TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
89年に北米でレクサスブランドの展開が始まって以来、LSとともにその屋台骨を支えてきたESが、ようやく日本市場にも投入された……などと書くのはいささか白々しいが、かつて“トヨタ・ウィンダム”として販売されていたモデルが、正式に“レクサスES”として日本市場にデビューを飾った。
シャシーやパワートレーンなどの基本的なメカニズムは、先にデビューしているカムリと共用しているため、技術的に目新しいものは多くはない。そうした中で“量産車世界初”を謳うのが、デジタルアウターミラーと、スウィングバルブショックアブソーバーだ。今回は前者について、考察してみたい。
と言っても、これもハードウェアそのものにビックリするような新しい技術はなく、デジタルカメラを応用したに過ぎない。しかし、それを世界で初めて量産車に適用するとなると、検討すべき項目が山のように出てくるのである。
まず、アウターミラー(というよりカメラ)の位置。後方が映りさえすれば良いのだから、光学ミラーと同じ位置に付ける必要はない。例えば、フロントフェンダーに格納しておき、スタートボタンをオンしたときにせり出してくるような方式も考えられたはずだ。
しかし、そこは慎重なレクサス(「トヨタ」と書くと怒られる)。「新たな技術がどれだけ受け入れられるかわからない」という理由から、オプション設定という道を選んだため、台座が共用できる現在の場所になった。あるいは機能面から考えても、「後退駐車時に後輪の接地点を映したい」とすると、現在の位置はもっとも合理的である。格納式にするには、稼働メカをレイアウトするスペースが必要になるし、見切り線も煩雑になる。“車幅センサー”としての機能や、360度モニターのカメラ台座も併用できることなどを考えると、将来的にも「結局、ここしかない」ということになるのではないかと思う。あとは、全体のフォルムにどう溶け込ませるかだ。
室内側のモニターは、もう少し一体感を持たせることができそうだが、裏話をすると、この装置は開発の最初から採用が決まっていたわけではなく、デザイン作業がある程度進んだ段階で入ってきたことや、オプション扱いであることなどから、ダッシュボードに埋め込む形にはならなかったのだそうだ。
ならば将来的には、例えばメータークラスターの両側に配置され、視線移動を少なくするようなレイアウトになるのか?と言えば、これも難しいのではないかと思う。メータークラスターまわりは現在でも、空調の吹き出し口やスイッチで“土地の奪い合い”になっており、モニターを置く場所を確保するのは困難だ。特に左側モニターは、助手席エアバッグとの兼ね合いもある。結局、中途半端な位置に付けるくらいなら現在の位置のほうが良い、ということになるのではないか。
となると、視線移動の点では光学ミラーに対する優位性は少なくなるが、むしろ首を振って左モニターを見れば、視野角ごと左に振れるから、左側方が視界に入ってくる。視界の隅に違和感がある程度でも、ドライバーは気づくはずだから、安全確認という点からは、むしろ現在の位置が好ましいのかも知れない。そうなるとこちらも、いかにデザインで処理するか、ということになる。
機能面での優位性については、紙媒体のモーターファン別冊『レクサスESのすべて』に詳述しているので割愛するが、光学ミラーに対して唯一、劣っているのが、焦点距離の移動が大きくなることだ。光学ミラーの焦点距離は、目からミラーまで+ミラーから実体までの距離となるが、液晶の場合は、目から液晶表面までとなる。だから光学ミラーの場合は、前方から視線を移しても、焦点距離の移動はそれほど大きくはならないが、デジタル式の場合、十数m先にあった焦点を1m以下に移動させる必要が生じる。ドライバーが違和感を覚えるとすれば、おそらくこの部分になるだろう。
もっとも、この程度の焦点距離移動なら、ナビゲーションやメーターパネルを見る際にも行っているから、慣れればどうということはなくなる可能性は高い。それでも購入時にユーザーがデジタルアウターミラーの選択を望む際には、必ず実車に乗って確認してから決めてもらうようにしているそうだ。
この装置がどの程度、支持されるかは、興味深いところだが、今後はデジタル機器ならではの拡張性を生かし、画像認識機能を追加して後側方センサーを兼ねるとか、記憶メディアを使って後側方ドライブレコーダー機能を持たせるなど、多機能化を進めたら面白いのではないか。