TEXT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
カフェレーサーってそもそも何? 超絶にカッコイイけれど意味わからず 〈Z900RSカフェとかW800カフェとかSR400とか〉
スクランブルと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、緊急発進だろうか? 領空侵犯に対してスクランブル発進、とはニュースでよく聞くフレーズだ(なるべく聞きたくないけれど)。あるいは盗聴防止の周波数変換、という意味もある。有料チャンネルのスクランブル放送、といった具合だ。
だが、二輪で言うところのスクランブラーは、「よじ登る者、這いつくばって進む者」という意味を由来としている。ダートの坂道をぐいぐいと駆け上がるバイク、というところから命名されたらしい。
1960年代、日本はもちろん欧州や北米の自動車先進国でもまだまだ未舗装路が多かったが、本格的なオフロード車は存在していなかった。そこでオンロード用のバイクにブロックタイヤを履かせ、マフラー出口をカチ上げるなどして悪路走破性を高めたモデルが重宝されたのである。これがスクランブラーの始まりだ。
その後、サスペンションのストロークをたっぷりと採るなど、最初から悪路の走行を念頭に置いて開発されたオフロード車が普及すると、スクランブラーの存在価値は変化していく。
スクランブラーのベースはあくまでオンロード車であり、基本的ディメンションもそれに準ずる。だから激しい凹凸を乗り越えたり岩場を走り続けたりするのは苦手だが、一方でアメリカを中心に人気が高まっていたフラットダートレースでは、本格的オフロード車ほどの悪路走破性は必要とせず、依然としてスクランブラーのような車体構成が好まれていた。
したがってこの頃から、フラットダートトラッカーも含めてスクランブラーと呼ぶケースが多くなってきた。
やがてスクランブラーはオフロードテイストを漂わせたカスタムスタイルのひとつとして認知されるようになる。カフェレーサーと同様に、クラシックな雰囲気を醸し出しつつ、どこかオシャレかつ都会的であり、本気の性能が追い求められるオフロード車とは一線を画した存在になったのだ。
日本でもヤマハSRなどをベースにスクランブラーに仕立て上げるカスタマイズが80年代に流行し、欧州でも有名カスタムビルダーが数々のスクランブラーを手がけてきた。
そんななか、ヨーロッパでは2010年頃からメーカーが自ら往年のスクランブラーを現代流に復刻させたモデルをリリースし、にわかに人気が高まってきた。トライアンフ、ドゥカティ、BMWといった名門ブランドが、矢継ぎ早に現代版メーカー謹製スクランブラーをリリースし、今やひとつのカテゴリーとして確立された感がある。
ここまで読まれた方の多くは「欧州はスクランブラーを積極的にリリースしているのに、日本は何をやっているの?」と思われたことだろう。だがほんの最近まで、実は日本こそスクランブラー王国だったのだ。
1987年にヤマハがリリースしたTW200は、そのスクランブラー風テイストが受け、90年代には若者を中心に爆発的な人気を博した。そしてホンダFTR、スズキ・グラストラッカーやバンバン200といったフォロワーも登場し、200〜250ccのストリートトラッカーは一大ムーブメントとなったのである。
本格オフロード車ほどのサスペンションストロークは待たず、シート高も低く、それでいてブロックタイヤを履いて未舗装路も走れるこれらのトラッカーたちは、間違いなくスクランブラーそのものだった。
だが、2006年の道交法改正でバイクの駐輪取り締まりが強化され、都市部を中心に二輪車が激減! 若者のバイク離れが一気に進み、とくに若者に人気のあったストリートトラッカーはその影響をもろに受けてセールスを落としてしまう。
となると、新たな排ガス規制への対応にもコストが掛けられなくなり、08年にはTWが国内販売を終了し、17年のユーロ4施行に合わせてFTR、グラストラッカー、バンバン200も姿を消した。
排ガス規制への対応には莫大なコストが掛かるため、セールスの奮わないモデルが生産中止に追い込まれるのはしかたない。そもそも四輪車などと比べて環境への悪影響が少ない二輪車に、そこまで厳しい排ガス規制を施す意味があるのかという議論もあるが、クォータークラスの日本製スクランブラーたちが姿を消したのにはメディア側にも遠因があったのではないかと、個人的には思っている。
どうにも日本の二輪メディアには、TWやFTRを「バイクのことをあまり知らない若者向け」と決めつけて軽んじてきた風潮がある。確かにブーム当時、やたらとうるさいマフラーをつけ、スカチューンと称してエアクリーナーを取っ払い、爆音をまき散らすTWやFTRが街中に溢れていたのは事実だ。眉をひそめたくなる気持ちもわかるし、筆者もそうだった。
だがバイクそのものに罪はない。TWもFTRもグラストラッカーもバンバンも、軽くてパワーもほどよく、燃費に優れて価格も安いという、初心者やリターンライダーにはうってつけのすばらしいバイクたちだった。空冷単気筒エンジンのパルス感はなかなか味わいがあり、おまけにデザインだってカッコイイ。
しかし多くの二輪メディアは、ドゥカティのスクランブラーが復活したとき「さすがはドゥカティ。カスタマーの求めているものをわかっている。こういうものが日本にはない。やたらと性能ばかりを追求する日本のメーカーは見習ったらどうだ」といった論調を展開していた。
もちろんドゥカティのスクランブラーはすばらしい。けれど、なんで日本製スクランブラーの存在を忘れてしまっているのか? それが不思議でならなかった。それとも四輪メディアの筆者にはわからない、なにか決定的な問題点が日本製スクランブラーにはあったのかな?
話が脱線してスミマセン。とにかく、日本にはこんなにもユーザーフレンドリーなスクランブラーがあったのに、バイクの良さをユーザーに伝える役目を負ったメディアがその存在を無視していたことが残念でならない。
そして若者や女性やリターンライダーに優しく、かつベテランライダーが気軽に遊べるような現代版のTWやFTRやグラストラッカーやバンバンが最新の環境技術によって復活を遂げ、欧州プレミアムブランドとともにスクランブラーというカテゴリーを盛り上げてほしいと願うのである。