永遠のライバルメルセデス・ベンツのGLCクーペと比較して、その違いを明らかにしよう。
REPORT◉藤原よしお(Yoshio Fujiwara)
PHOTO◉平野 陽(Akio Hirano)
「コンサバティブとアバンギャルド」このたび2代目へとフルモデルチェンジを果たしたBMW X4と、メルセデス・ベンツGLCクーペに触れてみて最初に思い浮かんだのは、この言葉だった。
思い返せばX5でオフロードはもちろん、スポーツサルーン顔負けのオンロード性能を両立させたSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)を生み出したのも、X6でSAV+クーペのSAC(スポーツ・アクティビティー・クーペ)という新たなジャンルを作り出したのもBMWだった。さすがにX6の時はやり過ぎでは?と思ったけれど、GLCクーペに限らずライバルたちがこぞって追従し、いまやSUVには欠かせぬ売れ筋ジャンルとなったのだから、やはり先見の明があったということだろう。
X4はそんなX6の弟分として2014年に登場したモデルだ。BMWはXシリーズの奇数モデルをSAV、偶数モデルをそのSACモデルとしていることからもわかる通り、X4はX3のクーペ版である。今回、わずか4年あまりでフルモデルチェンジをすることとなったのは、ベースとなるX3が昨年に3代目へと進化したのを受けてのことだ。
その最大の特徴はひと回り大きくなったボディに合わせ、ホイールベースが先代から55㎜も延長され2865㎜となったことだ。これに伴いリヤのレッグスペースも30㎜延長され、後席の居住空間が改善されている。
実際にリヤシートに座ってみるとその恩恵は明らかで、足元はもとより頭上にも余裕がある。よく見ると、ボディサイドのルーフラインはクーペらしいアールを描いているのだが、ルーフ中央のラインはリヤまで水平基調に伸びており、室内空間の確保に貢献しているのが伺える。
加えてラゲッジルームも想像以上に奥行きがあるもので、通常で525ℓ、最大で1430ℓと十分な容量を確保している。そういう意味では先代よりもより実用的でコンサバティブなパッケージングになったという印象だ。
一方のGLCクーペは、文字通りW205系CクラスのSUV版として2015年に発表されたGLCのクーペモデルで、2016年に登場(日本での発売は2017年から)。メルセデス・ベンツのクーペSUVとしてはGLEクーペに次ぐ2作目となる……と書いてみたものの、ことSUV系に関してはGクラス以外あまり一貫性が感じられないのがメルセデスの傾向だ。このGLCクーペも時流に乗って追加したという感じは否めない。
そうした背景があるためか、X4とは対照的に多少の犠牲を払ってもクーペらしさを優先しようとする攻めの姿勢が感じられるのがGLCクーペの特色といえる。
ウエストラインが低いので、圧迫感は少ないもののリヤシートはレッグスペース、ヘッドクリアランスともにミニマムで、大人が乗れるギリギリの広さ。ラゲッジルームもフロアが高く、500〜1400ℓとX4と比べると狭く感じる。4ドアの4シーターというより2+2と捉えた方が良さそうな出で立ちだ。
でもそこには少々カラクリがある。確かにGLCクーペはX4より全長が25㎜ほど短いのだが、ホイールベースは2875㎜とX4に比べ10㎜長い。ではなぜリヤシートが狭く感じるのかというと、X4のリヤシート座面がGLCクーペに対して短いのだ。ラゲッジルームの広さの違いも、そんな影響があるのだろう。果たして足元の広さを取るか、たっぷりとしたシートを取るか?この2車をリヤシートの優劣で評価するユーザーは少ないかもしれないが、気にしておいて損はないポイントではある。今回試乗したのは、360㎰の直列6気筒DOHCガソリンターボエンジンを搭載したX4 M40iと、170㎰の直列4気筒DOHCターボディーゼルエンジンを搭載したGLC220d4マティック・クーペスポーツである。
最初にも書いたように、BMWは初代X5以来、オフロード性能と同様にオンロード性能の向上に力を入れてきたメーカーだ。それは3シリーズに通じるドライバー・オリエンテッドなコクピットデザインにもよく現れていて、各部の操作性や視認性はよく、気にしていたクーペゆえの視界の悪さもなかった。また今回の目玉のひとつであるタッチパネル式のインフォテインメントディスプレイ、そして液晶パネルのインパネも必要にして十分以上の情報をもたらしてくれる。また従来のiDriveドライブコントローラーも付いているので、他モデルから乗り換えても戸惑うことはないはずだ。
個人的にはBMW特有のグリップの太いステアリングホイールが苦手だが、あえて目くじらを立てるほどのものでもない。ただ、比較的賑やかなデザインがそう思わせるのかもしれないが、質感に関してはGLCクーペに一歩譲るのは事実である。
では走りはどうか? そこに待っているのは一切の妥協を許さないBMWらしい世界だった。
