ビンファスト最初の量産乗用車として発表された4ドアセダン「LuxA2.0」は、BMW5シリーズの旧型、F10型と呼ばれ09年から16年まで生産されたモデルのボディ骨格を使う。同時に量産が始まるSUVの「LuxSA2.0」はBMWX5の旧モデル、13年から生産され、つい先ごろ(18年10月)まで生産されていたF15型がベースである。これには少々驚いた。旧型とはいえ、BMWがプラットフォーム外販に乗り出したのである。
BMWは中国・華晨汽車との合弁会社にミニおよび2シリーズ・グランツアラー/アクティブツアラーで使用しているFFプラットフォームを提供し、BMWブランドの中国市場専用セダンとして量産を開始している。外観デザインはBMWが手がけた。しかし、ビンファストに権利を販売したのはBMW伝統のFRプラットフォームであり、内外装デザインはビンファストの自由という契約だった。
ベトナム生産されるF10プラットフォームが果たして旧5シリーズ用をそのまま踏襲しているかどうかは公表されていない。F10はボディ骨格に熱間成形鋼板やDP(二相=デュアルフェーズ)およびTRIP(三相=トライフェーズ)の高張力鋼を使用し、もっとも大きな力を受ける前輪ストラットタワーはアルミ鋳物製だ。接合にはレーザー線溶接と構造接着剤を多用するほか、ボンネットフード、フェンダー、4枚のドア外皮はアルミ合金製である。これらをビンファストが内製するのか、それともドイツから調達するのか、あるいは設計変更するのか。ここはまだ伝わってこない。
ただし、ビンファストに協力する企業のリストを見れば「F10の設計そのまま」でもモノになりそうな気がする。オーストリアのマグナ・シュタイアーとAVLはエンジニアリング部門で参画し、マグナは車両実験までを請け負っている。デザインはイタリアの名門・ピニンファリーナとイタルデザインが担当した。部品・ユニットのサプライヤーにはドイツ系が多い。この布陣は、中国の奇瑞汽車がイスラエルの投資会社と共同でQOROSAuto(観致汽車)を立ち上げたときに似ている。
QOROSの市販モデル開発は多国籍軍の仕事であり、たとえばボディの衝突安全性能はサーブ・オートモーティブから移籍したチームが手がけ、制御系の開発担当には日本人エンジニアもいた。資本は中国とイスラエル。実働部隊は欧米日のエンジニア。現時点では大成功と呼べるほどの販売実績ではないが、形態としてはまったく新しい自動車メーカーである。そしてこのQOROSを追って、似たスタイルの自動車メーカーがベトナムにも誕生した。それがビンファストである。