ドライバーが車いすでクルマにアプローチし、前後のドアを開けます。
そして、電動で回転&リフトアップするシートを出して乗り移る。そののち、車いす用の電動収納リフトを伸ばし、車いすを吊り下げ、引き上げて格納。
自身が座っている運転席シートを車内へ移動。リアドアを接続したハーネスを引っ張って閉め、フロントドアもハーネスを引いて閉める……。
一連の動作がシステマチックにできる環境。それがこの観音開きのドアにありました。
もし一般的な前ヒンジのリアドアがついている車両ならば、運転席シートに着席後、リアドア越しに車いすを収納リフトのアームに引っ掛けることになります。煩雑になる手順、手数を減らしたいとなると、解決方法としては、電動スライドドアが運転席側リアドアについた車両に乗り替えるのが手っ取り早いです。が、このほか、屋根上のカバー付きボックスに車いすを収納してしまう方法、リアドアをスライドドアにカスタマイズしてしまうという方法などがあります(いずれもオフィス清水でも施工例あり)。
とはいえ、やはり工夫次第で手動でドアを開け閉めでき、車いすの格納もカンタンな観音開きの環境は魅力的ですね。
一見、カタツムリの殻を背負ったトラックのように見えるルックスですが、これはトヨタ・カムロードというクルマをベースに、キャンピングカーのシェルをつなげた構造になっています。 カムロードは、同じトヨタのトラックであるダイナをキャンピングカー専用にアレンジして開発されており、インテリアの装備や、シャシー・足回りなどを変更し、トラックであるダイナから居住性、乗り心地のアップ、キャンピングカーとしての使い勝手の向上を図ったモデルです。 そして肝心のシェル。キャンピングカーの装備を搭載する「箱」の部分をシェルといいますが、AtoZは国内にあるキャンピングカービルダーのなかでも、このシェルタイプの架装を得意とするメーカーです。
ベースとなっているキャンピングカー用のシェルにリアハッチを組み込み、車いすリフトを設置。車いすのまま乗り降りを可能にしています。
車両の左サイドにある通常のエントランスでは、車いすでの乗降ができません。そこでバックドアに大型のハッチを製作し、そこから電動リフトで車内へ上がります。
展示車では、インテリアは車いすのままダイネットと呼ばれるリビングスペースまでアプローチできるようなレイアウトとなっていました。これは、車いすのサイズや必要とされる移動環境によって、装備を追加していくことをイメージできるように、シンプルな家具の配置にとどめているとのこと。リクエストにあわせてギャレーと呼ばれる水回りを含めた台所スペースやトイレ、テレビなどのアミューズメント、エアコン等を追加していくことができます。
ダイネットの対面シートは、テーブルの足を収納して展開するとベッドとして利用できます。
運転席の上部には2名ほどが就寝できるロフトのようなベッドスペースも。使い方次第では収納スペースとしても利用できます。
なお税制上のメリットを得られる場合があり、こういった車体はキャンピングカーとして8ナンバーを取得することがありますが、そのためには水回りとコンロが必要です。ただし、車いす移動車として8ナンバー登録する場合はその限りではないので、こういったことも含めて架装の内容を詰めていくことも大切です。
著者紹介:古川教夫 クルマとバリアフリー研究家。基本は自動車雑誌編集&ライター&DTP/WEBレイアウター。かつてはいわゆる徹夜続きの毎日だったが、現在は娘さんの介護をしながら9割9分の在宅ワーク。『ドレスアップナビ』(https://dressup-navi.net/)のアンカーや、ライフワークであるロータリー関連の執筆活動等を行いながら、介護経験から見る福祉制度と福祉車両の世界をつづる。2017年2月に福祉車輌取扱士の資格を取得。