日産自動車は「セレナe-POWER」を2月28日に発表、3月1日より全国一斉に発売する。セレナはファミリー層にターゲットを絞った人気のミニバンで、e-POWERという魅力的な電動パワートレインを得たことで、さらに商品力が増した。果たして、セレナe-POWERの実力は?

注目はパワートレインの強化&最適化、新機能の追加

e-POWERといえば、2016年にノートに初搭載して大ヒットとなったパワートレインで、エンジンで発電して電気モーターで走るシリーズハイブリッドである。例えばマンション住まいで駐車場に充電設備が設置できないようなケースでも、低燃費でEVと同等のトルクフルな走行が楽しめるのが大きな魅力だ。

フロントではVモーショングリルがブルーにカラーリングされているところが、e-POWERの識別ポイント。

日産は、このe-POWERを「ミニバン専用e-POWER」へと進化させ、新型セレナに搭載した。ノートe-POWERとの性能比較では、7人乗りミニバンという高負荷に対応するべく、エンジン出力を7%アップの62kWhとしたほか、バッテリー容量を20%アップの1.8kWhに、モーター出力を25%アップの320Nm/100kWにそれぞれスペックを上げている。JC08モード燃費消費率は26.2km/Lでクラストップを誇る。




機能面のトピックとしては「マナーモード」の追加が挙げられる。マナーモードは携帯電話でお馴染みの名称だが、セレナe-POWERのマナーモードは早朝や深夜に静かな住宅街を走る時に役立つ「EV優先モード」のことを指す。バッテリー残量が90%であればモーターだけで約2.7km走行可能だ。マナーモードOFF時の最大走行距離は1.3kmに設定されているので、およそ倍の距離を「EV」として走行できるわけだ。

テールランプの意匠が変更され、LED 3本ラインのストップランプが未来的な印象を醸し出している。

さらに、このマナーモードをフルに活用するため、事前にバッテリーを充電する「チャージモード」機能を追加した。チャージモードは充電を積極的に行うモードで、マナーモードとの連携を図る。具体的な使用例としては、ドライブの帰り道など交通量の多い道路でチャージモードに切り換えて充電、自宅周辺の住宅密集地でマナーモードに変えれば、深夜の帰宅でも近隣に迷惑をかけずに走行できるのだ。




このように、新たなるパワートレインを得て進化したセレナe-POWERの乗り味は? また、日産が「e-POWER Drive」と呼ぶ、ワンペダルドライブの魅力は? 埼玉県の本庄サーキットの特設コースで試乗したので、早速評価してみたい。

Sモードの「S」はSPORTSではなく「SMART」を意味する

埼玉県にある本庄サーキットの特設コースで、セレナe-POWERのワンペダルドライブを体感した。

セレナe-POWERハイウェイスターVでワンペダルの魅力をチェックした。

今回試乗したのは、最上級モデルのセレナe-POWERハイウェイスターV。メーカーオプションの「セーフティパックB」、「LEDヘッドランプ」、「プレミアムインテリア」を装備している(プレミアムインテリアは、カシミヤグレージュ×インペリアルアンバーのみに装着)。




まず、e-POWERのワンペダルドライブを堪能するため「Sモード」で走り始めた。Sモードは、加速・減速ともにe-POWERの魅力が最大限に味わえるモードである。サーキットの特設コースということで、まずはアクセルを強めに踏み込んで発進したのだが、思いのほかマイルドな立ち上がり加速だった。良い意味でEV然としていないのだ。ボディが大きく重いからという理由ではなく、「ミニバンに最適な加速特性」を実現すべく、電流制御によってスムーズな発進を実現したという。

ルーフサイドスポイラー、LEDテールランプ、15インチホイールなどがe-POWER専用の仕様だ。

最初のコーナーでアクセルを戻す……すると、思いのほか減速が強くてコーナーの手前で失速してしまい、アクセルを踏み直す必要があった。これはクルマの性能云々ではなく、試乗開始直後はワンペダル走行が身についていなかったのが理由だ。




1kmほどのコースを1周走ると、2周目からはワンペダルで気持ちの良いドライビングが堪能できるようになった。アクセルを踏むとトルクフルでストレスなく加速していく。そしてコーナーの手前でアクセルを戻すと、自然な減速を始め、ブレーキを踏むことなくアクセルだけでクリアする。ワンペダルの操作だけで加速と減速がドライバーの支配下にあり、これがほかのクルマでは味わえない、とても気持ちの良いフィーリングだ。

