(REPORT:ケニー佐川 PHOTO:トライアンフ)
今回試乗したマシンは、正確にはMoto2エンジン開発用のテスト車という位置付けだ。そのエンジンとは新型ストリートトリプルRSに搭載される水冷並列3気筒DOHC4バルブ3気筒765ccをベースに大幅な改良が加えられたものだ。エンジン自体の完成度はほぼ100%ということで、まさにこれが2019シーズンから供給されるMoto2エンジンである。
エンジン内部は動弁系からピストン、シリンダー、クランク、ミッションまでほぼ全ての箇所に手が加えられ、吸気効率アップと高回転化により最高出力133ps、最大トルク80Nm(ノーマルは123ps/11,700rpm、77Nm/10,800rpm)まで高められている。シャシーはデイトナ675をほぼ流用したもので、Kテック製前後サスペンションとアロー製レーシングマフラー、鍛造ワイドホイールとスリックタイヤなどが装備されている。実際のMoto2マシンはプロトタイプと規定されているので、本番のレースでは「カレックス」などの有力コンストラクターが製造したシャシーが使われるはずだ。
逆チェンジを踏み込んで1速に入れると意を決してコースに飛び出していく。迫力あるハスキーヴォイスとともに溢れ出す分厚いトルク感はトライアンフ3気筒ならでは。特にミッドレンジのトルクの盛り上がりが顕著で、2速でも容易にスロットルを開けられないほどだ。市販車とのもっとも大きな違いを感じたのは吹け上がりの鋭さ。イナーシャを極限まで削り取ったピックアップの鋭さは未だ体験したことのないレベルで、故にスロットルを操作する自分の反射神経が付いていけずギクシャクしてしまう。さすがは世界最高峰レベルの若手ライダーが集うMoto2のエンジンである。簡単に乗りこなせる代物ではない。
ハンドリングは基本的にデイトナ675と似ているが、より軽量かつハイパワーなため、マシンの挙動はアグレッシブだ。コーナーでは自分のイメージより曲がってしまうので早くインに付き過ぎてしまう。明らかに自分の進入速度が不足しているためだ。このマシンに慣れるにはもっと時間が必要だ。ハードセッティングの前後サスにもなかなか馴染めないまま試乗を終えたが、それでもエンジン自体の持つポテンシャルの高さは十分に体感することができた。
さて、現行のMoto2マシンはCBR600RRベースの直4エンジンが使われている。それとどっちが速いのか、というのが多くのファンの関心事だろう。今回試乗したのは開発テスト車であり、そもそも自分はMoto2マシンにも乗ったことがないので、その問いに対しては明確に応えることはできないが、ただ言えるのは、トライアンフ製Moto2エンジンは相当速いということ。自分もかつてデイトナ675でレースに参戦したことがあるので3気筒の特性を理解しているつもりだが、ミッドレンジに厚いトルク特性は特に低中速コーナーの立ち上がり加速で有利だった。同じカテゴリーの600cc直4勢に対して排気量的なアドバンテージもあったが、今回は765ccということでさらに有利になる。対する直4の強みは高回転域での伸び切るパワーだが、今回のMoto2エンジンは高回転化とともにオーバーレブ特性も向上しているはずなので、その点でも不安はないだろう。ということで、自分的にはMoto2はさらに面白くなると期待している。2019シーズンを楽しみに待ちたい。