これに対して、新型スープラ/Z4が採用するZF製8HPは、もちろん8速。変速段数で9速や10速に対して見劣りがする……と思うのは早計だ。DCTじゃないからダイレクト感や変速スピードも遅いのでは……と思うのもちょっと待ってほしい。
ZF製8速ATの8HPは、縦置きトランスミッションの、いわば世界のベンチマークだ。BMW、ロールスロイス、アルファロメオ、アストンマーティン、ジャガー、ランドローバーなどなど、多くの自動車メーカー、モデルが採用している。
スペック上で目立つのが、レシオカバレッジの数字。これまでの7台からついに8台に突入している。レシオカバレッジがこれだけの数字になってくると、9速、10速が視野に入ってくるが、ZFはあえて8速を選択、8速に主軸を置くという姿勢は今後もしばらく続く見通しとのこと。
その根拠ともいうべき要素を示すのが上に並ぶ図表。仮に9速や10速を現実的なものとして実現するには、ギヤセット(遊星ギヤ)もしくはシフトエレメント(締結要素)のどちらかを増やすことが必要不可欠。8速の8HPは4つのギヤセットと5つのシフトエレメントで構成されるのだが、例えば9速では5つのギヤセットと5つのシフトエレメントか、4つのギヤセットと6つのシフトエレメント、どちらかの構成となる。
どちらにしても機械損失が増えることに変わりなく、その一方で多段化の効果は、8速から9速、そして10速と、サチュレーションのような(飽和していくような)曲線を描きながら、取りしろが目減りしていくので、メカニズムが複雑になってコストも掛かることも考えると、必要ないというのがZFの判断だという。
そして、8HPには5つのシフトエレメントの締結パターンにもこだわりが盛り込まれている。5つのうち常にどこか3つを締結状態とすることに加え、隣接するギヤ段で締結状態の違いはひとつのみとなっており、しかもこの関係が1速飛びのスキップシフトでも成立するようになっているのだ。前ページのシフトエレメントの締結表を注意してみれば、そのパターンの巧みな組み立てにすぐ気付くはずだ。
じつは、まるでマジックのようなこのパターンこそ、8HPで定評のあるシフトフィールの源。シフトの際に繋ぎ換える部分が常にひとつだけだからシフトが素早く完了する。DCTと同等以上とも言われる同機の評価はここによるところが大きい。なお、この繋ぎ換えが二箇所となると、両方の締結が終了するまでシフトが完了しない。かといって、2箇所の締結時間を完全に同期させることは油圧の特性上不可能。これらは、第3世代の8HPに限らず、その初代から脈々と受け継がれている、8HPの伝統ともいえる部分だ。