オープンでもクローズでも、優雅なクーペのフォルムで魅了する「マツダ ロードスターRF」。




すべて無防備に開け放たれたソフトトップ車とは違う、「絶妙な包まれ感」の匙加減。オープンで見上げれば、たとえ都心のビル群であっても寺院の禅窓のように切り取られた風景が輝きを放つわずか13秒で得られる開放感と癒やしのセラピスト効果。




そこには1.5ℓとは別物の余裕ある走りを実現した2.0ℓエンジンと重厚さも漂わせる乗り味が、より上質なエッセンスとして加わる。




ここではマツダ ロードスターRFを実際に試乗して感じた、乗り心地や加速感、ハンドリング感覚のレポートをお届けする。




REPORT●石井昌道(ISHII Masamichi)


PHOTO●神村 聖(KAMIMURA Satoshi)/平野 陽(HIRANO Akio)

優雅さを醸すロードスターRFのルーフの所作。静粛性など基本性能も高い。

初代モデルから“誰もが、しあわせになる”というコンセプトを継承し続けているマツダ ロードスター。ライトウエイトFRとしてのドライビングを楽しむ。ツーリングでオープンエアモータリングの醍醐味を味わう。モディファイによって自分色に染める。同好の仲間との交流を深める。楽しみ方はそれこそ無限大で、その素材として最高の資質を持っている。




リトラクタブル・ファストバックの頭文字を取ってロードスターRFと名付けられたND型の最新バリエーションは、ロードスターの根幹であるライトウエイトスポーツという立ち位置からみれば60㎏車重が増加(「RS」グレード)し、しかも比較的に高い位置に電動ルーフを搭載するから、少しばかりの懸念もなくはない。




もっとも、動力性能に関しては先に北米向けでデビューしていた 2.0ℓエンジンが搭載されるので問題はなし。気になるのはシャシー性能のほうだ。




そんな思いを抱きながらロードスターRFと初対面となったのだが、斜め後ろからファストバックのスタイルを目にして一気に気分が上がった。ルーフラインのなんと伸びやかなこと。これだけ短い全長のなかで 綺麗なラインを描くのはさぞ難儀なことだろうが、リヤルーフからデッキにかけてのまとまりが見事だ。

ファストバックの形態を採るが、リヤクオーターはどこかクラシカルなミッドシップスポーツカーを想わせるような造形。パーツ分割のラインも最小限とすることでリヤフェンダーの孕みも強調されて、俯瞰を含めて全方位で隙なく美しさを感じさせる。

個人的な話だが自分が初めて買ったクルマは初代ロードスターであり、当時はお金がなかったけれど、頑張ってデタッチャブルハードトップをオプションで選択した。オープンカーであることにも惹かれてはいたのだが、後ろ姿が美しく、またレーシーな雰囲気にもなるハードトップは是が非でも手に入れたかったのだ。




取り外し式で結構な重量のため不便ではあったし、頭の上が重くなるのでハンドリングにも影響は出ていたが、大いに満足してほとんどの時間をクローズドで過ごした。真新しいロードスターRFはあの頃の後ろ姿にこだわった気持ちを思い起こさせつつも、ファストバックなので美しさの次元も違う。さらに、電動で手軽に開閉できるのだから理想的だ。




素材やカラーによってロードスターとしてはかなり上質に仕立てられたコックピットに滑り込んでみる。ヘッドクリアランスはソフトトップに比べて15㎜減になっているというが、狭くなった感じは受けない。




最初に乗った「ロードスターRS」は6速MT。マツダはドライバーのポジションとペダル配置などにも理想を追っているが、コンパクトなロードスターでも変に身体をよじることなく、自然と足を伸ばした位置にアクセルやブレーキ、クラッチがあるのはソフトトップと同様だ。




ヒール&トーも抜群にやりやすく、ドライビングポジションを合わせて操作系の確認をするだけで、まさに意のままに操れそうな気分になってくる。




エンジンを始動してみると、アイドリングで聞こえてくる音質の雰囲気は1.5ℓとさほど変わらなかった。ほどよく乾いたサウンドでライトウエイトスポーツに相応しい。




いざ走り出す段になってセンターコンソールのスイッチでルーフを開けることにする。リヤルーフが持ち上がってメインルーフ部を格納すると、再びリヤルーフが元の位置に戻る動きが完了するまで約13秒。これなら信号待ちなどでも気軽に開閉できるだろう。




