TEXT◎大谷達也(OTANI Tatsuya)
PHOTO◎神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
インプレッションの書き出しはいつでも難しいものだが、今回ほど苦しんだことは滅多にない。誤解のないように付け加えると、書くことがないのではなく、ありすぎて困っているのだ。まるで大切な人と久しぶりに再会したときのように、言いたい言葉が次から次へとあふれてきて、結局何も言えないまま口を閉ざしてしまう......。そんな気分を、私はいま味わっている。
それでもどこかから書き始めなければならないとすれば、やはりそのしなやかなサスペンションについて触れないわけにはいかない。ささいなフリクションさえ感じさせることなくストロークする様は、たとえばロールス・ロイスやベントレーといった超高級サルーンにも通じるもので、極めて快適だ。
しかし、次の瞬間にはっと気づく。「いやいや、これは純粋に走りを楽しむためのスポーツカー。こんなに乗り心地が優しくて、ハードコーナリングに耐えられるのだろうか?」そんな疑問を抱きながらワインディングロードへと通じる高速道路に乗ると、そこでも驚きは待っていた。
最新のA110は後車軸の直前に最高出力252㎰の1.8ℓ直4ターボエンジン(次期型ルノー・メガーヌR.S.用と基本的に同じ)を横置きにミッドシップするが、ステアリングから伝わってくる前輪の接地感はまるでフロントエンジンのようで、なんの修正をしなくてもひとりでに直進していくのだ。ステアリングのセンタリング感にも不自然なところは皆無。
もちろん、低速域で感じた乗り心地のよさは100㎞/h巡航でも変わらないどころか、むしろしなやかにストロークする領域が伸びたかのようで、快適性は恐ろしく高い。きっと「このまま500㎞走り続けて欲しい」と頼まれたら、私は2つ返事で「イエス」と答えたことだろう。
しかし、目前に“おいしそう”な峠道があるのに黙って通り過ぎるわけにはいかない。そこで素早い反応の7速DCTを操ってシフトダウンすると、私は高速道路を下りてワインディングロードを目指した。
コーナーをひとつ、2つとクリアして気づいたことがあった。市街地でしなやかな動きを見せたサスペンションはコーナーへの進入時におだやかなローリングやピッチングを誘発するが、それがコーナリングの挙動を遅くしたりドライバーに恐怖心を植え付けることはない。むしろ、コーナー進入時のスピードを把握するバロメーターとして機能するので、心強い存在とさえいえる。
ステアリング操作に対するレスポンスは良好で、まったく遅れがない。しかも、操舵量に対するリニアリティが正確に確保されているので、それこそ最初に飛び込むひとつめのコーナーから狙ったとおりのラインをトレースできる。
このときドライバーはA110の基本レイアウトやディメンジョンがすべてコーナリングを楽しむために設定されていることに気づくはず。クルマの回転中心がドライバーの着座位置に近いうえに、重心位置が低くて重量の前後バランス(44対56)が良好。そして何よりも絶対的に軽量(車重1110㎏)なので、すべての動きに無理がなく、素早く自然にコントロールできる。この素性のよさこそ、A110の最大の強みだろう。
自分の身体がほぐれるにつれてペースを上げていったところ、意外と簡単にスタビリティコントロールが作動し始めることに気づいた。そこでドライビングモードの“トラック”を選択。スタビリティコントロールの介入が遅くなり、オーバーステアやアンダーステアを明確に感じ取れるようになった。
こうしてみると、もともと手足のように操れるライトウエイトスポーツカーだけに、タイヤの限界性能を駆使してのコーナリングは痛快そのもの。いや、A110との対話が一層深まって、言葉では言い表せないほどの満足感を味わうことができた。
SPECIFICATIONS
アルピーヌA110プルミエール・エディション
■ ボ デ ィ サ イ ズ:全 長4205×全幅1800×全高1250㎜ ホイールベ ー ス:2420㎜ ト レ ッド:Ⓕ1555 Ⓡ1550㎜ ■車両重量:1110㎏ ■ エ ン ジ ン:直 列4気筒DOHCターボ ボア×ストローク:79.7×90.1㎜ 総排気量:1798㏄ 最 高 出 力:185kW(252㎰ )/6000rpm 最 大 ト ル ク:320Nm(32.6㎏m)/2000rpm ■トランスミ ッ シ ョ ン:7速DCT ■ 駆 動 方 式:RWD ■サスペンション形式:Ⓕ&Ⓡダブルウイッシュボーン ■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ205/40R18(7.5J)Ⓡ235/40R18(8.5J) ■ パ フ ォ ー マ ン ス 最 高 速 度 :250㎞/h( リ ミ ッ タ ー 作 動 ) 0→100㎞/h加 速:4.5秒 ■ 環 境 性 能(JC08モ ー ド ) 燃 料 消 費 率 :14.1㎞/ℓ ■車両本体価格:790万円
※50台限定のプルミエール・エディション(完売)のボディカラーはすべて「ブルーアルピーヌM」のみとなります。今回の試乗車のホワイト・ボディカラーは実際には設定されていません。