英国の特別なルールに由来する。




 一方ロールス・ロイスもまた、特別なルールに守られて時を刻むブランドだ。世界中のどこに路上駐車しても駐禁を切られないし、砂漠の真ん中で故障してもヘリが補修パーツを届けてくれる、というのはもちろん都市伝説に過ぎない。だが親会社がどこの誰でも、ひと目でそれとわかる作品を造るはず。なぜなら、パルテノン神殿を模したグリルの上でスピリット・オブ・エクスタシーが飛翔するという様式美こそ、このブランドの絶対的な価値だからだ。




 誰も姫路城の荘厳な白壁を、最近の流行色だからと言って黄色に塗ることなどしないだろう。ロールス・ロイスを造るということは、国宝を忠実に修復しながら維持する行為に似ているのである。



 幌を降ろして走るモーガンの開放感を言葉で表現するのは難しい。強力なヒーターで下半身を温められた状態は露天風呂にも通じるものがあるが、目の前に広がる細くて長いボンネットとウイング(英国的にはフェンダーではなくウイングだ)は、戦前のグランプリカーのようでもある。ワインディングに繰り出すと、もう好奇の眼差しもなくなるので、自分ひとりの世界に没頭できる。




 現行のモーガン・ロードスターは、フォード製の3.7ℓV6を搭載している。その最高出力は284㎰に過ぎないが、これはマクラーレンのカーボンシャシーに2000㎰相当のエンジンを組み合わせることに等しい。そんな大出力に対応するため、マッチョなタイヤが組み合わされ、前後のウイングも90㎜拡幅し、ブレーキも増強されている。




 とはいえ、例え直線路でもこのパワフルなモーガンのエンジンをレブリミットまで回し切ることは難しい。タイヤが縦方向に暴れ出し「もう限界!」と思ってレブカンターを見ると、まだ5000rpmに満たなかったりするのだ。「2000㎰のマクラーレン説」はあながち嘘ではない。だからこそ山道におけるモーガンの走りは、今どきはバイク小僧でも言わない「ねじ伏せる」という表現が似合う。もちろん新車で買えるクルマの中で、ドライビングの充実感が最も高いと断言できる。



贅の限りを尽くした車内。手触りの良い上質なレザーがインパネ周りからぶ厚いシートに至るまで贅沢に使用されている。

 そんな荒々しいモーガンからゴーストに乗り換えると、竪穴式住居から豪華なホテルに引っ越したような気分になる。世の中たいていの贅沢はカネで手に入るが、これはその好例だ。仮想通貨に手を出して胃にポリープを作っているくらいだったら、ゴーストのマッサージシートに身を委ねていた方がはるかに健全で幸せな人生を送れる。




 括りとしてはセダンだが、ゴーストの視界は凡百のSUVよりもはるかに広く快適で、ハンドリングも思いのほか正確なので自分で運転しても充分に楽しむことができる。職業運転手に間違われたくなければ、可能な限りだらしない格好で乗ることをお薦めする。平日に上下グレーのスウェット姿でゴーストに乗り、吉牛に斜め駐車できたら、あなたは真の億万長者に見えるはずだ。

運転席はアップライトなポジションなので、視認性がとても良い。

ナビやオーディオを操作するスイッチはセンターコンソールに配される。

 モーガンとロールス・ロイスは、タイヤが4つ付いた英国製品という事実以外は何もかもが異なっている。だがそのどちらを手に入れたとしても、常人が決して窺い知ることのできない充実型の人生プランが待っているという共通項は存在する。愛車を可愛がるあまり大した財産を残せなくても、ひ孫の代まで栄光の車歴が語り継がれるに違いない。




 ドイツ車のレールに乗っかってしまったら、常に最新を追いかけ続けることでしか満たされる術はないが、愛着さえあればモーガンやロールス・ロイスが最新である必要はない。結局のところ、どちらも達観した人だけが辿り着ける終の乗り物であり、その道における「素晴らしき行き止まり」なのである。

2台のスペック

フォード製の3.7ℓV6は非常にトルキーで扱いやすいエンジンだ。

モーガン・ロードスター


■ボディスペック


全長(㎜):4010


全幅(㎜):1720


全高(㎜):1220


ホイールベース(㎜):2490


乾燥重量(㎏):950


■パワートレイン


エンジンタイプ:V型6気筒DOHC


総排気量(㏄):3726


最高出力:209kW(284㎰)/6000rpm


最大トルク:352Nm(35.9㎏m)/6000rpm


■トランスミッション


タイプ:6速MT


■シャシー


駆動方式:RWD


サスペンション フロント:独立スライディングピラー


サスペンション リヤ:リジッド


■ブレーキ


フロント&リヤ:ディスク


■タイヤ&ホイール


フロント:205/60R15


リヤ:205/60R15


■車両本体価格(万円):993.6

ロールス・ロイス・ゴースト


■ボディスペック


全長(㎜):5400


全幅(㎜) :1950


全高(㎜):1550


ホイールベース(㎜):3295


乾燥重量(㎏):2480


■パワートレイン


エンジンタイプ:V型12気筒DOHCツインターボ


総排気量(㏄):6591


最高出力:420kW(570㎰)/5250rpm


最大トルク:820Nm(83.6㎏m)/1500~5000rpm


■トランスミッション


タイプ:8速AT


■シャシー


駆動方式: RWD


サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン


サスペンション リヤ:マルチリンク


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク


■タイヤ&ホイール


フロント:255/50R19


リヤ:255/50R19


■車両本体価格(万円):3410
情報提供元: MotorFan
記事名:「 超異色のコンビでツーリング!? ロールス・ロイスとモーガンは英国製品のカガミだ!