REPORT◎島下泰久(SHIMASHITA Yasuhisa)
PHOTO◎PORSCHE AG
ニュルブルクリンク北コースのラップタイムは驚愕の6分56秒4。先代から実に24秒も削り取る速さを引っ提げて登場した新型ポルシェ911GT3RSは、そのタイムアップぶりからも解るように、ハードウェアを大幅に進化させてきた。
もっとも解りやすいところで言えば、最高出力は20ps増の520psに達している。先代と同じく水平対向6気筒4.0ℓ自然吸気ではあるが、このエンジンは昨年登場したGT3から使われている新設計ユニットで、その基本設計は911GT3カップや911GT3R、911RSRといったレーシングマシン用とも共有している。
最高許容回転数はGT3と同じく9000rpm。では、どのようにしてプラス20psを得ているのかと言えば、GT3RSはターボボディの採用によりリヤフェンダーがワイド化され、エアダクトも開いている。そのため、より容量の大きな吸気系を再設計することができ、高回転域での一層のパワーアップが可能になったのだという。
当然、ターボボディの目的はそれだけではなく、拡げられたフェンダーの内側には前20インチ/後21インチのよりワイドなタイヤが収まる。ボディは軽量化のためCFRP製のフロントフードやフェンダー、マグネシウム製ルーフなどを採用。強力なダウンフォースを稼ぎ出すべく更に前方に突き出したリップスポイラー、ブレーキ冷却とドラッグ低減に貢献するボンネット上のNACAダクト、これもCFRP製の固定式大型リヤスポイラーなどの専用空力パーツで武装している。
シャシーのアップデートはGT2RSに準じたかたちだ。ほとんどのゴムブッシュはユニボールジョイントに置き換えられ、スプリングレートはGT2RSと同等、つまり先代の約5割増まで高められている。
やはりGT2RSに倣って、CFRP製のルーフや前後アンチロールバー、そしてシフトパドルに、チタン製のロールケージパーツなどを盛り込んで、更に30kgの軽量化を実現するヴァイザッハ パッケージも設定された。また、公道走行可能ながらドライグリップに特化したトラック用タイヤも、この6月よりポルシェセンターで用意されるという。改めて言うまでもなく、6分56秒4を叩き出したのは、この仕様である。
ニュルブルクリンク グランプリコースでの我々の試乗の機会に用意されていたのはノーマルのPCCB付きという仕様だった。ほぼ10年ぶりに走るコース。最初は慎重に行く、つもりだったのだが……。
コースインしてアクセルを更に踏み込んでいくと、自然吸気フラット6の刺激的なサウンドとレスポンスで、一気にアドレナリンが湧き出してしまった。回転が上昇するにつれてリニアにパワーが高まっていき、ほとんどがターボ化されてしまった最近のハイパフォーマンスカーなら、そろそろ頭打ちになる7000rpmを超えても尚、ますます勢いに拍車がかかってくる。
そう、まさにここからがハイライト。GT3以上に迫力あるサウンド、そして圧倒的なパワーを炸裂させながら一気に9000rpmまで達するのだ。PDKの変速タイミング、そしてスピードも完璧で、Dレンジのままで旨味を余さず堪能できる。この快感の海に放り込まれたら、慎重に行くなんて無理な話である。
そうは言うものの、当然ながら無理は禁物だ。トレッドが拡大され、タイヤもワイドになり、しかもサスペンションにはユニボールが多用されていることから、コーナリングはシビアさを増している。直接比較できたわけではないが、GT3ではバケットシートのホールド性には問題を感じなかったのに、このGT3RSではシートの中で身体が動いてしまって難儀したことを考えれば、速さは間違いなく増しているのだろう。しかし、その領域はナイフエッジのように狭く、少しでも行き過ぎるとPSMがオンのままであるにも関わらずリヤが結構な勢いと量で滑り出す。ドライバーの側も、より神経を研ぎ澄ませてクルマと対峙する必要がある。スペックが向上したからと言って、自動的に速く走ってくれるわけではないのだ。
サーキットをエンジョイするというより、コンマ1秒でもタイムを削り取るべくひたすらに走りを突き詰める。GT3RSは、ドライバーにそういう姿勢を求めてくるクルマである。この精神性は、まさにレーシングカーそのものだと言っていい。
RS=レンシュポルトの伝統は、ここに完璧に継承されている。そうした走りの世界に浸ることに無上の歓びを感じる、ストイックでファナティックな人たちにとって、この新しい911GT3RSはこの上無い1台となるだろう。
※本記事は『GENROQ』2018年7月号より転載。