1920年創業だから東京オリンピックの2020年に100周年を迎えるマツダ。このところ好調な業績しか聞こえてこないが、かつて1990年代のバブル期に5チャンネル体制として1500億円という巨額の赤字を記録し、その後フォード傘下入り、リーマンショック直撃などジェットコースターのような乱高下も一段落し、ここ数年は腰を落ち着けて、日本の自動車メーカーとして高いプレゼンスを示している。
フェンダーを抜かれた鉄板が大量に余っては材料費も廃棄物処理費も高くなってしまう。それを車体設計から生産技術まで全員が意思を統一し、高効率なモノ造りを行うことで解消する。
端的に言ってフォーディズムとの対極を目指したものだ。フォーディズムとは少品種、大量生産だが、マツダは小規模メーカーによる多品種、少量生産でありながら少品種、大量生産なみの効率を実現し、それを業績に結実させている。
モノ造り革新のプレゼンテーションで疲れた頭を山口名産の獺祭でリフレッシュして、翌日はマツダの美祢試験場を訪れた。人間工学を研究している自動車メーカーは多くあるが、マツダは「歩行という動作」を研究し、クルマ造りに活かしているというのだ。
技術者の説明によると「頭は通常、体重の10%の重さがありますが、歩行中、頭部は上下に5cm程度滑らかに上下」しているという。だが、それを首筋の筋肉である胸鎖乳突筋でバランスを取っているそうだ。
その首筋の筋肉の動きをどれだけ抑制できるかで、そのクルマの不意な挙動がどれほど大きいかがわかる。さらにこの首筋の筋肉の効果をクルマ側に持たせたのがGVC(Gベクタリング・コントロール)だ。
2年前発表されたこの技術は操舵時にエンジンをミクロ制御するもので、車載コンピューターが運転や路面状況から影響を受ける車両の動きを見て、エンジンの出力を微妙にコントロールする。
そうすることで、たとえば60km/hで定速コーナーリングする際に修正舵を少なくできるのだ。つまり胸鎖乳突筋の力を超えて頭が揺すられることが少なくなる。初心者でも運転のうまい人のような滑らかな操作ができるという仕組みだ。
走る喜び、意のままの走り、つまり人馬一体を突き詰めようとするマツダの、ある種、宗教がかった一途なクルマ造りの一端を垣間見た思いを胸に、空港で買った獺祭を鞄に帰京した。