従来の断絶は1000〜1500回転を迎えないと完了しなかった。遠心力が高まるのを待つのではなく、油の圧力を高めて外に排出させられないか。そのための工夫がデッドエンドと呼ばれるフェーシング表面の切り込みだ。200回転程度で油はその溝に入り込み、回転すると容積が小さいだけに圧力が高まっていく。すると、回転の上昇を待たずとも油はフェーシングを乗り越え始める。これまでが遠心力を利用していたのに対し、本品は回転力を使った製品だとエンジニア氏はおっしゃった。
では、そのデッドエンドが左右ともに刻まれているのはなぜか。時計回りの場合、左側のデッドエンドに油が容易に入り込むのは想像できるが、右側はどのような役目を果たしているのかと問うたところ、ここには空気を溜め込む機能を持たせているという。クラッチの断絶は、回転の上昇に伴って流体、気液混合、気体領域に移行していき、したがって引き離しのためにはより早く多く空気を取り込むのがコツ。右側の溝に空気を溜めておくことで早期の引き離しを実現したという。
これらにより、引き離し完了の回転数は従来比でほぼ半減。アイドル回転数くらいで引きずりが解消できたことになる。そのような回転数でシビアなクラッチ機構といえばロックアップクラッチ@トルクコンバータ。制御は緻密化しているうえに、効率とドライバビリティの両立で湿式多板化しているこの機構なら、「とにかく早いうちにドラッグ低減したい」というニーズは当然うなづける。ATFのような低粘度フルードにおいてもこのような取り組みが求められるあたり、現代のクルマの難しさを目の当たりにした次第だ。