その内燃機関における技術革新が、ディーゼルエンジンの窒素酸化物(NOx)排出量抑制の実現です。DENOXTRONICと称するこの技術は、ボッシュによれば「この技術を搭載したテスト車両では、1km走行あたりのNOx排出量がすでに平均で13mgまで抑えられており、2020年以降に導入予定の120mgという規制値を大きく下回っています」といいます。
そもそもNOxとは、燃焼時に空気中の窒素が酸素と反応して生じる物質のこと。混合気が空気過多の状態にあるときに生じやすく、勢い、常時リーンで運転している現代のターボディーゼルエンジンでは良好な燃焼が得られるほど生成されるというジレンマがあります。かといって、では空気の量を抑えると燃料が酸素と反応しきれずに燃え残りが発生、これがいわゆるPM(粒子状物質)。あちらを立てればこちらが立たず、NOxとPMのバランスをとるための制御が、ディーゼルエンジンの勘所のひとつだったのです。
「だった」と過去形で記すのは、現在のディーゼルエンジンではPMの問題をほぼ解決できているから。冷間時や高負荷など、運転状況によっては不可避ではありますが、フィルタでの捕集が可能になっているのです。捕集したPMはある程度積層するとフィルタ内で燃焼反応させて再生するというプロセスをとっています。
というわけで、このところのディーゼルエンジンにとってはPM/NOxのバランスも重要ですが、さらに重要視されているのがCO2/NOxのバランスです。燃費ということですね。高パフォーマンスを狙っていくと燃料を使ってしまい、NOxも増えてしまう。ボッシュも「コンパクトクラスの乗用車であれば、燃焼を最適化するだけでも、2014年に発効する欧州委員会のNOx排出限度値(80 g/km)をクリアすることができます。ただ、大型セダン、SUVや大型の商用車の場合は、ボッシュのDENOXTRONICのような排出ガス後処理システムを装備しなければ、この数値をクリアすることができません」と述べていることから、昨今の事情がわかります。
ハイパフォーマンスエンジンや重量車のNOx対策は、今後の規制強化を考えればもはや尿素水溶液を用いるSCR(選択触媒還元)にとどめをさします。欧州勢はAdBlueという愛称でSCRを用いているのはご存じかもしれません。エンジン燃焼で生じたNOxに尿素水を噴射して窒素と水に還元するという仕組みで、そのための尿素水タンクと噴射装置を備えるのが特徴です。当然、このAdBlueも無駄なく最大限の効果を発揮するように使いたいわけで、そのための細かい制御システムがDENOXTRONICです。コンパクトな商用車/SUVなどを含む乗用車用がDENOXTRONIC 5、大型商用車向けにはDENOXTRONIC 6を用意しています。
「5」は本システムにおける第2世代にあたり、もともとは商用車向けだったものが乗用車用に最適化されて2011年に登場しました。AdBlueタンクに尿素噴射のためのサプライモジュールが組み付けられたのが特長で、これによりどうしてもスペース効率を考えなければならない乗用車にとっての福音となっています。噴射圧は4.5〜8.5barで、噴霧粒径は100μmとしています。
「6」は第1世代のバージョンアップ版。リリースによれば「前の世代と比べて、最新のDENOXTRONIC 6のデリバリーモジュールは約3分の1もサイズダウンしており、その上、モジュールは、AdBlueを排気管壁面で付着させることなく、優れた還元反応を維持できるため、効率がいっそう向上しています。また、プラスチックの使用をできる限り抑えたことで、周囲温度が最高140度の環境下でも、調量モジュールを連続して使用できるようになりました」とあります。壁面付着を抑えたいというあたり、筒内燃料直接噴射と同じなんだなあという感想です。
余談ながら、燃焼時にPM/NOxの発生を抑制するための技術のひとつがコモンレールシステムです。高圧で燃料を複数回適宜噴くことで、粒径を細かくして空気とよく混ざるようにして燃え残り(=PM)の発生を最低限に抑えるとともに、燃焼室内の局所的な高温偏在を抑えてNOxが生じにくくするようにしています。乗用車用では現在、最高噴射圧は250MPa、とんでもない高圧であることは数字からもうかがえますね。