ソフトトップモデルもND型では運転席に座ったままで開閉できるよう工夫されており、スパンっと素早く決めればものの数秒で完了してしまうが、やはり電動は優雅だ。

ピラーなど可動部が複雑にシンクロしつつ片道約13秒で開閉するルーフ。精密なリンク機構を介し、開閉の最後の過程では動きがスローになってピラーがスッと収まるなど、高級感を増す所作も身につけている。また、頭上とルーフとのクリアランスも十分に確保されている。

ロードスターRFが2.0ℓエンジンで見せたトルクによる人馬一体感

2.0ℓ直列4気筒直噴エンジンが搭載され、余裕あるトルクで悠々とクルージングを楽しむことができる。実用一辺倒のエンジンと違い、引っ張るとサウンドとともにリニアに盛り上がりを見せる味付けがなされているのがロードスターらしい。

アイドリング回転数のままクラッチをゆっくりとつないでいくと、ロードスターRFは苦もなく走りだした。アクセルペダルをほんのわずかに踏みこんだだけでグイグイッと背中を押される感覚がある。やはり2.0ℓエンジンはトルクフルで頼もしく、走りやすい。




20.4㎏mという最大トルクは2.0ℓ自然吸気エンジンの標準的な数値ではあるが、1100㎏の車両重量に対しては十分以上であり、街中でも高速道路でもエンジンを高回転まで引っ張る必要はほとんど感じなかった。




だが、せっかくロードスターに乗っているのだからチャンスがあれば上まで回したくなるのは当然。ガラガラに空いた道でアクセルを深く踏みこんでいくと、期待通りにリニアにパワーが盛り上がっていった。最近の新車試乗ではダウンサイジング・ターボに乗ることが多いので自然吸気の素直な感覚に頬が緩んでしまう。




レブリミットは1.5ℓの7500rpmから600rpmほど下げられたので、踏み切っていく感覚がちょっとだけ失われたのは寂しいといえば寂しい。だが、緩やかにパワーの頭打ちを感じ始めたあたりでレブリミットを迎え、感覚的には自然。単体で乗っているかぎりは不満を感じない。




1.5ℓの最後の600rpmはワインディングやサーキットを攻めている時に、コーナーを目前に控えてシフトアップすべきかどうか迷うようなシチュエーションで引っ張ったままいけるなど、マニアックな走りでこそ生きてくる。




2.0ℓエンジンはそういったピンポイントへの対応よりも、あらゆる場面で扱いやすいことに価値があると見るべきだ。回転が落ちてもトルクで加速に持っていける感覚は、より人馬一体感を高めるとも言える。




ファストバックはオープンにしてもリヤルーフが残るが、リヤウインドウは格納されているので背後は空いている。つまり、開放感はソフトトップほどではないがタルガトップよりは断然いいということだ。




高速道路を突っ走っていくと、風が室内に巻き込んでイヤな思いをすることがなく、かといって開放感が足りないなんてこともない、まさにちょうどいいオープンエアモータリングだった。




60㎞/h程度まではほとんど風を感じることはないが、80㎞/hを超えてくると頭上をサワサワと風に撫でられているぐらいになって心地いい。100㎞/hかそれをややオーバ ーするぐらいでも快適だ。




ソフトトップでは髪が乱れてしまうほどではないが、ドライバーとフロントウインドウの間で空気が流動している感覚で、冬場などはヒーターを効かせていてもそのアタリからうすら寒さを感じる。




ファストバックなら空調の効きもまずまずで、ロングドライブでも快適に過ごせそうだ。ただ少し風の音は大きめに感じられる。サイドウインドウを上げた状態だと、背後のルーフの残りと風があたる部分からザーッと常に音が聞こえてくるのだ。ちなみにソフトトップでは気にならない。

サイドウインドウを閉めてヒーターを入れれば、冬場でもオープンエアを満喫できる。高速でも風の巻き込みは少ない。レカロ製シートやビルシュタイン製ダンパーが装着される「RS」には、BBS製ホイールとブレンボ製ブレーキもオプションで設定された。これらは決して快適性を犠牲にしない乗り味で、大人のスポーティグレードの風情。

高速クルージングで好印象だったのはボディの動きに落ち着きがあることだ。コーナーが楽しいライトウエイトスポーツは、そこがあまり得意ではなく、歴代モデルもND型のソフトトップも乗り心地は少しばかりヒョコヒョコとして、直進安定性もビシッとはしていなかった。




