こういった水素による低炭素社会を実現するために、産・学・行政の各主体が連携するかたちで取り組みを進めていく地域が増えているが、愛知県も2017 年10月に「あいち低炭素水素サプライチェーン推進会議」を設置。2030年の愛知県内の低炭素水素利活用の絵姿を描いた2030年ビジョン及びその実現に向けたロードマップの検討を行ない、地球温暖化対策を一層推進するため、再エネを活用して、「つくる・はこぶ・つかう」という水素のサプライチェーン全体の低炭素化を推進する。
この2030年ビジョンは、国の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」及び「水素基本戦略」を踏まえ、モノづくり県としての特性を生かし、全国に先駆けて水素社会を実現するため取りまとめたもの。2030年ビジョンでは、「地域低炭素水素サプライチェーンの持続的発展」、「電力、運輸、熱・産業プロセスのあらゆる分野の低炭素化」、「広域的な水素流通量拡大による化石燃料依存からの脱却」を3つの柱として位置付け、今後は産・学・行政の緊密な連携・協力による低炭素水素の利活用と仲間づくりを進めていく予定。また、愛知県が低炭素水素を客観的かつ公平性を持って認証する制度を導入することで、ロードマップに沿って低炭素水素の普及促進を目指す。
本プロジェクトは、2030年ビジョンの実現に向けた第1弾で、県内で再エネ由来の水素を製造、供給、利用する地産地消の低炭素水素サプライチェーンを構築するもの。具体的には、東邦ガスが知多市南部浄化センターで下水汚泥処理により発生したバイオガスを原料として都市ガスを製造し、既存の都市ガス導管網を通じてトヨタの元町工場へ輸送する。このバイオガス由来の都市ガスを原料に、トヨタの元町工場に設置したガス改質装置で低炭素水素を製造、圧縮、貯蔵し、工場内で使用する豊田自動織機製の燃料電池フォークリフト(以下、FCフォークリフト)で利用する。
また、豊田市渡刈クリーンセンターの廃棄物焼却により発生した熱(以下、バイオマス焼却熱)で発電した再エネ電力を中部電力がトヨタに供給することで、バイオガス不足時に使用した都市ガス使用分のCO2排出量はオフセットされるとのことだ。こうした取り組みは、本プロジェクトに限らず、サプライチェーンの上流となる再エネの導入量を拡大していくためにも意義ある。サプライチェーンの周知、普及をはかるため、愛知県は、再エネ資源を活用して製造した水素を低炭素水素として認証する「低炭素水素認証制度」を制定した。今回発表したプロジェクトを第1号として認定した。
各自治体および各企業の役割は以下のとおり。
愛知県:本プロジェクトの構成事業者の調整、低炭素水素製造計画の認定、製造された低炭素水素の認証
知多市:浄化センターの下水汚泥処理で発生したバイオガスを東邦ガスに供給・販売
豊田市:クリーンセンターのバイオマス焼却熱で発電した再エネ電力を中部電力に供給・販売
中部電力:豊田市より再エネ電力を購入、再エネ電力をトヨタに供給・販売
東邦ガス:知多市よりバイオガスを購入、バイオガス由来の都市ガスを既存の導管でトヨタに供給・販売
トヨタ:東邦ガスより購入したバイオガス由来の都市ガスを改質し、低炭素水素を製造、圧縮、貯蔵。元町工場
内の水素ステーションでFCフォークリフトに充填して利用。また、バイオガス不足時に使用した都市ガ
ス使用分のCO2排出量をオフセットする再エネ電力を中部電力より購入
豊田自動織機:FCフォークリフトを製造・トヨタに販売
本プロジェクトでは、水素原料となるバイオガス等の再エネを既存のエネルギーインフラである都市ガス導管や送電網で輸送し、水素利用場所の近くで水素を製造・供給。これにより、水素の圧縮や輸送に要する設備投資や維持管理費が不要となることでコストを抑えることができ、既存のエネルギーインフラを活用するため早期事業化が可能となる。
今後、未利用の再エネ資源としてのバイオガスの発掘・利用や、新規再エネとしてのバイオマス発電や風力発電の開発に取り組むとともに、FCフォークリフトの配備拡大や工場内の業務用燃料電池や小型水素発電等の先行導入により水素利用の拡大を図っていく。