セレナe-POWERでワンペダルドライブをするためには、右側にあるSモードまたはECOモードのスイッチを押す必要がある。

次にSモードを解除して「ノーマルモード」で走ってみた。当然なのだが、アクセルペダルを戻してもほとんど減速しない。ノーマルモードは普通のAT車と同じようにセッティングされているのだが、ワンペダルを体感した直後では、いわば“空走感”を強く感じる。その結果、ブレーキを踏まないとコーナーをクリアすることができなかった。




試しに、シフトを「D」ポジションからブレーキの「B」にしたが、Sモードのような減速は得られない。ヘアピンカーブのような鋭利なコーナーをクリアするためには、やはりブレーキを踏まないとクリアできなかった。Bはあくまでも通常のAT車でのOD(オーバードライブ)OFFにあたるもので、それほど減速させない設定なのである。

センターコンソールにあるハザードスイッチの右側に、マナーモードとチャージモードのスイッチが並ぶ。

そこで「B」にホールドしたまま、次のコーナーではSモードボタンを押して制動力を得ることにした。Sモードのスイッチはダッシュボード右側にあるため、走行中に操作する場合は一瞬視線を落としてボタンの位置を確認する必要がある。この操作で「DレンジSモード」となり、もう一度ボタンを押すと「DレンジECOモード」となり、さらに押すと最初のノーマルモードの「B」に戻る。Sモード、ECOモードのときに「B」は選べない。




このときに感じたのは、「B」と「Sモード」(または「ECOモード」)をシフト側で選べれば良いのでは? ということだった。つまり、シフトレバーで「D」「B」「Sモード」「ECOモード」という、4つすべての操作を完結する、という方法である。しかし、それは大きな勘違いであった。




ちなみに、Sモードの「S」はSPORTSではなくSMARTのことだという。取扱説明書に書かれてはいないが、SMART=賢いモードという意味なのだ。であれば、逆にノーマルモードを廃してしまえば良い……と思うのだが、日産によると「いままでと同じように乗りたいというオーナーも一定数存在する」とのことで、ノーマルモードがデフォルトとなっているのだ。




マナーモードはどうか? ちなみに、セレナe-POWERに初採用されたマナーモードやチャージモードを選択するときには「Sモード」または「ECOモード」にしておく必要がある。広くて見通しの良いサーキットの特設コースなので、コーナーの立ち上がりでついついアクセルを踏み込んでしまったのだが、このような状態では、マナーモードであってもエンジンが始動する。つまり、強制的なEVモードではない。逆に静かな住宅街を走るイメージで、アクセルを軽く踏んでゆっくりと走れば、モーターのみの走行となる。走行できる距離は限定的ではあるが、EVに乗っている気分になる瞬間だ。




最後に「ECOモード」を体験した。Sモードとの比較では、発信するときのパワーの出方が少し抑えられたマイルドな加速となったのが分かる。ECOモードは加速時の電力消費を抑えることで、より燃費の良い走りができるわけだ。しかし、アクセルを戻したときの減速は変わらず、Sモードと同じ制御となっている。これはモードを切り換えてもドライバーに違和感を感じさせないためだ。

同乗者にも優しい乗り心地を実現した専用チューニング

e-POWERシリーズは、ノートに続いてセレナが二作目。日産は、今後ラインナップを拡充していくのだろう。

セレナe-POWERの開発テーマは「どのシートでも楽しくて快適」というものであり、これがセレナe-POWERに搭載されたすべてのテクノロジーに通じている。大人数が乗るミニバンということで、すべての乗員が快適に過ごせるような仕様へとチューニングされているのだ。




ガソリン車に対して遮音性能を高めたことで、静かな室内空間も得ている。遮音フィルムをガラスで挟む高級車仕様のガラスやセンターカーへットを4層構造にするなど、じつに25アイテムが遮音仕様となっている。その結果、競合ライバルを上回る「50km/hでも美術館並の静けさ」を実現した。




