この達成のためには、日野車全体のCO2排出量の約7割を占める大型トラックの燃費性能を向上させることが必須と考えられており、技術開発が進められてきた。
すでに同社では2003年に小型トラックの「デュトロ」、2004年に中型トラックの「レンジャー」にハイブリッドシステム搭載車をラインアップしており、今回、満を持して大型トラックの「プロフィア」にハイブリッドシステム搭載車がラインアップされることで、トラックのハイブリッドシステム搭載がフルラインアップとなる。
もっとも「日野プロフィア ハイブリッド」自体は2015年10月の第44回東京モーターショーにコンセプトモデルが出展されていたため、その登場は十分に想定内ではあった。
そのハイブリッドシステムだが、実に先進的かつユニークなものである。
機械/機構部分は基本的には日野が1991年に世界で初めて量産車として発売したディーゼル・電気ハイブリッドバスに搭載した『HIMR(=HINO Inverter Controlled Motor Retarder System。ハイエムアール)』の流れを汲むパラレルハイブリッド方式で、これは「デュトロ」や「レンジャー」のハイブリッド車も同様。
そもそも日野のハイブリッド技術開発は1980年代から始まり、元々はエンジンの高過給小型エンジン化(過給ダウンサイジング化)による排気量低下に対するエンジンブレーキ強化のためのリターダの開発が目的だったが、ある発想から、リターダをモーターとして作用させることで様々に活用できると気付いたことが原点である。
その後、商用車におけるディーゼルエンジンとの組み合わせに最適なハイブリッドシステムを模索した結果、日野は商用車に必要な堅牢、シンプル、軽量でかつディーゼルエンジンとのマッチングには1モーターパラレルシステムが最適であるという結論に達したのだ。
さて、街中での使用がメインとなる小型や中型トラックと異なり、大型トラックはその一般的な運用形態から高速道路での定速走行が中心(日野の調べでは57%)で発進・停止の頻度が少ない(=エネルギー回生の機会が少ない)ため、これまでハイブリッドには不向きな車種とされてきた。それどころか搭載するシステム重量(特にバッテリー重量)によっては、ハイブリッドシステムの搭載は、かえって燃費悪化を招きかねない。
そこで日野は、その質量の大きさゆえに大型トラックの下り坂での減速エネルギーが非常に大きいことと日本の高速道路には勾配が多いことに着目した。
今回のシステムの中核を成すのが先進的なAI(人工知能)技術だ。
まずロケーターECUによってGPS衛星情報や各種センサー情報から自車位置を特定し、内蔵した3D地図情報で標高、勾配、位置を出力。それをもとにAIは100km先までの標高情報を参照しつつ、バッテリー使用のシナリオを作成する。
あとは10kmごとにシナリオを補正しつつ、細かなトルク配分シナリオを作成、それに従ってAIが走行負荷を予測し、最適なハイブリッド制御を行ないつつ走行する。この「先読み」技術は世界初のものだ。
無論、AIは「先読み」だけでなく、普段からドライバーの運転の仕方や渋滞などの道路状況を判定してモーターアシスト量の最適化を図るなどの電力マネージメントを行なう。
このように減速エネルギーを効率的に回生し活用することで、大型トラック特有の走行条件における燃費効果が実現され、社内試験において、ディーゼル車に対し約15%のCO2削減効果(15%燃費向上)が得られているとのこと。
積載性や航続距離といったトラックとしての基本性能および使い勝手はディーゼル車と同等のまま、燃費低減による運行経費の節減が見込め(日野によると大型トラックは年間12万キロを走るので、15%の燃費向上だと年間4700Lの燃料を削減できる。軽油がリッター120円だとすると、燃料費は同56万円の節約になるという)、さらに、モーター走行によって走行中の騒音や振動が低減されるため、ドライバーの疲労軽減にも貢献するという。
また、外部への給電機能も備えているため、災害時の非常電源装置としても活用することが可能とのことだ。
2050年、日野のカタログからは本当に純ディーゼルエンジン・トラックは姿を消している気配が濃厚だ。