今回は4月末に公表予定の中間取りまとめ案などについて審議が進められ、事務局である国土交通省自動車局整備課から案が示された。
そのなかでは、近年予防安全技術の普及が急速に進んでおり、政府も「安全運転サポート車(サポカーS)」の普及促進に取り組んでいるが、一方でこれら装置に起因した不具合が発生していることや、近年の車両にはOBD(車載式故障診断装置)が搭載されているものの故障コード(DTC)が発生していても現行法では車検に合格する、といった検討会設置の背景を紹介。
また、過去の検討会中の議論において、諸外国の基準と調和すべきとの意見があったことから、欧州と米国の制度を追記。欧州では、車検の最低ラインの統一基準が定められているが各国の裁量は大きく、ドイツではOBDを用いたESCの検査がスタート。米国ではOBD2を用いた排ガス検査が2002年より33の州・地域ですでに始まっていることが記載された。
また、スキャンツールを使った車検(OBD検査)の基本的方向性と対象車両・装置、開始時期については、下記の通り案が示されている。
【OBD検査の基本的方向性】
・「OBD検査」は、車検時にOBDを活用して、保安基準に定める性能要件を満たさなくなる不具合を検知することを目的とする。
・ただし、OBDは技術的に全ての不具合を検知できるものではなく、また検知範囲は搭載技術や自動車メーカーの設計等により異なるため、これらを基準により一律に規定した場合、自動車の設計を制約し、技術の進展を阻害しかねないことに留意が必要。
・OBD検査導入に当たっては、DTCの立て方についてはこれまで通り自動車メーカーが自由に設定できることとした上で、このうち、OBD 検査の対象装置が保安基準に定める性能要件を満たさなくなる故障に係るDTC(特定DTC)を予め届け出てもらい、車検時に特定DTC が検出された場合に検査不合格とする。
・OBD検査の基準(保安基準)は、自動車メーカーにおける開発期間、ツールメーカーにおける検査機器の開発期間、検査実施機関や整備工場における準備期間等を考慮し、公布後一定のリードタイムを置いた後、新型車から適用することとする。
【OBD検査の対象の考え方】
・OBD検査の対象は保安基準に性能要件が規定されている装置とする。ただし、現在保安基準に規定がない装置であっても、将来保安基準に規定された場合にはOBD検査の対象となり得る。ここで、「保安基準に性能要件が規定されている装置」とは、保安基準において設置が義務付けられている装置のほか、設置は義務付けられていないものの満たすべき性能要件が規定されている装置(いわゆるif fitted基準が適用される装置)も含む。
・OBD検査導入に当たっては、第一に、故障時の誤作動等による事故が懸念され、現行の車検手法では故障等の検知が難しい運転支援技術・自動運転技術等を対象とする。
・その他の装置については、OBD検査の負担と効果を見極めつつ、装置ごとにその要否を検討することとする。ただし、排出ガス関係については、現行の保安基準にJ-OBD2基準が導入されていることから、引き続きOBD検査の対象とする。
【OBD検査の対象とする自動車】
1.型式指定自動車または多仕様自動車
2.国連車両区分M1、M2、M3、N1、N2、N3に該当する乗用車、バス、トラック
3.2021年以降の新型車
【OBD検査の対象とする装置】
1.排出ガス等発散防止装置
・細目告示第31条および別添48に規定された装置
2.運転支援技術
・アンチロックブレーキシステム(ABS)
・横滑り防止装置(ESC/EVSC)
・自動ブレーキ(AEB/AEBS)
・ブレーキアシストシステム(BAS)
・車両接近通報装置
3.自動運転技術
・UN/ACSFで審議されるCategory A・B1技術及びその要素技術
*ただし、上記の装置であっても保安基準に性能要件が規定されていないものは、当該要件が規定されるまでの間はOBD検査の対象としない。このほか、上記装置へのOBD検査の導入状況および現行の車検手法の効果を見極めた上で、将来は下記装置についてもOBD検査の対象とする可能性がある。
・車線逸脱警報装置(LDWS)
・オートライトシステム
・先進ライト(自動切替型、自動防眩型、配光可変型等の前照灯)
・ふらつき注意喚起装置
・視界情報提供装置(バック/サイドカメラ、アラウンドビュー等)
・車両周辺障害物注意喚起装置(周辺ソナー)
・運転者異常時対応システム
【OBD検査の開始時期】
検査実施機関における準備や実証のための期間を考慮し、2024年以降とする。
さらに今後、OBD検査を導入するにあたっては、必ずしも故障の原因や個所を特定できないといったOBDの技術的限界を踏まえて「特定DTC」の定義を慎重に行い、かつ「特定DTC」にかかる膨大かつ増加し続ける情報を抽出・管理・運用し、それをOBD検査に用いる「法定スキャンツール」へ適切に反映・認定する制度・体制を構築する必要があることから、中間取りまとめの公開後、分野ごとにワーキンググループを設置。詳細を検討するとともに検証実験を行い、運用開始1年前にはOBD検査のプレテストを行う方針を示している。
このOBD検査が導入されれば、電動化技術や予防安全技術の点検・整備に対応できるのが事実上ディーラー、高価な専用ツールが必要なものはさらに一部の工場に限定されている現状が、少なくとも2021年以降に生産されるクルマについてはある程度解決されるとともに、特定DTCの対象装置は車検時に確実に点検されるため、一般ユーザーにとっても安心してこれら先進技術の恩恵を受けられるようになるだろう。
ただし、自動車技術総合機構は「最初の検査項目である同一性確認・外観検査時にOBD検査を実施することで、速度計および排ガスの検査を省略可能か検討する余地がある」との見解を示しているものの、検査項目が増え1台あたりの所要時間も延びることで、車検時の検査費用が値上がりする可能性は否定できない。
また、過去の検討会で日本自動車工業会(自工会)と日本自動車輸入組合(JAIA)が頑なにOBD検査の導入に異を唱え、警告灯目視による検査の導入を推進したことから、「特定DTC」の抽出・管理・運用には膨大な工数を要することが推察される。その工数はそのまま車両価格に反映され、近年価格高騰が著しい新車がより一層高嶺の花となる可能性は高い。
だが、電動化技術は行政、予防安全技術は行政・ユーザーの双方からニーズが強く、特に後者はスポーツカー以外は対応できなければ市場から淘汰されるほどの必須要件となりつつある。
安全性向上は絶対的な正義であるが、それを盾にしたこれ以上の安易な価格高騰は決して望ましくない。2021年以降のクルマの装備と価格がどのようなものになるのか、注意深く今後の推移を見守りたい。