Mモデルの下に位置するMパフォーマンス・モデルであることと、“シルキー・シックス”のスムーズかつ鋭いレスポンスと、圧倒的なパワーで好感度が割増しになっている可能性は否定できないが、1620㎜という車高を感じさせることなくロールをせずに路面に食いつくコーナリングマナーは、SUVとは思えない俊敏かつ安定したものだ。確かにストレート6ゆえのノーズの重さを感じる場面がないとはいえないものの、サスペンションにアルミ製パーツを用い、バネ下重量の低減を図ったうえ、全体でも先代比約50㎏の軽量化を達成した効果は大きく、同じシャシーのX3と比べても、より切れ味鋭い乗り味に仕立てられている。それでいてフロント245/40R21、リヤ275/35R21のランフラットタイヤを見事に履きこなし、不快なハーシュネスを抑えつつ、快適な乗り心地とガッチリとしたグリップを両立させているのだから、見事としかいいようがない。
そんなX4に走りの面でも対極に位置するのがGLCクーペだ。
こちらもドライバーズシートの運転環境はW205系に通じるもので、COMANDコントローラーを使うインフォテインメントシステムの操作も変わらない。ただここでも個人的に気になるのがステアリングで、電動パワステのフィール自体はナチュラルで良いものの楕円形状のステアリングホイールの操作性には違和感を覚えた。
でもそれ以外の印象は総じてよかった。170㎰のディーゼル・ターボゆえ、絶対的な速さでは及ばないものの、敢えてロールを許す足さばきや、安定志向のハンドリングは、1960㎏と重めの車体とも実によくバランスしていて安心感がある。
その後、走行モードをエコからコンフォート、スポーツ、スポーツ+へと変えてみたが、スロットルレスポンス、ステアリング、サスペンションが硬質になっていくが、安定志向、コンフォート志向の基本スタンスは変わらなかった。おそらくそこには235/55R19サイズの前後タイヤの影響も大きいと思われるが、乗り心地のよさ、安心感、上質さが、高いレベルで調和しているのである。
そういう意味で、X4とGLCクーペは、結果的にそれぞれのブランドイメージに沿ったキャラクターに仕上げられているといえる。
しかしながら両車ともに、あまりコンサバティブに振りすぎると既存のSUVとの差別化がなくなり、かといってアバンギャルドに振ると客層を絞りすぎるという、SACというジャンルゆえのジレンマのようなものを感じたのも事実だ。
いったいどこにSACの最適解があるのか?
それは実用性と走りとスタイルのギリギリの妥協点を見つけようと生まれたX4の成否が、鍵を握っているようにも思う。
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BMW X4 M40i
■ボディスペック
全長(㎜):4760
全幅(㎜):1940
全高(㎜):1620
ホイールベース(㎜):2865
車両重量(㎏):1870
■パワートレイン
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ
総排気量(㏄):2997
最高出力:265kW(360㎰)/5500rpm
最大トルク:500Nm(51.0㎏m)/1520-4800rpm
■トランスミッション
タイプ:8速AT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:ストラット
サスペンション リヤ:5リンク
■ブレーキ
フロント:ベンチレーテッドディスク
リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:245/40R21
リヤ:275/35R21
■環境性能
JC08モード燃費(㎞/ℓ):10.9
■車両本体価格(万円):977万円
メルセデス・ベンツGLC220d 4マティック・クーペ スポーツ
■ボディスペック
全長(㎜):4735
全幅(㎜):1930
全高(㎜) :1605
ホイールベース(㎜):2875
車両重量(㎏) :1960
■パワートレイン
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量(㏄) :2142
最高出力:125kW(170㎰)/3000-4200rpm
最大トルク:400Nm(40.8㎏m)/1400-2800rpm
■トランスミッション
タイプ:9速AT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:4リンク
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント:ベンチレーテッドディスク
リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:235/55R19
リヤ:255/50R19
■環境性能
JC08モード燃費(㎞/ℓ):16.2
■車両本体価格(万円):789万円