自転車に乗る方ならイメージしやすいかもしれない。一定のケイデンス(ペダル回転数/分)でこぎ続けたまま、ギヤをシフトさせることで速度を上げていく状態に近い。もちろん自転車のギヤは有段式だが。
ではラバーバンドフィールとはどのような状態なのかといえば、ご存じ、加速時にエンジン回転は上昇するものの速度がそれに乗じていないことを指す。このとき、パワートレインはどうなっているか。
【目的】加速するためにパワーが欲しい@CVT
→ まず、エンジンが最適燃費点まで持っていかれ、高効率で運転する
→ その間にベルト&プーリのキックダウン制御を準備し作動させる
→ エンジン回転を最適燃費点で一定運転させたら、変速比で速度を調整する
機械の効率ということを考えれば至極真っ当な、いやむしろ正しい運転と言える。しかし残念なことに従来のMTや有段ATに慣れたわれわれドライバーにとっては違和感以外の何者でもなく、そこにだれかが「ラバーバンドフィール」なる絶妙な単語を充ててしまったために一気にCVTのイメージとして広まってしまった。
そこで、ペダル操作とエンジン回転の上昇にともなって車速が増していく制御にCVTは方向転換することとなる。しかしそのためにはエンジンの瞬間的なパワーの立ち上がりが必要だ。ローパワーのエンジンとなると、トルクを得るためにエンジン回転を上げる必要があり、結局のところラバーバンドフィールと言われた時期と似たフィーリングとなってしまう。
アウディA4のFWD仕様が一時期、CVTを採用していたことがある。マルチトロニックと称したそのパワートレインはエンジンがダウンサイジングで低回転から高パワーを発揮していただけに、非常にリニアな感覚だった。同様に、中大容量型CVTと大排気量エンジンの組み合わせで搭載した日産ムラーノも、アクセルの感覚と速度上昇の感覚がマッチしていて好感だったのを覚えている。
しかし、日本オリジナルとも言えるCVTが積まれているのは小さなクルマが多い。大パワーなどはなかなか望めない。となると今なおラバーバンドフィールに悩まされているのかと言えば、そうでないというのが個人的な感想である。
とくにスズキのCVTの使い方は上手である。たとえば1.2ℓの自然給気エンジンとの組み合わせにおいては、低速トルク型にエンジンを仕立てているので加速時の痛痒がない。ダイハツの軽自動車も、さすがにスーパートール系ともなると車重が嵩むので厳しいものの、明らかなラバーバンドフィールとならないような制御で(クルマは苦しそうだが)リニアな加速フィールに苦心しているように感じられた。
逆に、ターボ過給で大トルクを発揮しているから大丈夫だろうと思っていたスバルが、じつはダウンサイジングではなくパワーデバイスとしてターボを用いていたようで、CVTの変速ラグ×ターボラグの二重苦という時代もあった。近年はCVTながらステップ制御という、疑似ステップATのような制御を採用することで、違和感のない自然な加速感の創出に成功している。
CVTなのに段付き制御って、存在意義がないんじゃないの?と訝る方も少なくないだろう。確かに無段変速が唯一無二の価値観であるCVTにおいて、ステップ制御するのは本末転倒かもしれない。
しかし、ステップATならば機械的なギヤ比が固定されているのでラインアップを増やすのに手間がかかるところ、CVTの変速比幅内でステップを刻めば、エンジンによって自在に段数とギヤ比をセットすることができる。連続可変する際の伝達効率の悪さも、ステップ制御でプーリをクランピングするなら、少々の伝達効率の回復も望めるのかもしれない。何より、一度生産設備をCVTとして仕立て膨大な額を投じて設備投資した以上「CVTを使ってなんとかするしかない」という事実も揺るがない。このあたり、機会を作って対ステップATとの得失をぜひうかがってみたい。