オートポリスでは、GAZOO Racing 86/BRZレースの車両規定と、車検適合範囲内での改造が許された2つのクラスで開催されるAUTOPOLIS 86/BRZレースが開催されているということで、その開幕戦の取材が主な目的でした。
JAF戦ということでスーパーFJレースも開催され、独特のコンペティションムードが漂うパドックだった一方で、ハイパーレブ誌にもよく登場する丸田小屋やフォレストレーシングといったチューニングショップもエントリーしており、緊張感がありながらもどこか和やかな雰囲気も漂っていました。
そんなフォレストレーシングですが、エントリーリストを見ると86/BRZレースに出走する5台のエントリー名に、すべて「重設工業」の文字が並んでいます。監督でありフォレストレーシングの社長でもある小笠さんに、今年からチーム名に加わった「重設工業」の意味を伺いました。
「3年前、オートポリスで開催されたNetz CUP Vitzレースに参戦したのですが、重設工業の辰野社長も他のチームから参戦していました。そのときは全参戦車両のうち5台が後期仕様だったのですが、後期ユーザーがみな苦戦するなか辰野さんもなかなかタイムが出せないでいたのです。そのときに、後期の乗り方のコツなどをレクチャーしてあげたりしたことが最初の出会いですね」と小笠さん。
そんなフレンドリーな姿勢に共感したのか、レース翌日に福岡・苅田にあるフォレストレーシングの本拠地、ドライバーズカフェ・フォレストに辰野さんは来店し、愛車の面倒を見てほしいと懇願したそうです。その後もお付き合いは続き、2018年シーズンはフォレストレーシングから86/BRZレースに参戦するとともに、チームへのスポンサードを開始したということです。
重設工業とは、福岡県にある建設会社です。それも、橋梁や地下鉄の基礎工事といった大規模かつ特殊な工事を専門にしているといいます。今年55歳になるという辰野孝志さんに、話を伺うことができました。
「私がクルマ好きだということもありますが、わが社が扱っているような建設の分野は規模は大きいですが、実は毎日コツコツと行う作業の蓄積で地味な仕事なんです。これは、クルマ好きがコツコツとクルマをいじって速くしてみたり、カスタマイズするといったメンタリティと共通することが多いと私は思っています。うちの会社にも、そんなクルマ好きに来てほしいですし、『頑張って稼いで良いクルマに乗ってやる!』なんて思っている人に社員になってほしいと本気で思っているんです。うちの社員にもクルマ好きが多いので、私みずからがこうして走ることで、社員のみんなにも走りたいと思ってほしいですね」と辰野さん。
創業してから20年。バブル崩壊後に立ち上げた会社はリーマンショックなどの危機を乗り越えながら、世に広く認められる建築会社となりました。辰野さんは、これまで「社長」という肩書とともに突っ走っり、頑張ってきたそうですが、サーキットで時をすごしてみると、とても新鮮な気分になったと言います。
「社長社長と言われて長い時間が経ちましたが、フォレストのメンバーとしてサーキットで若いチーム員と時を同じくしていると、彼らがいろんなことを教えてくれるんです。50代も半ばになって、こうして教えてもらえる機会を持ったということは、自分自身初心に帰る気持ちにさせていただけますし、本当に新鮮な気持ちになれました。身体面でも同様で、レースに臨むにあたって10kg痩せたんですよ。毎日90分間歩くようになったんです」と笑う辰野さん。
「辰野さんが自分からいろいろ聞きにきてくれるんですよ。FRの乗り方や、ライン取りとか、いろいろ具体的に話をしています。一緒に速くなっていきたいですね」とは、今回の86/BRZレースで総合優勝したフォレストレーシングの石川裕剛選手。
「とても親切で優しい方です。大きな会社の社長さんですが、本当にフォレストの仲間として普通に接してくれています。懐の広い方ですね」とは、同じくフォレストレーシングからサーキットトライアルに参戦した永利康訓さんです。
残念ながら、開幕戦はオーバーレブによるエンジン不調により決勝の出走はならなかった辰野さんですが、自らのドライバーズスキルはもちろんのこと、よりよい人材育成のためのヒントをモータースポーツから得ているに違いありません。
(写真&文:ハイパーレブ渡辺文緒)
※重設工業・・・http://jyusetu.jp/
※ドライバーズカフェフォレスト・・・http://d-c-forest.com/