アストンマーティンの新たな頂点、DBSスーパーレッジェーラが上陸した。725㎰と900Nmという圧倒的パフォーマンスを発揮する5.2ℓV12のツインターボエンジンと、エレガントかつマッシブなフォルム。本物を知る大人にこそふさわしいイギリス流スーパースポーツの実力を味わってみよう。




REPORT◉大谷達也(Tatsuya Otani) PHOTO◉市 健治(Kenji Ichi

 本当によくできたスーツは軽くしなやかで、激しい運動をしても身体によく馴染む。タキシードのまま敵国のスパイと戦うジェームズ・ボンドの姿が、その好例だろう。


 


 アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラに乗り込んで、ふとそんなことを思った。このクルマは乗り手にドレッシーなスタイルを求める。なかでもいちばん似合うのはロンドンのサヴィル・ロウで仕立てた上質なスーツだろう。しかし、スーツを着て乗るからといって、ゆっくりとクルマを走らせなければならない道理はない。タイを締めたままでもワインディングロードを驚くようなペースで駆け抜けられる。DBSは、そんな驚きに満ちた“スーパー”グランツーリズモである。

フロントミッドに搭載されるV12ツインターボエンジンは、DB11を86㎰/200Nm 上回る725㎰/900Nmを発揮。0→100㎞/hは3.4秒で駆け抜ける。

 クルマの成り立ちはDB11のハイパフォーマンス・バージョンといえなくもない。ただし、目指す方向は、同じ兄弟モデルでもヴァンテージのようにスパルタンなスポーツカーとはまるで異なり、DB11の持つ快適性や日常性をまったく失うことなく、その速さを1段階、いや2段階ほど引き上げたのがDBSの立ち位置。ポルシェでいえば911カレラと911カレラGTSないし911ターボの関係に近い。


 


 もっとも、DBSの第一印象は「かなり硬派なスポーツカーではないか?」というものだった。なぜなら、ステアリングを切り込みながらDBSを発進させたとき、「バキッ」という軽い金属音が響いて機械式LSDが入っていることを思い知らされたからだ。このとき、トラクション性能の確保に尽力するアストンマーティンの歩みがふと脳裏をよぎったが、走り始めてみればコーナリング中にスロットル開度を変化させてもギクシャクした動きを見せることなく、実に扱いやすいキャラクターであることが判明した。


 


 しかも、心配されたトラクション不足は露ほども看取されず5.2ℓV12ツインターボエンジンが生み出す725㎰、900Nm(!)のパワーはスムーズに路面へと伝えられる。ヴァンキッシュSもハイパフォーマンスと扱いやすさを両立させた名作だったが、最高出力で125㎰、最大トルクでは実に270Nmも前作を凌ぐDBSは、扱いやすさの点でも限界域のスタビリティでもヴァンキッシュSのさらに上をいく。新世代プラットフォームになってシャシーのポテンシャルが向上したことと、DBSになって新たに採用されたトルクベクタリングが大きく貢献しているはずだが、それらを完璧にまとめあげたマット・ベッカーの手腕も賞賛されるべきだろう。

ボディはアルミ製だが、ボンネットやルーフ、トランクリッドなどはカーボン製。DB11より72㎏もの軽量化が図られている。Cピラーから取り入れたエアはリヤウイングから排出。ダウンフォースは最大で180㎏にもなるという。

まるで良質なスーツのよう

 もっとも、真に驚くべきは、前述したとおり快適性や日常性を一切犠牲にすることなく圧倒的なパフォーマンスを実現した点にある。DBSの乗り心地はなるほどソリッドだが、決してこわばった硬さではなく、しなやかさも持ちあわせている。おかげで、ハードコーナリング中に路面のうねりに遭遇しても走行ラインが乱されることなく、スムーズな円弧を描き続ける。しかもハーシュネスは軽い。全般的な乗り心地の印象としては、DB11AMRより快適と感じたくらいだ。


 


