ところが、戦後のモータリゼーションの隆盛により、免許人口が急激に増え、当然ながらその結果、日本全国で膨大な交通違反が起こるようになった。なにしろ昭和40年ですでに交通取締件数は500万件を超えている。これをすべて正式な刑事事件として扱うとしたら、警察も検察も裁判所も動脈硬化を起こすことは自明の理だ。
そこで行政が思いついたのが昭和43年に施行された「交通反則通告制度」、いわゆる「反則金制度」。軽微な交通違反に対しては行政処分を適用し、「交通反則告知書」(青切符)に基づいて違反者が反則金を納めれば、違反者は刑事手続きによる処分を受けなくても済み、前科にもならない、行政側も面倒な手続きが省けるという、まさに、行政と違反者にとって、「Win-Win」な制度であるといえるかもしれない。
では、ドライバーが、その「交通反則通告制度」の適用を拒否した場合、一体どうなるのだろうか。事実、毎年10万人前後が、サインを拒否、あるいは反則金を納めずに、検察庁に送検されているのだ。
上の表は、法務省が公開している「検察統計統計表」の内、2016年に警察から送検された道路交通法違反案件に関する処理状況をまとめた「検察庁別道路交通法等違反被疑事件の受理、既済及び未済の人員」というデータ表だ。その「区検察庁」(簡易裁判所に対応する検察庁)の行(赤字)に注目!
ここに記されている数字は刑事事件(赤切符)の案件と交通反則通告制度の適用を拒否(サイン拒否、反則金未納等)された反則行為(青切符)の案件を合算したものなのでいまいちわかりにくいが、起訴の欄の「公判請求」の列に記された「70」、そして不起訴の欄の「111,743」という数字は、ほとんどが反則行為の処理数であると考えていい。単純に計算してみると「70÷(70+111,743)=0.062644」となり、実に99.93%が不起訴になっているということ(希に赤切符の案件も含まれているが)になる。
もちろん、不起訴となれば「起訴猶予」であろうが「嫌疑不十分」であろうが、刑事事件上では、事実上は無罪放免と同じこと(細かく言えば違うが)。つまり、青切符にサインせず反則金を納めなくても、99%以上の確率で正式裁判に及ぶことなく、反則金(この時点では罰金)の支払いから逃れられるというのは確かだ。
※起訴件数の174,006という数字は、内173,936件が簡易裁判所での即決裁判(略式命令)として処理されているところを見れば、ほとんどが赤切符に関する処理数であることがわかる。
とはいえ、決して100%不起訴というわけではないので、むやみにこの制度を悪用するのは考え物だ。告知センターや区検からの出頭要請を無視したり、何度も同じことを繰り返している人など、悪質と見られたら、検察は必ず起訴に踏み切るはずだ(事実、この表でも70件が公判請求(起訴)されている)。だから、不当と思われる取り締まりを受けたり、自分が納得できないケース以外では素直に違反を認め反則金を払ったほうがいいだろう。もし、起訴され、有罪判決を受け罰金を払うことになったら(ほぼ100%そうなる)、金額はそれほど変わらないが、反則行為とは違い、「前科」がつくということも覚えておこう! 最悪、失職する可能性もある。
ちなみに、例え不起訴を勝ち取ったとしても、ほとんどのケースで違反点数はバッチリ課せられるということを覚えてておこう。警察の言い分によると「刑事処分と行政処分は別物であり、不起訴になったからといっても起訴を猶予されただけであって、違反があったことは歴然とした事実だ(嫌疑不十分も同様)。文句があるなら公安委員会に不服申し立てをしなさい」ということになる。確かに行政処分に不服を申し立てる制度はあるのだが、逆にこっちはほぼ100%、却下される。最後の手段として正式裁判に訴える方法もあるが、それこそ、そこまでして1点や2点の反則行為の点数をチャラにする意義があるのかというと甚だ疑問だ。
もちろん、そんな理不尽をどうしても許せないなら、区険で不起訴証明をもらって、ダ
メもとで公安委員会に不服申し立てをしてみるといい。みんなでこれをやったら、もしかしたら公安委員会も考え直すかも。
いずれにしても、「交通反則通告制度」というのは、ドライバーの意識によっては、いつ崩壊するかわからない、まさに砂上の楼閣といえるだろう。例えば、100万人のドライバーが青切符のサインを拒否し、反則金を払わなけれ、途端に、警察、検察、裁判所の活動が麻痺することになる。現状では98%の違反者が素直にサインし反則金を納めてはいるが、いずれは省力化という意味でも「放置駐車違反金制度」同様、交通違反はすべて、否が応でも所有者の責任になる時代がくるかもしれない。