※データ等は収録時のものになっています。ご注意ください。(2017.05.01)
電動リモコンのボタンを押すと、ウィーンと助手席が上昇し回転しながら引き込まれ、クルマの中へとパッセンジャーを運び込む。あるいは、リアゲートを開き、ボタンを押すとリアの車高が下がり、引き出されるスロープとともにバンパーが下に開き、セーフティベルトをかけた車いすを押し上げる……。お察しのとおり、福祉車両の動きを記述したものです。とはいえ乗り物好きならば、そのメカニカルな所作は、車両がどのような用途のものであれ、気になるのも事実でしょう。反面、そんな目で見てしまってはという気持ちになるのもまたホンネ。でも気遣い無用だと思うのです。超高齢化社会の日本、老老介護に直面している昨今、「うちのクルマにもあったら便利だな」というくらいの気分で使える、買えるくらいに普及することが、福祉車両の装備の最終形態だと思えるからです。いわんや過去のパワステをや、現代の足蹴りゼスチャー電動スライドドアをや、であります。
そんなこんなで、今回は福祉車両の総本山ともいえる、トヨタのメーカー直営店、ハートフルプラザ東京にてお話を伺いましたのでその話を織り交ぜつつお話します。ハートフルプラザは、直営の6店舗、販社展開の4店舗の計10店舗が稼働、多くの車種・タイプの福祉車両を実車で確認できる場所として機能。1号店で、もうすぐ20周年を迎える東京店は、トヨタ車のカスタマイズを施行するモデリスタの敷地内にあります。
数字を幾つか出すと、トヨタの福祉車両であるウェルキャブの2016年度の販売台数見込みは、約1万7000台。近年はトヨタ車国内販売の1%程度で推移しているそうです。仕様別に見ると車いす仕様車(スロープ+リフト)のうち約1万台(58%)、シート系(リフトアップシート・回転シート系)が約6400台(38%)、また電動があるものはそちらの割合が多いとも。
大きな変化としては、障がい者向けが大半だったという当初のユーザーから、介護目的のユーザーが増えてきたコト。とはいえ全体で1%。そのあたりを突っ込むと、「やはり知られていないので、納車になってから、そんな装備があるなら付けたかったといわれることもあります」というハナシも。実際、ディーラーへの来店による販売がデフォルトになった今(セールスマンの訪問販売が主だった頃より)、購入者の家族構成などを完全に把握して車両を提案するコトが難しくなったのも要因ではないかという声もありました。一台のクルマに長く乗るという統計もあるくらいですから、冷静に数年後の家庭環境を加味した相談を一度、販売店や、ハートフルプラザなどでしてみるのもありかもしれません。また、希望があれば最寄り販売店へウェルキャブの展示車両を運び確認してもらうこともできます。
とはいえ、実際のところ、アルファード&ヴェルファイアにある、助手席がセカンドシートとレール共用でグーッと下がっちゃう助手席スーパーロングスライドだって「福祉目的で、車いすの乗員とケアする同乗者を近づけるためのオプション」といわれれば、便利でもなんとなく選択するのが憚られるやもしれませんが「パッセンジャーのシートポジションの自由度を上げる新装備として高級グレードに採用」と言われると、「やっぱこの装備付いてるグレード欲しいよね」と言いやすくなるのもホンネ。ぜひ介護世帯キラーの限定グレードをこういったノリと装備で広げていっていただきたいと思った現場でした。次号はさらにコマを進めて、今回伺ってきたディープでリアリティのある福祉車両選びとカスタマイズのアレコレをお話できればと思います。
それにしても、子供の頃、夏休みの家族旅行で行った旅先に、この先再び年老いた親をウェルキャブに乗せて向かうシーンを想像すると、また別の意味で「FUN TO DRIVE AGAIN」の言葉が染み入りますね。次のクルマ、視野を広げて装備を選んでみてはいかがでしょうか。
左はシエンタの車いす仕様車タイプII。スロープで入ってきた車いすが1.5列目まで前進でき、運転席からケアがしやすい実体験に基づいたレイアウト。できれば運転席がもうすこし後部までスライドしてくれればパーフェクトです。写真中は、ハートフルプラザにディスプレイされた運転サポートの器具類。これらも実際に体験して選べます。右に各社の福祉車両や仕様の呼称をまとめてみました。ホンダでは福祉車両そのものにペットネームはなく、車両を試せるディーラーをオレンジディーラーと呼んでいます。
上に各社の福祉車両や仕様の呼称をまとめてみました。ホンダでは福祉車両そのものにペットネームはなく、車両を試せるディーラーをオレンジディーラーと呼んでいます。
今回はカコミまでトヨタ関係になってしまいますが、タイムリーなのでお許しを。トヨタ自動車のリハビリテーション支援ロボット「ウェルウォーク WW-1000」のレンタルが今秋から開始されるとの発表がありました。この支援ロボットは本体が写真左のロボット脚で一般的名称は能動型展伸・屈伸回転運動装置。各々の患者に合わせた難易度の調整や歩行状態のフィードバック機能など、運動学習理論に基づいた様々なリハビリテーション支援機能を備え、インターフェースも現場スタッフが使いやすくできているとのこと。この装置は脳卒中などによる下肢麻痺のリハビリテーション支援を目的としていますが、我が家の娘は下肢障がいがあるため、こういったカタチのものが普及していくこと、一つひとつから勇気をもらえます。
開発ビジョンは「すべての人に移動の自由を、そして自らできる喜びを」とのこと、技術の応用範囲が広がっていくことを期待したいものです。
著者紹介:古川教夫
クルマとバリアフリー研究家。基本は自動車雑誌編集&ライター&DTP/WEBレイアウター。かつてはいわゆる徹夜続きの毎日だったが、現在は娘さんの介護をしながら9割9分の在宅ワーク。『ドレスアップナビ』(https://dressup-navi.net/)のアンカーや、ライフワークであるロータリー関連の執筆活動等を行いながら、介護経験から見る福祉制度と福祉車両の世界をつづる。2017年2月に福祉車輌取扱士の資格を取得。