 もうひとつ指摘しておきたいのが、ハンドリングに神経質な点が見受けられないこと。機械式LSD特有のクセが残っていないことは先ほど述べたが、これに加えて操舵初期のゲインが自然に立ち上がってくる点も私好み。おかげで高速コーナーにも自信を持ってアプローチできる。その一方で低速コーナーでの機敏さにも不満は感じない。つまり、コーナリングスピードのスイートスポットが広いのである。また、限界付近のスタビリティが高い点では前作ヴァンキッシュSを確実に上回り、サーキットでなければ本当のポテンシャルを引き出すのは難しいほどだ。

レザーをふんだんに使用したインテリアは落ち着いた雰囲気。超高性能でありながらあくまでも控えめなのがアストンマーティンらしい。インフォテインメントシステムはメルセデス・ベンツと同様の最新のものが備わる。

レザーとアルカンターラによるシートは、背もたれにアストンマーティンの刺繍が入れられる。かなり狭いが、リヤにプラス2のシートが備わることも、このクルマの魅力のひとつだ。

 しかし、DBSの本領はロングツーリングでこそ発揮される。初期型DB11の弱点だった直進性不足は完璧に解消されているので、リラックスしながらのクルージングはお手のもの。エンジンは回せば回すほどパワーを増していくのに、巡航中にクルマが「もっとスピードを出せ!」と迫ってこないことも特色のひとつ。その理由は一定速を保つのが苦痛にならないエンジンのキャラクターにあるが、この点はフェラーリV12との決定的な違いかもしれない。


 


 DBSの本質がグランツーリズモであることは、スポーティであっても上質さが強く漂うインテリアにもはっきりと現れている。DB11と比べてデザインがそれほど大きく変わっているように思えないが、たとばインストゥルメントパネルを3つに区切るメーターフードはコクピットのダイナミックなイメージを強調すると同時に、クオリティ感の向上にも役立っている。同様にして、DB11とのちょっとしたデザイン、素材、そして色合いの違いが、結果としてDBSならではの世界観の構築に大きく貢献している。

フロント6ポット、リヤ4ポット。前後ともカーボンセラミックのローター径はフロント410㎜、リヤ360㎜だ。タイヤは21インチのピレリPゼロを装着する。

 そこで表現される世界はランボルギーニのようなきらびやかさともマクラーレンのような純粋なスポーティさとも異なる。敢えていえばフェラーリ812のラグジュアリーな世界観がもっとも近いが、目指す姿が近くても、イタリアとイギリスでは表現の手法が決定的に異なる。それは同じスーツでも、イタリア製とイギリス製ではディテールに大きな違いがあることとよく似ている。


 


 そして冒頭でも述べたとおり、良質なスーツと同じようにDBSは実用性にも富んでいる。たとえば、最高速度付近でアストンマーティン史上最大とされる180㎏のダウンフォースを生み出すにもかかわらず、チンスポイラーの張り出しは熟慮されたもので、フロントリフターを装備していない状態でも段差の乗り越えで不自由を覚えることはなかった。同様に、バックで駐車する際に輪留めでリヤディフューザーにダメージを与えることもない。些細な点かもしれないが、こうしたところにこそDBSのキャラクターが明確に現れているといえるだろう。




※本記事は『GENROQ』2019年1月号の記事を再編集・再構成したものです。

アストンマーティン DBSスーパーレッジェーラ


■ボディサイズ:全長4712×全幅1968×全高1280


ホイールベース:2805㎜


■車両重量(DRY):1693㎏


■エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ


総排気量:5204㏄


最高出力:533kW(725㎰)/6500rpm


最大トルク:900Nm(91.8㎏m)/1800~5000rpm


■トランスミッション:8速AT


■駆動方式:RWD


■サスペンション形式:Ⓕダブルウイッシュボーン Ⓡマルチリンク


■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)


■タイヤサイズ


(リム幅):Ⓕ265/35ZR21(9.5J) Ⓡ305/30ZR21(11.5J)


 ■性能:0→100㎞/h加速:3.4秒 最高速度:340㎞/h


■価格:3438万円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 725psと900Nmというスペックなのにエレガント! 驚異のスーパースポーツ、アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