ノートe-POWERとのパワートレイン比較では、その味付けを大きく変えたことが大きい。スペックは前記したとおりだが、ノートe-POWERでは70km/h以上で最大減速Gを固定化していたのに対して、セレナe-POWERでは高速道路での走行で自然な減速を実現するため、速度が上がるにつれて最大減速Gを緩やかに落としている。これにより、アクセルを緩めた時にも違和感のない減速と乗員への負担を軽減させる効果もある。高速走行時の減速も抑えているのは、高速道路を使って大人数で帰省するなど、長距離を運転することが多いミニバンならではの配慮なのだ。

試乗会当日はセレナe-POWERはナンバー取得前だったため、クローズドコースでの体験となった。

つまり、同じe-POWERであってもセレナは「ミニバンe-POWER」という位置づけでテストドライバーの感覚を中心に開発が進められた。ノートとの比較でセレナのアイポイントは高いので、ドライバーが違和感を感じることなく、自然な加速フィールと感じるように、モーター出力をマイルド方向に振り、同時に乗員への優しさにもつながっている。




試乗後、日産自動車株式会社の企画・先行技術開発本部 技術企画部 主任の江上真弘氏に聞いた。

最初に尋ねたのが、試乗時に感じたSモードやECOモードのスイッチをシフトレバーに移設することについて。

江上氏「ノーマルモードよりも、SモードやECOモードに固定して乗ってほしいと考えていますので、運転中に解除したりする必要はないと考えています。その理由としては、ノーマルモードはブレーキを踏まないと減速しないので、エネルギーを回収することなく捨てることになります。つまり、燃費で損をしてしまううので、走りやすさもあるSモードやECOモードで乗って頂きたいと考えています」

次に、マナーモード時の制御、つまりマナーモードであってもエンジンが始動する点について聞いた。

江上氏「マナーモードであっても、フルにアクセルを踏み込むとエンジンがかかります。これは、バッテリーとエンジンの両方から電流が流れるためで、逆に言えば、フル加速するときは両方から電気を流す必要があるのです。通常モードでは、バッテリー残量がいっぱいある状態であれば、アクセル開度が80%までエンジンがかかりませんが、残量が少ないときにはアクセル開度40%でエンジンが始動します。しかし、マナーモードのときには、いずれの状態でもアクセル開度が80%までエンジンがかかりませんが、アクセルを踏み込むとエンジンがかかるわけです。これは、車速によっても変化する制御になっています」

最後に、今回の試乗では体感できなかった、1名乗車と7名乗車で乗り味はどう変化するかを尋ねた。

江上氏「モーターのトルクを調整して、クルマの重量増に対応しています。回生の力が強くなりますが、同じような減速をするので、基本的な走りは変わりません。また、例えば上り坂と下り坂でも“減速度”を目標値にして制御していますので、ドライバーがひとりでも7人乗車であっても、いつでも同じ感覚で運転することができます」

【結論】 扱いやすさではノートe-POWERを越えた

セレナe-POWERには、進化した「踏み間違い衝突防止アシスト」が搭載された。ソナーに加えてカメラで検知することで、離れた位置のクルマや歩行者に対応し速度も25km/hまでOKだ。従来仕様はソナーだけで約10km/h以下という極低速の近距離のクルマや壁のみだったので、かなり大きな進化である。高速道路の同一車線自動運転技術「プロパイロット」も搭載し、家族の安心・安全にも寄与するミニバンに仕上がっている。

専用フロントグリルなどで武装したセレナe-POWER「AUTECH」は、プレミアムスポーティがテーマ。

セレナの持つ室内の広さと快適性、使い勝手の良さを損なうことなくe-POWERという魅力的なパワートレインを得た。ワンペダル走行をすると、信号機などの加減速が続く街中ではブレーキングによるギクシャク感も少なくなるので、同乗者にも優しい乗り心地となる。そして、なによりも減速するチカラが電気というエネルギーに変換されるので、結果として燃費の良さにつながる。




7人乗りで燃費が良く、静かで、乗り心地が良いミニバン……。なによりも力強い加速と高い静粛性が嬉しい。一度乗れば、アクセルペダルだけで意のままにクルマを操ることができる気持ちの良さは、ほかでは味わえないe-POWER独自の世界。セレナのためにチューニングされた「ミニバン専用e-POWER」により、家族で出かけるシーンでの扱いやすさではノートe-POWERを越えた。




それにしても、この新感覚のドライビングはクセになりそうだ。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 セレナe-POWERの「ワンペダル」は、ノートe-POWERを越えた!!【ミニバン専用e-POWER 体験試乗】