だがロードスターRFはリヤまわりのガッチリ感があり、それでいてサスペンションはスムーズにストロークしている。とくにリヤサスペンションのひっかかり感がなくて快適。




だからといってソフト過ぎるというわけではなく、むしろロール剛性はしっかりしていながらスムーズ。重厚感とフラット感が共存した抜群の乗り心地なのだ。




また、ステアリングも中立付近の座りが良く、微舵領域での反応、スッと自然な感覚のセルフセンタリングなど申し分ない。コンパクトなライトウエイトスポーツでこれだけ高速クルージングが得意なモデルも珍しいぐらいだ。




サスペンションのスムーズなストローク感はハンドリングにもいい影響をもたらしていた。旋回の動き自体はほんの少しだけ重量増を感じるものの十二分に俊敏。それでいて動きの連続性とでも言おうか、とにかく滑らかに、すべてドライバーが予測した通りに動いてくれる。




今回は 限界域を試す機会はなかったが、日常域からちょっとスポーティな走行では人馬一体感こそがロードスターの大きな価値なのだ。そういった意味でロードスターRFは、ライトウエイトスポーツとして極上のハンドリングの持ち主と言える。

クローズ状態では彫刻的な造形が美しいクーペとしての印象を強いものとする。ラゲッジスペースはソフトトップとほぼ変わらない容量を維持する新世代スポーツカーなのだが、どこか古典的かつ普遍的な美を感じさせる。

ロードスターRFはマニュアルかオートマかも悩ましい。高い完成度ならではの選択肢。

パーキングに立ち寄ってまた13秒間でクローズドにして再び高速道路を走り始めた。ソフトトップよりも気密性が高く、静粛性も高いので快適だ。ただし、周囲からの音が小さくなった分、ロードノイズは聞こえやすくなる。全体の音量が上がってしまってもオープンのほうが心地良く感じるかもしれない。




先代のNC型のRHTではオープンとクローズドで乗り心地や動きの変化が見られたが、ロードスターRFはさほどそれを感じない。それでも、わずかにオープンのほうが乗り味のバランスはいいようだ。




「RS」にはBBS製ホイール+ブレンボ製ブレーキのオプションが用意されている。ブレンボはさすがにタッチがカッチリしていて効きも頼もしい。それ以上に価値が高いのはコントロール性が高いことだ。




とくに、コーナーへ向けての強めのブレーキングから徐々に踏力を緩めていく時に微細なコントロールが可能で、自分が望むジャストな減速とノーズダイブの戻しを制御できる。ブレーキを抜く側がやりやすいのだ。




「VS」や「S」は乗り心地が良かった。ビルシュタイン製ダンパーを装着するスポーティなサスペンション設定の「RS」は、微少入力域からダンピングがクイッと効き始め、街中などを走っていると路面の細かな凹凸を正直に伝えてくる感覚がある。




もっとも、高速クルージングになれば、さほど硬さは感じないので、乗り心地に関しては「RS」でも満足度は高いだろう。




6速ATも試してみたが、2.0ℓエンジンとのマッチングは良好だった。発進は力強さとスムーズさが両立され、速度コントロールも容易い。巡航から緩い加速に移る時も、あまりシフトダウンを必要としないからせわしなくもない。ドライバビリティが高く、洗練されてもいるのだ。




アクセルを深く踏みこんでスポーティに走らせてみても、シフトアップ時の心地良いつながり感、シフトダウンでの反応の良さ、ダイレクト感などほとんど文句を付けるべき点はない。個人的にも「これならATもありか?」とロードスター史上で初めて思えるほどだった。




とくに、落ち着いた動きが魅力であり、高速道路を走っているとこのままどこか遠くまで行ってみたい衝動に駆られるロードスターRFならATはピッタリ。もちろんMTの楽しさも捨てがたく、選択は悩ましくなった。




ロードスターの基本がソフトトップにあることは間違いないが、だからと言ってロードスターRFが亜流や異端児だとは思えなかった。ソフトトップに比べて乗り心地もハンドリングも洗練され、エンジンも扱いやすいとあって、乗れば乗るほど愛着が湧き身体にフィットしてくる感覚があるからだ。




“誰もが、しあわせになる”というコンセプトはむしろ濃厚。ロードスター・ファンの拡大に大きく貢献することになりそうだ。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 13秒間にマツダの粋を感じるロードスターRFの試乗インプレ